Part53 音楽性の暴力
年末なので二回目の更新です
俺がミューブレ最高のギタリストとなってから、ゲーム内時間で五日。
俺は今酒場でレモンっぽい味のよくわからない液体を飲んでいるのだが、昼の十二時になった途端、急に店内がザワザワとし始めた。
「やべぇぞ! 今回のマンスリーバトルロワイヤル、トップランカーが全員出るんだとよ!」
「マジか!?」
「一位も出るのか!! 前回はあんまりランカーが多くなかったけど、今回は全員か……!」
「やばい時にエントリーしちまったな……」
……と、周囲の会話の内容は大体こんな感じで『マンスリーバトルロワイヤル』というイベントについてがほとんどである。
マンスリーバトルロワイヤルは、読んで字のごとく月毎に行われるバトルロワイヤルのことだ。
月毎に、と言ってもゲーム内時間が基準なので、現実時間なら大体十日に一度行われている計算になる。
今回の開催が第五回なのだとか。
さて、このバトルロワイヤルには当然俺も出場する。
先ほど誰かが「トップランカーが全員参加する」と言っていたが、なんと俺もそのトップランカーの一人なのだ。
レベルなどの数値的な強さの指標がなく、まだ発売してからあまり時間が経っていないこともあって、俺はゲーム内ランキング九位の座につくことが出来たのである。
まさかこんな形でギターの経験が生きるとは思わなかったが、これもまた運命だろう。
ついでに名も知られてしまったが、これはまあ、普通にプレイしていてもフォロワーとかに見つかっていただろうし問題はない。
正体を隠す為の白いコートを翻し、フードを目深にかぶってから、俺は酒場を後にしたのだった。
————
一度ログアウトし、食料の補給など色々と済ませてから再度ログインする。
流石にずっと顔を出さないわけにも行かないので少しヴォックソにログインして、キルカと共に適当なレアモンスターを狩りに行くなどしていたのだが、それもあって丁度いい時間にログインすることとなった。
バトルロワイヤル開始まであと僅か。
俺の愛機——トーナメントの報酬である、燃え盛る炎の様な形状の青いギター『Blue Tachyon』のチューニングは完璧。俺自身のコンディションも最高だ。
『さあ、第五回マンスリーバトルロワイヤルの開幕まであと少し!! なんと今回は第一回でブッチギリの優勝をした彼も含め、全てのトップランカーが集結する過去最高のライブだ!! ペンライトの準備はオーケー? 金はもう賭けたか? ならば良し!! ミュージシャン諸君の準備も整った様だ!! というわけで——第五回マンスリーバトルロワイヤル、スタートだ!!!」
やかましい実況に続いて、けたたましいアラートが開戦を告げ、俺の視界が一瞬歪む。
次の瞬間には、転送によって既に俺はフィールドに放り出されていた。
「よし……行くか」
さあ、転送後最初にするべきことは何か。
それは当然、付近に「二つ名持ち」がいるかどうかの確認である。
このゲームを一週間近くプレイしてわかったことなのだが、二つ名持ちはレベルが違う。
自由度の高いゲームでもあるため、二つ名が付けられるほど尖ったプレイスタイルの人間に対して情報というアドバンテージを持っていなかった場合、訳もわからずに敗北を喫してしまうという事態も容易に想像できる。
wikiによると、現状このゲームには、大体三十人近くの二つ名持ちがいるらしい。その中にはトップランカーである十人も含まれている。
一応前もってそれぞれの対策を考えてはいたのだが、やはり初手から当たりたい相手ではない。
まずは適当なプレイヤーと戦って様子を見るべきだと、俺は判断した。
「おい、あいつトップランカーじゃねえか!?」
「協力しろ! バンド組むぞ!!」
早くも俺に気づいたプレイヤー四人が徒党を組んで襲い掛かってきた。
バンドを組むとか言っているが、即席のものなので四人全員ギターだ。
とは言え、馬鹿にはできない。このゲームはある程度の実力差なら数の暴力で叩き潰すことができる。
その為バトルロワイヤルにおいては、ランカーを叩き潰す為に即席でバンドを組み、目標を達成したら「音楽性の違い」を宣言して食い潰し合うというのがセオリーなのだとか。狂ってんな。
まあ、それでも俺はランキング九位だ。
そこいらのプレイヤーが束になってかかってきたところで返り討ちに出来るほどの実力がなければダメだろう。
「フッ、格の違いを見せてやろう」
銀の長髪を風になびかせ、俺は愛機を深く構え——
「『ドラクロワ』が来たぞ!!」
「ふざけんなアイツ!!!」
——突如割り込んできたそんな声が、戦いを中断させた。
声のする方を見ると、通りの向こうの方から、一人の女性を先頭に大量のNPCの集団が走って来ていた。
あれが『ドラクロワ』か。
このゲームのNPCはボルテージを上げすぎると「モッシュ」と呼ばれる状態になりプレイヤーを圧殺するべく行動を開始するのだが、『ドラクロワ』はそのモッシュ状態を効率よく発動させ、その上でトレインするという滅茶苦茶に迷惑な奴だ。
二つ名が付けられた当初は『モッシュを導く自由の女神』だったのだが、流石に長いので元ネタの作者である『ドラクロワ』になったという歴史があるらしい。ドラクロワに謝れ。
「……うーん、逃げるか」
このゲームのNPCは状態に関係なく常に無敵だ。
ジャズでも聞かせてやれば大人しくなるのだが、まあそれは俺にはできないので仕方ない。
目標達成は不可能だと悟った即席バンドが泥沼の乱闘を繰り広げるのを見つつ、翻って跳躍し、縁を掴んで屋根へと上がる。
そのままパルクールの様な感じで一際高い建物の上へと上がると、そこは丁度フィールドが一望できる良い位置だった。
「いやあ……世紀末だな」
目に見えて治安の悪そうな街並みに、ある所では凄まじい圧の轟音と爆発音が響き、またある所では怪しげな緑のレーザーが暴れている。
同時に、プレイヤーの撃破を知らせる軽い爆発音が断続的に発生し続けていた。
流石にあんな激戦区に行く気にはなれない。
トップランカーの半分以上はド派手なので、こうして明らかな激戦区の場所さえわかればある程度は遭遇を回避できるのが救いだな。
——と、そんなことを考えている俺の背後に濃い気配が漂った。
「!?」
慌てて振り返る俺の目の前に、ゆらり、と。
影の様に歩く、黒髪の女が一人。
それを見た瞬間、俺の全身が硬直する。
「貴方、『速興師』よね。会いたかったわ……」
彼女は虚ろな目のまま俺の二つ名を呼ぶ。
この威圧感は、まさしくトップランカーの一人だ。
そして、その二つ名にも検討がつく。
前情報を調べていた段階で、コイツとの戦闘は避けられないと確信していた。
そして同時に、コイツにだけは遭遇したくなかった。
しかし、もう後悔しても遅い。
このキャラメイクにした時点で、こうなることは決定づけられていたのだから。
ゲーム内ランキング七位。
『羅生門』の二つ名を持つ彼女は、歓喜の色を顔に湛えながらヴァイオリンを構え、呟いた。
「——髪を頂戴」
他人の髪をヴァイオリンの弦にする正真正銘の狂人を前に、俺は全力の逃走を選択したのだった。




