Part52 息抜きは必要だが
このゲームにクリアはない。
あるとすれば、それは己の魂のサウンドの全てを解き放った時に他ならず。
その高みに至る為に、音楽戦士達は敵対する音楽戦士を叩き潰す。
……まあ、つまるところ、これは一種のPVPゲームである。
街中だろうとなんだろうといつでも勝負を挑むことができ、ライブハウスやスタジアムに行けばトーナメントやバトルロワイヤルなどのモードも楽しめるという、そんな感じのゲームだ。
プレイヤーはそれぞれ楽器を持ち、そのサウンドで相手を圧倒すれば勝利……とか言ってるが、普通に演奏するだけで炎とか出てくるし、圧倒するとか言ってる割に攻撃食らったら爆発するし、なんかもう色々と無茶苦茶である。
アシスト機能があるとかで、楽器に触れたことがない人でもこのゲームでは問題なく演奏ができるらしい。
細かいテクニックなどの知識は必要らしいが、感情の赴くまま、迸るままに演奏すれば、それは全て魂慄わすサウンドとなるのだとか。楽器未経験者でもオススメだな。
「ギター多過ぎんだろ!! 勝負!!」
「うるせえ、お前が手放せ! 勝負!!」
急にイチャモンをつけてきたモヒカンのプレイヤーとの勝負が始まる。
余談ではあるが、このゲームはプレイしてから一時間くらいしか経っていなくてもわかる程にギタリストが多い。
バンドメンバーの募集を見ても九割がドラムを求めている。明らかにロックバンドなメンバー達が「和太鼓でも大丈夫」とか言ってたし、本当にドラムいないんだな。
とか言いつつ俺もギターなわけだが。
「食らえ、オレの魂のサウンド!」
モヒカンがギターをかき鳴らし、地を這うような電流が迸る。
あくまでもステージパフォーマンスの一環であるかのような華麗なステップでそれを避け、こちらも反撃を仕掛ける。
「全然響かねえな!」
格ゲーのコマンドのように弦を押さえる位置を変え、一直線に突き進むレーザーを放つ。
相手はこれを読んでいたようで、不敵に笑いながら横に避けるが……
「ぐぁっ!?」
直前でレーザーは大きく横に揺れ、モヒカンの胴を貫いた。
当然、これは意図的に発生させた揺れだ。名を、ビブラートと言う。
これ以前に何戦かした結果分かったことだが、少なくともギターにはビブラートやカッティングなど、実際に存在するテクニックを使うことによって技の性質を変更することができると言うシステムが組み込まれているようだ。
「俺は……負けねえ……!」
「その心意気はCOOLだ」
彼の熱いハートに敬意を払いつつ、俺は撫でるように優しく弦を爪弾く。
舞った風がモヒカンのモヒカンを切り裂き、瞬間、彼は白い煙となって爆発した。
「決まった……」
天高くギターを突き上げると、何処からともなく現れたバックライトが俺を照らし、紙吹雪が舞う。
やべぇ……これ、めちゃくちゃ楽しいぞ。
こんな調子で、若干テンションがおかしくなりながらも、俺はこのゲームにズブズブとハマって行ったのだった。
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割れんばかりの歓声と、ピリピリとした緊張感の中、明らかに武道館を意識して作られたのであろうライブ会場のステージで、俺は激しくギターをかき鳴らしていた。
俺がこのゲームを購入してから、ゲーム内時間で一週間、現実世界では二日と少し。
俺は類稀なるギターの才能を開花させ、この『ミュージックブレイバー』の世界でメキメキと頭角を現していた。
そして俺は今、ギタリスト最強を決定するトーナメントの決勝の舞台に立っている。
相対すは、全身から銀色の棘を無数に突き出した世紀末覇者の様な男。
名を、ヴァトルクライ。
『デストロイヤー』の異名を持つ、ゲーム内ランキング九位の男である。
『さあ!! ステージの開演から既に二十分が経過致しました!! 優勝候補である『デストロイヤー』ことヴァトルクライ選手に対抗するのは、無名の新人ナツレン選手!! 両者一歩も譲らぬ戦いですが、やはりデストロイヤーが優勢でしょうか!! その物々しい異名の由来であるギター捌きを見せていないのです!!』
実況の言う通り、相手は優勝候補だ。
事実、彼はこうしてその下馬評通りにここまで来ているし、『ギターを鈍器として扱う』という邪道に近い十八番も未だに使っていない。
しかし、奥の手を隠しているのは俺も同じだ。
つまり、このライブは互角と言っても過言ではない。
相手もそれに気づいているのか、ここに至るまでのどの試合よりも険しい表情でギターをかき鳴らしていた。
風が吹き荒れ、火が燃え盛り、闇が蠢き、光が迸る。
そんな接戦が三十分に達した時——最初に動いたのはデストロイヤーだった。
「おおおおおおッ!!!」
彼は左手でギターを弾きながら、右手でインベントリからギターを引きずり出して俺に迫ってくる。
一撃で死ぬことはなくとも、一度当たってしまえばその後なし崩し的に敗北へ追い込まれるのは必然だ。
だが、しかし、そんな攻撃が俺に通用するはずもない。
「俺に大振りの攻撃なんか効かねぇよ!」
ヴォックソで培った回避盾としての技術を存分に発揮し、俺は踊る様に全てのギターを回避した。
観客がより一層沸き立ち、デストロイヤーの顔が明確な焦りの色を浮かべる。
物理攻撃がなくとも彼は強い。しかし、彼の叩きつけを全回避したことによって、俺は圧倒的な精神的アドバンテージを得た。もはや勝負は均衡ではない。
そのように俺が勝利を確信した瞬間——デストロイヤーはニヤリと笑った。
「おおおおォォォォォアア!!!」
雄叫びと共に彼がインベントリから引きずり出したのは、黄金色に輝く、巨大なグランドピアノだった。
『ああーッと!! デストロイヤーがインベントリからグランドピアノを取り出したーッ!! 今までに一度も見たことがありません!! 正真正銘、彼の奥の手と言えるでしょう!!』
デストロイヤーはその剛腕でグランドピアノを持ち上げると、真っ直ぐに俺に向かって投擲した。
「くっ……!」
勢いよく地面に激突したグランドピアノが音を立てて砕け散り、その破片を辺りに撒き散らす。
速度も範囲も桁違いだ。
すんでの所で直撃は免れたが、しかし、それでも体力がかなり削られてしまった。
ゆっくりと起き上がると、デストロイヤーは最早勝負は決まったと思っているようで、ギターをグルグルと大きく回すパフォーマンスすらして見せる。
その油断が命取りであると、今から証明してみせよう。
「楽器は、壊す物じゃねぇ……表現する為の物だ!」
深くギターを構え、思うがままに弾き鳴らす。
そしてそのまま徐々に速度を上げていき——俺の出せる最速のギターソロを弾き放つ。
俺の奥の手。それは、純粋な『速弾き』である。
始まりは、もう十年以上前だろうか。
あるギタリストの速弾きを見た俺は、取り憑かれたようにギターの練習をし続けた。
そのギタリストは性格面では普通に最悪だったが、しかし、そんな雰囲気さえもカッコいいと当時は思っていたような気がする。
今ではギターは趣味でたまに弾く程度ではあるが、VRゲームという環境において、俺のギターテクニックは覚醒を遂げた。
現実でやれと言われても多分できないだろう。あくまで、VRだから出来ることだ。
圧倒的な音による弾幕に、デストロイヤーは慌てて応戦し始めるが——もう遅い。
相手の演奏にアドリブで合わせ、全ての攻撃を打ち消し、その上で俺の攻撃を差し込んで行く。
紫色の霧が漂い、風と火が吹き上がる。
そして最後に放たれたレーザーが七色に分かれ、デストロイヤーの全身を貫くと、彼は大きく断末魔をあげて爆破四散した。
一瞬の静寂。そして——
『——勝者は、ナツレン選手だーーッ!!!』
——実況の声が俺の名を告げた瞬間、観客が熱狂に沸き上がる。
こうして俺は、『ミュージックブレイバー』内のギタリストの頂点に立ったのだった。




