インタールード-2
『異世界の灯よ……復讐者よ……我が宿願を任せる』
「イベント?」
「多分な」
恐らくイベント的な奴だろう。距離に関係なく入ってくる骸王の声に耳を傾ける。
『……かつて、我は家臣に弑逆された。……奴の名はペルカ=インディベリ……死神の名を冠する男だ』
「死神……」
死神と名乗る男に、俺は心当たりがあった。
俺がこのゲームを初めて一番最初に出会った男……キャラメイクを行ったときのNPCが、死神と名乗っていた筈だ。
『……世界には、棄てられた終局が存在する。死神は其れ等を……解放しようとしている……』
『死神を、アルカナを止めてくれ……貴殿らならば、其れも可能……』
その言葉を最後に、玉座に深く座り込んだ骸王は、動きを完全に止めたのだった。
「アルカナ、か」
「なるほどねぇ……アルカナシリーズっていうの、wikiで見たことあるなぁ」
「じゃあ、キルカを連れていたから聞けたセリフって訳でもなさそうだな」
……と、俺がふとキルカに目を向けると——
「か、身体が、熱いぞ……」
そう言って、キルカは地面にうずくまるように横たわった。
「大丈夫か!?」
心配して駆け寄ると、俺の手の甲が紅く光を放った。
三本の傷痕の内、まだ紅く染まっていない一本が徐々に色を変化させていく。
やがてそれが完全な紅に染まりきったとき、ズズズっと蠢くような音を立てながら、キルカは徐々に姿を変えていった。
毛が縮み、四肢は長く、骨格ごと変化してゆく。
やがてその身体が完全に人間と同じものになり——
「やった……人間になれたぞ、ご主人!」
何処から現れたのかわからない服を纏い、無造作に伸ばされた長い髪を振りながら、キルカは自分自身の身体をキラキラとした目で眺めた。
人間体になっても傷痕は残っているようで、火傷痕や顔の傷などが目立つが、まあキャラメイクでそういう傷をつける人間は割と多いのでそこまで目立つことはないだろう。
……そんな風にキルカの身体を見て、俺は思わず疑問を声に出した。
「…………え、女だったの?」
「ご主人、オスだと思ってたのか!?」
俺とキルカのやりとりを見て、幻水は楽しそうにケラケラと笑うのだった。
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アルカナシリーズ。
それは、通常のユニークモンスターよりワンランク高く、それぞれがストーリーに関わっているであろう存在。
予想通りであれば世界に二十二体存在するそれらの内、攻略wikiに名前が載っているのは僅か二体。
『死神』のペルカ=インディベリと、『皇帝』の厄鴉である。
そのどちらも名前がストーリー上で明かされたものであり、プレイヤーの間では、まだ実装されていないのではないかという意見が大半を占めている。
今後、新しい大陸が追加されるという公式発表もあったため、確かにそう考えるのも自然だ。
……だが、しかし、そうではないという事を、彼女は知っていた。
『月』の称号を冠するアルカナシリーズ、『リーサル・エクリプス』の存在を、彼女は秘匿しているのだった。
正確には、完全な秘匿ではない。
一度目の挑戦で、予想だにしなかったギミックが発動した結果、同盟相手にその存在は把握されてしまっている。
勿論、その場所が何処なのかについては知られていない。だが同時に、いつバレてしまうかもわからない。
だからこそ、なるべく速く倒さなくてはならない。
だからこそ、新しくアルゴノーツに入ってきた三人——リンネ、ナツレン、ココロアの三人を、鍛え上げる必要がある。
「ナツレンくんはもうユニーク握ってそうだし、二人の分を考えておこうかな……」
新しい爆弾を作りながら、彼女はそう呟いたのだった。
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その部屋に窓は無かった。
壁一面に設置された大型のコンピュータは規則正しく明滅し、そこから伸びる配線は、室内に存在するそれぞれの端末へと接続されていた。
室内にいるのは、四人の男女。
端末の数はそれよりも多く、つまりはこの場に来ていない人間がかなりいるのだが、元より協調性など求められていない。
その中で、普通の会社であれば部長などが座るであろう位置に置かれた椅子に深く腰掛けた男が、ふと声を上げた。
「そういえば、タレントスキルは増えたか?」
「はい、前回から四人程増えています」
その声に応えた銀髪の女性が、手元の資料に目を落として淡々と名前を読み上げる。
「ヴァンバーグ、影無、超新星爆発、ココロア……以上の四名が獲得したようです」
「なるほど。まあ、良いペースかな」
そう言って彼は立ち上がり、「会いに行ってくる」とだけ言い残して何処かへ行ってしまった。
銀髪の女性もその後に続き、部屋に残ったのは、眼鏡をかけた白人の男性とマスクを着けた黒髪の女性だけだった。
「……あいつ、実装の方は進んでるのか?」
「さあね。まあ、間に合わせるでしょ。あんたこそステージ平気なの?」
「ああ、当然だ。俺の娘の為だからな。尽力は惜しまん」
「相変わらず親バカね……」
マスクの女性は、大きくため息を吐く。
明滅する装置が、妖しく室内を照らした。




