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Part49 世界の為に灯を待つ



 未だ閃光の残るフィールドを走り、幻水達の元へと戻る。

 幻水もキルカも、既に痺れは治っているようだ。



「凄かったぞ、ご主人」


「ナツレンくん、避けタンクなの? それとも火力職なの?」


「極限まで防御を削って、不本意ながら運も削ることでたどり着く境地だ。多分」



 このゲームのステータスに果ては無いが、成長には明確な壁が二つあるらしい。


 それぞれのパラメーターは3000を超えると伸びが鈍化し、更に全てのパラメーターの合計が10000を超えると全体的な伸びが鈍化する。


 やろうと思えば防御力10000とかも出来なくはないのだろうが、現実的ではない。

 そもそも極振りが最強に直結するなんていうのが幻想だ。

 捨てパラメーターはそのまま弱点に直結する。

 残りのパラメーターでそれを補うことができればいいが、一つに振ってしまってはそれもままならないだろう。



 狙ってパラメーターを振り分けるのは上手くいかない時もあるが、特定パラメーターの値を下げる食べ物もあるようなので、鈍化域に達したプレイヤーはそれを使って調整していたりもするのだとか。


 俺の場合、調整するとしたら物理防御と魔法防御は完全に削ってしまって良いだろう。

 生命力や、あまり使わないであろう魔法攻撃力はわざわざ削るほどでもない。

 弱体抵抗力に関しては、攻撃を食らわなければどうということはない……などということはなく、状態異常付与のみを目的とした攻撃は回避不能であることが多いので、あまり削りたくはない項目だ。


 その上で、物理攻撃力、継戦能力、総合思考力に全ブッパしていくのが俺のプレイスタイルには合っているだろう。



 ……と、そんなことを考えている場合ではない。

 俺の予想ならば、これで終わりではないはずだ。


 段々と、フィールドを満たす光が収まって行く。

 果たして、骸王は変わらず立っていた。

 剣を両手で持ち、杖のように地面に突き立て、その背後には複数の黒剣が円形を成して浮かんでいる。


 ペイルライダーに形態変化があったのだから、まあコイツにもあるだろう。

 文字通りに形態が変わったという感じではないが、確実に次のフェーズに移行している。



「私もここまでは来たんだよねぇ。ちなみに言っておくと、あの黒い剣は破壊できるから弱点かも」


「なるほどな」



 壊せるということは、全て破壊すると何かが起きるタイプのギミックである可能性が高い。

 闇雲に戦わなくて済む分、かなりのアドバンテージを得たと言える。



『我が剣に集い、舞え——《暗軌執統》』



 骸王が手に握った剣を前に突き出すと、背後に並んだ黒剣が行動を開始する。

 軍隊のような一糸乱れぬ動きで回転しながら宙を舞う剣の切っ先は、全て睨むように俺たちに向いていた。



『次なる力を見せよ、灯火』



 骸王の虚を湛えた眼孔が、俺たちを見つめる。

 手が震えるのは、身体が恐怖を感じているのか、長時間プレイによる影響か。

 ……どちらかというと前者の方がいいな、うん。



「まあいいや、行くぞ!」


「うん!」


「はいはぁい」



 俺を中心に、キルカと幻水が散開する。

 同時に、ヘカトンケイルを笛に変えて《挑発律:独奏》を奏でる。

 効果があるか不安ではあったが、全ての剣が俺へと向けられたので上手くいったようだ。



「さあ来い、剣が九本増えたくらいじゃ俺は止まんねえぞ」


『クク……乗ってやろう』


「あっこういう挑発も聞くタイプか」



 明確な殺意を伴って、漂う黒剣の内五本が俺へと急接近する。


 逃げ場は——ここか。


 身体を斜めに倒しつつ右足で強く地面を蹴り、フィギュアスケート選手もかくやと言うほどの回転をしながら、横薙ぎに振るわれた剣の間を抜ける。

 続く四本の追撃も、《エアグライド》を使用した不規則な動きで全て避けて行く。



「——貰った!」



 追撃の四本の内、最後の一本だけは上手く迎撃をした。

 腕に衝撃の入らない方向の攻撃だ。反動ダメージはない。

 しっかりと芯を捉えた一撃は、黒剣にびっしりとヒビを入れ、破壊した。


 ああ、やはりただの剣ではなく、魔法によって実体化している剣のようだ。

 まあ、だからと言って何かが変わるわけでもないが。

 物理防御と比べたら魔法防御は幾ばくか高いが、多分直撃したら魔法だろうがなんだろうが即死だろうし。



『七之剣——《深星廻》』


「《アルファ・ドゥーベ》!!」



 回転ノコギリのような回転で迫る剣を避け、その一つに八芒星を刻みつける。

 これで、二つ。



「私たちも負けてられないよねぇ」


「当然だぞ!」



 爪と牙の魔法を同時に発動させ、キルカは高く跳躍した。

 噛み砕く牙の一撃と、駄目押しの爪撃は、黒剣を噛み砕き破壊する。



「見えてるよう——《絡む呪蔦(アイヴィー・バインド)》」


「……! 助かったぞ!」



 背後からキルカに迫っていた剣も幻水の蔦によって押さえつけられ、牙の魔法によってそのまま噛み砕かれた。



『三之剣——《骸紅》』



 三つ、四つと剣が破壊される度に新たな技が発動されるが、剣の動きにも対応できるようになってきた。

 幻水とキルカも平気そうだ。


 ……っと、ここでキルカの覚醒スキルが使えるようになった。

 ペイルライダー戦で使った巨大化のやつだ。確かに強力だが、この状況では悪手な気がする。

 攻撃の軌道が自在なやつ相手に巨大化しても的がデカくなるだけだろう。



「このまま押し切るぞ!」



 残る三本の剣を視界に捉え、空を駆けて進み、砕く。

 やはり幻水のデバフのお陰で相当戦いやすくなっている。やはりソロはもう厳しいか。



『一之剣——《明星》』



 ゴウと音を立て、その刀身が巨大に見えるほどの剣圧を纏いながら、最後の一本が迫り来る。

 反撃したいところだが……動きが余りにも速い。

 避けるので精一杯だ。



「幻水、なんかないか!?」


「ふふふ、奥義使っちゃおうかなぁ……っと」



 どうやら、策はあるらしい。

 ペン回しのようにくるくると回していた杖をビシッと黒剣に向け、彼女は詠唱を始めた。



「——原初の魂に通ずる呪言、絶対なる遵守を強いる調律。神代の外法を、今此処に——《眠れ》」



 その瞬間、まるで時間が止まったかのように、黒剣がピタリと動きを止めた。

 流石、奥義というだけあって効果が凄まじい。



「うーん……これあんま持たなそうだから、早くしてね……」と、幻水が苦しそうに声を上げた。



 ……こんな時に限って、ティースリーで幻水から戦略的フレンドリーファイアーを幾度となく受けた記憶が蘇ってしまう。

 苦しむ様を仕返し的に眺めるのも良いが、まあ、流石にやめておこう。


 剣を振るい、その軌跡に奔る一条の光が、最後の黒剣を砕いた。


 それを確認してから、俺は一息に骸王から距離を取る。

 何があるかわからない以上、用心するに越したことはない。

 ペイルライダーが第三形態まであったのだから、骸王が更に形態を変えても不思議ではないのだ。


 しかし、そんな俺の考えは、目の前に[骸王ヴァンデリック五世を撃破しました]という表示が現れたことによって杞憂に終わった。

 


『貴殿らの武……確と理解した』



 彼はしわがれた声でそう言って、剣を鞘へ収めた。


 思ったよりあっさりとした幕引きだったが、間違いなく勝てたようだ。



「疲れた……糖分が欲しい」


「お疲れ〜。やっぱ攻撃役が増えるとやりやすいねぇ」


「満足したぞ!」



 急造パーティーではあるが、何気に息が合っていたような気がする。

 キルカとは最初から抜群のコンビネーションを発揮していたし、幻水とは……不本意ではあるが、お互い何を考えているかわかるくらいには、戦場を共に駆けてきた。


 さて、そんな風に各々が喜びを露わにする中——



『異世界の灯よ……復讐者よ……我が宿願を任せる』



 骸王は、ポツリと語り始めたのだった。

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