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Part4 vsレアモンスター



 ——目を覚ますと、完全に身ぐるみを剥がされていました。



 PKされると所持アイテムや金を奪われるというのは知っていたが、まさかここまでごっそり持っていかれるとは。

 装備もアイテムも、全て持っていかれた。

 おかげで今俺は、パンツ一丁で街中に佇む変態になってしまっている。

 所持金を見てみたところ39アインだけ残っていた。煽ってるよな?これ。

 単にサンキューの語呂合わせだけでなく、一番安い木刀が40アインであるというのも含めて最悪だ。



「あの人なんで全裸なの?」「変態……?」「露出狂なのかな……」「良い筋肉だ!」



 とにかく、ここにいては通報されかねない。

 安寧の地を求め、俺はなるべく人目につかないように路地に入った。



 武器になりそうなものとして、落ちていた細長い角材をありったけインベントリにぶち込んだが、肝心の衣服はどこにも落ちていない。

 当然服が落ちているわけがないのだが、せめて顔を隠すくらいはしたい。

 いくらバーチャル空間だとしても、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


 ゴミを物色し、顔を隠せそうなものを探す。

 普通なら装備品ですらないガラクタも、頑張れば着こなすことができる。そう、VRならね。

 ……こんな宣伝を考えてみたが、どうだろうか。



 さて、いくつかのゴミ捨て場を漁り、ようやく被れそうなものを発見した。

 草を織って作られたそれは、被ることで顔を完全に覆い隠してくれる。覗き穴もあるので視界も良好だ。

 


「……つーか深編笠じゃん」



 これを装着してしまうとその瞬間に『角材を持った裸体の虚無僧』が誕生してしまうのが難点だが、背に腹は代えられない。


 意を決して被り、大通りに躍り出る。



「ひえっ……」



 すれ違ったプレイヤーが小さくガチ悲鳴を上げる。

 心に刺さるのでやめてくれ。


 心なしか何もつけていないときに比べて視線が冷たくなっているような気がしたが、もはや考えても仕方がない。全力で走り、村の外へと出た。



 これから何をするかは特に考えていないが、とりあえずは、倒せるだけ敵を倒してみようと思う。

 どうせスライム相手でも一撃食らったら重症負って動きにくくなるし、その上二撃目でしっかり顔面に当てて殺してくるので、装備などあってないようなものなのだ。



「おらぁぁぁっ!!覚悟しろスライム!!」



 PKの被害にあって溜まった鬱憤を、角材に乗せて叩き込む。

 意外にも、角材なのに《構え》の効果は発揮されているようだった。



 こうして、何十匹ものスライムを倒し、十回ほどリスポーンをした俺のステータスは、先ほどと比べて確実に変動していた。




——————————————

   [名前] ナツレン

   [職業] 侍

  [所持金] 196アイン


  [生命力] 40

[物理攻撃力] 41

[魔法攻撃力] 20

[物理防御力] 35

[魔法抵抗力] 20

 [継戦能力] 30

[弱体抵抗力] 20

[総合思考力] 33

  [運命力] 0


パッシブスキル:《構え 13%》《流風(ながしかぜ) 0%》

——————————————



「うーん……」



 おそらくだが、このステータス、関連する動作を行うことで上昇しているのではないだろうか。

 前回から大きく上がっているのは、物理攻撃力と物理防御力。逆に、魔法に関するパラメーターと弱体抵抗力や運命力は全く上がっていない。

 運命力……についてはとりあえず置いておいて、上がっていないパラメーターはそれに関連する行動を行なっていないからだろう。


 俺は魔法攻撃を使っていないし、スライムも魔法攻撃を使ってこない。

 厳密にはスライムは跳躍のタイミングで魔法を使っているようだが、物理防御力が上がっているところを見るに攻撃自体は物理攻撃としてカウントされているのだろう。

 状態異常に関しても同様だ。仮にスライムが毒を使うような種類であったなら、このパラメーターも上昇していたのだろう。



「ってか、スキルも増えてるな」



 新しく追加されていたパッシブスキル《流風》の説明を見る。

 相手の攻撃を回避した際、少しの間動きやすくなる……というものらしい。

 いつ習得したものかはわからないが、少なくとも回避を主体とする今の俺に適したスキルだ。意識して使っていこう。


 一応スキル習得の方も見てみたのだが、かなり複雑そうなので今は無視することにした。経験者に聞いてからか、必要に迫られたときに習得すればいいだろう。



 ふと空を見上げると、日は沈みかけ、オレンジ色の雲が流れていた。

 キャラメイクに時間をかけたとは言え、10時間ほどぶっ通しでプレイし続けてしまったようだ。

 これが神ゲーの魔力か。まあクソゲーでもそのくらいやるけど。



 今日のところは一旦ログアウトしよう。

 そう思ってメニューを操作していると、視界の端に、あるモンスターが映る。

 緑色の皮膚に、ボロボロの服。人間の半分以下の背丈のそれは、まさしくゴブリンであった。



「ゴブリンもいるのか。皆勤賞だな」



 ファンタジー系RPGにおいて、スライムを上回る出演率を誇るモンスター、ゴブリン。

 街の近くをうろちょろしていただけなのでスライム以外のモンスターを見ていなかったのだが、戦闘を繰り返すうちに少し離れてしまったのだろうか?



「……倒せそうなら倒すか」



 そう思ってそのゴブリンの名前を確認すると、[カースゴブリン]と表示される。

 ただのゴブリンじゃないのか?と思いつつ、もう一度見てみると、その名前の横で輝く二文字に目が止まる。



 [カースゴブリン][レア]



 ……なるほど。これも日頃の善行の賜物だろうか。

 レアモンスター。その名の通りレアなそいつらは、ほとんどの場合においてレアな何かを落とす。

 このゲームにおいてもそうなのかはわからないが……


 

「これは倒すしかねえな」



 俺の好奇心は、こいつを倒す方向に舵を切った。



 耐久度の減った角材を投げ捨て、インベントリから別の角材を取り出す。

 まだ在庫はいくつもある。壊れても問題ない。

 スライムには遅れをとったとは言え、最初から難易度が死にゲーレベルであると分かっていれば、対処はできるだろう。


 気配を消し、カースゴブリンに背後から近づく。

 範囲知覚をするタイプではないらしい。間合いの範囲内に入ることのできた俺は、上段の構えで、カースゴブリンの脳天に勢いよく角材を叩きつけた。



「グルギュエッ!!?」



 奇妙な声を上げてよろめくカースゴブリンに、すかさず二撃目、三撃目と続ける。

 続く四撃目はギリギリで躱され、飛び退いたカースゴブリンは、正面かこちらを見据えた。

 構えを下段に切り替え、相手の行動を待つ。


 先手必勝とばかりに、カースゴブリンが杖を振る。

 魔法か——と考えた瞬間、地面が一瞬震えたような、そんな感覚が足に伝わった。



「やべっ」



 直感的にステップで退くと、さっきまで俺がいた場所を刺し貫くように、巨大な何かが地面から現れた。樹の根だ。

 この軽装(ほぼ全裸)で食らったらひとたまりもないだろう。貫かれて死ぬか、打ち上げられ、落下ダメージと合わせて死ぬかの二択だ。

 ただ、強力な分回避は容易い。杖を振るうという予備動作さえわかれば対処できる。



 二度目の根攻撃を避け、中段で数発攻撃を叩き込む。

 スタミナ管理を並行して考えながら、次の攻撃を予測する。

 ゴブリンは二度爪での攻撃を行ってから、距離を取って杖を振った。また同じ攻撃……



「じゃねえな!?」



 杖の振り方が違う!

 気づいた瞬間、紫色の濃い霧のような塊が俺目掛けて放たれた。

 慌てて……しかし余裕をもって躱し、ゴブリンに気を配りながらその魔法を目の端に捉え続ける。根の攻撃に比べ、若干回避の猶予が長いところに違和感を感じたのだ。何かしら別の効果があってもおかしくない。

 予想通り、霧の塊は少し進んだところでUターンし、もう一度俺目掛けて迫って来た。

 それを難なく躱し、ゴブリンに肉薄する。素早い攻撃を数発叩き込み離脱。


 基本的に魔法の後隙を狙えば爪の攻撃は出てこない。

 となれば、二種類の魔法を回避し続ければ勝てる……と思った矢先、ゴブリンはまた違う杖の振り方を見せた。



「お前嘘だろっ!?」



 レアモンスターとはいえ、序盤に出てきていい敵じゃないだろ。


 杖から放たれた冷気は上空で固形化し、氷柱となって降り注ぎ、地面を穿った。

 一度の魔法で三本の氷柱が生じるようだ。

 他の魔法に比べると初見殺し要素は薄いが、その分避けにくい。気を抜くと身体の一部を潰されてしまいそうだ。



 しばらくはこのような感じで、三種類の魔法と鋭いかぎ爪による近接攻撃を躱しつつ、継続してダメージを与え続けた。


 それが数十分続き、角材を八つほど消費したあたりで、突如としてカースゴブリンの持つ杖が赤く光った。

 今までになかった行動……つまり、HPが減ったことによる特殊行動だろう。

 俺にとっては嬉しい知らせだ。このゲームはダメージもHPバーも表示されないので、ダメージを与えられているのか不安だったのだが、問題はなかったようだ。


 厳密には時間で発動する特殊行動も存在するのだが、レアとはいえ序盤のモンスターにそれは備わってないだろう。そういったモンスターは基本的に全てが特殊なパターンで動いていたりする。



 赤く光る杖が振るわれる。

 現れたのは、地を焦がしながら進む、蛇のような炎だ。

 蛇は暴れ回るように地面を這い、俺の首を狙って跳躍した。

 見えていれば躱せる、のだが……



「まあそれだけじゃないよな……」



 蛇は躱しても消えず、何度も俺の首に攻撃を仕掛け続けていた。炎の蛇、おそらく永続だ。


 つまり俺はこれから、この蛇を躱しつつ、ゴブリンの三種の魔法を躱し、その隙を角材でぶん殴る……という地獄のような作業を数十分ほど繰り返さないといけないらしい。



「…………やってやろうじゃねえか!!」



 月明かりが照らす大地で、一匹のゴブリンと一人の男は、全力でぶつかり合うのだった。

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