Part46 共犯者
アトランティスに行っていたので投稿が一日遅れました。
「やあやあナツレンくん!」
「よう」
待ち合わせ場所に指定されていたゼーヴェンクライツの外れにある喫茶店『夜叉熊之肉林』で、俺は幻水と落ち合った。
店名が店名なのでヤバイ店なんじゃないかと恐怖していたが、実際に来てみると普通の喫茶店という感じだった。じゃあなんでそんな店名なんだよ。
「相変わらずだなあ、お前」
結構人が多い店内の中で、名前を見なくても一瞬でこいつだとわかったほど、幻水の格好はどのゲームでも似通っている。
簡単に言えば軍服だ。
ファンタジーな世界観だからか、史実の軍服をベースにファンタジックな装飾や紋章があしらわれているという、スペースオペラに出てきそうなものであった。
「軍服は落ち着くからねぇ。ていうか、ナツレンくんは全体的に黒くない? アサシンみたいだよ」
「服にはそこまで興味ないからな……これもプレイヤーから適当に一式買ったものだし」
「ナツレンくんらしいなあ。ところで、その子は?」
そう言って、幻水はキルカを指差した。
放置するわけにもいかないので連れてきてしまったが、事前に「人前では喋らないように」と言ってあるので多分大丈夫だろう。
基本的に他人のペットのステータスは名前くらいしか見れないし。
「こいつはキルカ。成り行きでテイムしたんだ」
「ワン!」
いや犬かよ。そんな鳴き方じゃなくなかったか?
妙に棒読みだし。
「不思議な鳴き声だねえ」
「…………まあ、ファンタジーだからな。それはそうと、前言った話覚えてるか?」
「クランへの勧誘でしょ? まだどうしようか迷ってるところだよう」
「そうか。まあクランマスターも急いでる感じじゃなかったし、まだ余裕はあるかな」
何か目標があって募集しているのかもよく分かっていないし、急かされることもない。
ヒーラーとしてココロアが入ったが、デバッファーは依然としてクランに存在していないので、Aliceに好かれさえすれば問題はないだろう。
「今どの辺まで進んでるんだ?」
「私はデバッファーだからソロだとツヴェルヘイムに行くためのボスが倒せないんだよね〜。骸王ヴァンデリックって言うんだけど……」
「それだっ」
「ん゛んっ」
突如、キルカが喋ったのでむせてしまった。
え、何? なんで急に喋ったの?
「ん? 何か聞こえたような」
「気のせいじゃないか? ほら、周りプレイヤー沢山いるし!」
「確かに、気のせいか〜」
よし。結構苦しかったが、何とか誤魔化しきれたようだ。
まあ、何か声が聞こえたとして、狼が喋ったなどと思う人間はいないだろう。
幻水の観察眼をもってしてもそこまで見抜くことは出来なかったというわけだ。
「……で、その子は何なんだい?」
バレてたわ。
「……………………ノーコメント」
「教えてくれてもいいじゃないかぁ、私とナツレンくんの仲なんだからさっ」
「腐れ縁にそんな特典はついてねーよ」
「腐れ縁は酷くないかい……?」
そう言って幻水は大袈裟に悲しむフリをしたが、三秒くらいで元の顔に戻った。
こういうヤツなのだ、こいつは。
「まあ、そうだなあ……交換ってのはどうかな?」
「交換?」
「うんうん。どうせユニーク関連でしょ? それなら相応の弾があるんだよねぇ」
勿体ぶるようにそう言って、幻水はわざとらしいウインクをする。
「つまり、私もユニークを握ってるってことだよう」
——————
流石に周りにプレイヤーのいる場所で話すようなことではないので、店を移動することにした。
入り組んだ道を進んだ先にある、白を基調としたお洒落な店だ。
防音性抜群な個室のある店らしく、密会などが度々行われているのだとか。
店名は『焼屠刑鬼』だった。さっきからネーミングセンスおかしくないか?
中に入ってみると、内装は外とは打って変わって料亭のようだ。
ぴょこぴょこと歩いて来たウサギに案内されて個室に入ると、何処からともなく飲み物の入ったグラスが現れる。
飲んでみると、ラッシーだった。
「なんなんだこの店……」
「店主が悪ふざけ好きだからねぇ」
あらゆる要素が何一つとして調和して無くて恐怖すら感じるわ。
もしかしてコイツこういう店しか知らないんじゃないか。
まあ、何はともあれ個室には入れた。
扉が閉じられた瞬間に外から聞こえる一切の音が遮断されたので、本当に外界とは隔絶されているらしい。
「さてと。じゃあナツレンくんのユニーククエストについて教えてもらおうかなぁ」
「……クエスト名は『参傷狼伝説』だ。受注条件はわからない。遺都メノスランテでキカトリクス・ルプスってモンスターを倒したらテイムできるようになったんだ」
「なるほど……内容についてはどのくらい分かってる感じ?」
「キルカに三つの傷があるんだけど、それぞれ傷を付けたモンスターを倒して行くって内容。今は二体目まで倒してて、三体目は情報が少ないから保留にしてたんだが……」
「それがヴァンデリックってことねぇ」
その名前に反応して、またもやキルカが声を上げる。
「うん。そいつだぞ。戦う前に名乗ってたんだ」
「そうそう、騎士の名乗り口上みたいな感じだったねぇ。若干長かったから不意打ちしたんだけど、ダメージは通らなかったなぁ」
「シンプルに思考が酷いな」
「てへっ」
てへっ、じゃねえよ。
こういう奴なので、同じクランに入ったとしていつ寝首を掻かれるか分かったものではない。
「……で、そっちのユニーククエストは?」
「名前は『見果てぬ空への渇望』だよう。受注条件はあるNPCとの接触で、クリア条件も一応は把握できてる。けど……」
と、そこで幻水は初めて言い淀んだ。
「……? どう言う条件なんだ?」
「……DGT反重力リアクター、平衡制御コア、αユニット、115ジェネレーター」
「何それティースリーの話?」
「いや、これ全部要求された素材だよう。……っていうか、ティースリーにもそんなの無いけどね。あれで第二次大戦がベースだから……」
異常なスピードもレーザー兵器も第二次大戦の技術だと無理だろ。
まあそれはともかく、幻水の言った『要求された素材』は、全てこの世界観にそぐわないSF的な物のように思えた。
……とは言え、普通に銃器が存在するごちゃ混ぜの世界ではあるので、そういうオーバーテクノロジーな物があったとしてもそこまでおかしくは無いのだろうが。
「何はともあれ、ナツレンくんと私はこれで仲間だねえ。よろしく☆」
「仲間ってか共犯者だろ。犯罪の片棒を担がされた気分だよ」
「まだ何もやってないのに……まあそれは置いといて、今からヴァンデリック倒しに行かないかい? どうせツヴェルヘイムには行くつもりでしょ?」
「まあ……そうだけど」
連れて行っていいのかな、こいつ。
能力的な信用はあっても人間的な信用は皆無なので、どうしても悩んでしまう。
そんな俺の目の前に、フレンド申請とパーティ申請が飛んで来たことを示すメッセージが出現した。
ニコニコと笑う幻水の圧に負け、俺はため息をついてそれを承認したのだった。




