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Part42 疾る病と死の象徴



「お前めっちゃ強いな」


「ガウッ!」



 キルカに肉をあげながら、俺はこの後のことについて考える。

 とりあえずこのエリアは突破して次の街に進んでおきたいし、その後は『参傷狼伝説(ファブラ・デ・ルプス)』を進めていくつもりなのだが……

 


参傷狼伝説(ファブラ・デ・ルプス)に関する情報が全く無いんだよなあ」



 同じユニーククエストでも、冥き門の試練ではゲートキーパーの説明があった。

 一応このユニーククエストも特殊なキャラがキーとなってはいるのだが……ゲートキーパーと違って、キルカは喋れない。

 狼なのだから仕方ないが、何か情報が欲しいところだ。


 

 クエスト名から考えてみると、参傷狼……というのはそのまま三つの傷を持つ狼か?

 気になってキルカの身体を見てみると、傷は顔のものだけでなく、もう二箇所あることがわかった。


 右眼を通る縦一文字の傷痕、左前脚の火傷痕、右肩の裂傷痕。


 他にも無いかと腹部を覗き込んだところ噛み付かれたので、全部確認できたわけではないが、見える範囲にあるのはこの三つだけだった。

 となると、やはり参傷狼というのはキルカを表していると考えるべきなのだろうか。

 ……仮にそうだとして、だから何だという話ではあるが。


 うーん……それぞれの傷の種類が違うのも何かありそうな気がするな。

 顔の傷と右肩の傷は共に斬撃による傷なのだが、顔の傷が細く一直線に通っているのに対し、右肩の傷は幅が広く痛々しい。


 恐らくは別の得物による傷だ。

 火傷と二種の裂傷のそれぞれが別個の存在によって刻み付けられたものなのか、それとも単体の何かによってつけられたものなのかは分からないが……仮に『参傷狼伝説(ファブラ・デ・ルプス)』がキルカの傷に関係するシナリオだとするならば、キルカに傷を付けたモンスターを倒すというのも可能性としてはあるような気がする。


 気がする、のだが……



「……いや、流石に傷から特定は無いだろ」



 仮に俺の考えた通りだったとして、傷からモンスターを特定することなど出来る筈がない。

 職業の多種多様性から考えると、獣医のような職であれば傷から特定できる……という可能性も一瞬思い浮かぶが、そこまでクエストの達成条件を狭き門にはしないだろう。

 第一、そういう方針なら既にキルカを仲間にするタイミングでテイマー系の職が要求されるはずだ。



「わかんねー……なあキルカ、どうしたら良いんだ?」



 俺が独り言のようにそうポツリと漏らすと、キルカは立ち上がり、一度こちらを振り向いてから道を進み始めた。



「付いて来い、ってことか?」



 よくわからないが、とりあえず付いていくことにしよう。



————



 キルカに導かれて辿り着いたのは、大きな教会だった。


 遺都の教会なのだから、当然管理されているはずもなく、壁の表面は剥がれ落ち、蔦が蔓延っていた。


 かつては美麗なステンドグラスが収められていたのであろう巨大な窓からは、ただひたすらにオレンジ色の夕陽が射し込んでいる。


 廃墟であっても神々しさを残すそんな光景に俺が思わず見惚れていると、不意に視界がブレた。


 以前経験した、ボスが出るときの仕様だ。


 滅んだ都市に巣食うボスと言うのが一体何なのか。

 予想をする間も無く、教会の中央部に黒い霧のようなものが現れた。

 それは不規則に蠢き、震え、一つになろうと一箇所にぶつかる様に集まってゆく。

 やがてそれは、黒鎧の騎士となって廃教会に降り立った。



[ストーリーモンスター ペイルライダー]



 死を象徴するものであるそれは、静かに右腕を掲げて虚空から大鎌を引きずり出し、次いでそれを見せつけるように身体の前でぐるりと一つ回転させ、構えた。



「行くぞ、キルカ!」


「グワゥッ!」



 戦闘開始だ。

 武器はとりあえず剣にして、間合いを探る。


 鎌というのは扱いにくいが、敵に使われるとそれはそれで厄介な武器の筆頭である。

 リーチが長く、これはあくまでも自分の経験則からくる偏見ではあるのだが、スキルに関しても避けにくいものが多いように感じるのだ。



 ペイルライダーが、無言で鎌を振るう。

 微小な闇が集まって蠢き、空間を切り裂く斬撃とともに放たれた。

 俺自身、相変わらずの紙装甲なので攻撃を喰らわないことが大前提ではあるのだが、それ以上に今回の戦いは負傷に気をつけなければならない。


 ペイルライダーは確か、黙示録において疫病を司っていたはず。

 つまり、どんな攻撃であっても食らえば病気やそれに準ずるデバフにかかってしまう可能性があるということである。

 というか恐らく斬撃と一緒に飛んでくる黒っぽい奴がそれだ。

 


 連続で放たれる斬撃を、ある程度余裕を持って回避しつつ、俺は脳内で作戦を立てる。

 この戦い、ソロであればキツかったかもしれないが、今回はキルカがいる。

 つまりは、俺がヘイトを集めて避け続け、フリーになったキルカがペイルライダーに攻撃すればいい。


 似たような事は以前黒蝕の禍の時にも経験したし、再度そういう戦いをする必要が出てきた時のためのスキルも取っておいた。


 武器を笛に切り替えて、構える。

 イメージとしてはフルートに近いそれを横に構えつつ、俺は視界に現れた『コマンド』通りに笛を吹いた。


 ——《挑発律:独奏》


 敵のヘイトを集める為の旋律が教会に響き、同時にペイルライダーの意識が俺へ向かう。


 同時に、俺の意図を読み取ったのか、キルカがペイルライダーの背後へ回り込むようへ駆け出した。

 本当に頼りになるな。



 笛をくるりと回転させてショートソードへ変形させ、飛ぶ斬撃を避けながらペイルライダーへと肉薄していく。


 鎌の攻撃は避けにくいが、そこから生じる斬撃であればそこまで問題にはならない。

 意識しなければならないのは、鎌が直接届く範囲内からだ。


 大きく一回転して俺の脳天へと振り下ろされる鎌を避け、剣でペイルライダーの胴を斬りつける。

 ほとんど同じタイミングでキルカが魔法を発動し、紅い光とともに魔法の牙がペイルライダーをグシャリと押しつぶした。

 しかし、当然この程度で倒せる相手ではない。

 スクラップのように潰れたペイルライダーは霧へと分散し、再度元の黒鎧を形作った。


 この再構築を何度も行わせることで消耗させる……というのが勝利につながる戦法なのだろうか。

 まだ不確定だが、頭の片隅に置いておこう。



 ヘイトを集めるために手数の多いスキルで挑発し、キルカが牙の魔法でペイルライダーを噛み砕く。

 牙の魔法が何度か放たれるとペイルライダーが再構築をするので、再度ヘイトを溜める。


 当初の予想通り、再構築は消耗を伴うらしい。

 再構築を繰り返すたびにペイルライダーは小さくなっていき、最初は三メートル近くあったはずが、今では二メートル程度になっていた。


 見た目と違って、かなり簡単なボスだ。

 ハメのような感じになっているが……第二形態などはあるのだろうか。


 まあ、実を言うと、先程から悪い予感がしている。

 何というか……ペイルライダーって、普通馬に乗ってないか? ライダーだし。


 そんな事を考えてしまったからというわけではないだろうが、何度目かの再構築の後、ペイルライダーが大鎌の柄で地面を叩いた。

 すぐに、青白く燃え盛る炎がその傍らに現れる。


 ゆらゆらと揺れるそれは、すぐに馬の形へと変化した。

 形こそ馬に似てはいるが、大きさはまるで違う。

 四肢は筋肉質で太く、高さは二メートルを優に超えていた。


 その背中にペイルライダーが乗ることで、威圧感は更に高まる。

 というか鎌の大きさも何故か大きくなっていた。

 


「やっぱそうなるよなあ……!」



 背に死を乗せた青白い炎の馬が、前脚を高く上げて嘶いた。

ジャンル別の日間週間に乗ってました。

ありがとうございます。

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