表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/104

Part39 忘れた頃にやってくる



 無事に黒蝕の禍を終えた、現実時間での翌日のこと。


 俺はギルドハウスをスポーン地点としてログインした。

 目当ては製作台だ。


 そう、今日俺は装備職人としての第一歩を踏み出すのだ。



「よろしくお願いします」


「うん、一緒に頑張ろう」



 特別講師は超さんだ。

 調合師系生産職しか取っていないため装備などを作ることはできないらしいが、それでも共通することなどは教えられるということで手伝ってもらうことにしたのだ。



「さて、じゃあ先ずは革の鎧を作ろうか。確か余り物の素材があったはず……ちょっと待っててね」



 そう言って超さんは素材を取りに行き、少し経って調理スペースから出てきた。



「思ったより沢山あったよ。これで作るといい」


「今台所から出てきましたよね?」


「……」



 被り物の上からでもわかるくらい目を逸らさないで欲しい。



「……まあ、ミーティアの料理の余り物だからね」


「でしょうね」



 余った素材というか、食材的な意味での余り物だ。


 ただ、アイテムとして処理されているのでぐっちゃぐちゃになっていることはなく、むしろミーティアの作る料理は大概高レベルモンスターを素材としているので、今目の前にあるこの革類もかなり品質の高いものであることは間違いない。

 練習と言っても、成功すればいいものが作れる可能性はある。


 とは言え、強力な分扱いが難しいものもありそうなので、超さんにその中からいくつか扱いやすいものをピックアップしてもらうことにした。


 そうして選ばれたいくつかの革と、何故か同じく調理スペースにあったらしい鉱物を製作台の上に置き、早速生産を始める。



「じゃあ、まずはこれを捏ねてくれるかな」


「やっぱ捏ねるんですね」

 


 捏ねる工程が入るのは本当に全職共通らしい。

 言われた通りにモンスターの革と鉄っぽい鉱物を手で押しつぶすように捏ねると、先程までの感触は完全に消え、なんか粘土みたいな感じになってしまった。

 いいのか、これ。


 考えても意味がないので無心で捏ね続けると、やがて一枚の大きな素材が出来上がった。



「うん、成功だね。一番簡単な行程でやってるから、あとは断裁して組み立てをすればいい」



 現れたウインドウを操作し、一般的な革鎧の形を選ぶと、生地が自動的に断ち切られ、あとはくっつけるのみとなった。

 レベルが高ければ好きな形に自分で作ることもできるらしいが、少なくとも今の俺には関係のないことだ。


 分かりやすい形になった生地をガイドに沿ってくっつけると、結合部が自動的に縫われていく。

 ゲームだけあって面倒な行程は勝手にやってくれるようだ。見ているとすごく楽しい。


 そのままペタペタと組み立てていき、数分程度でそれっぽい革鎧が完成した。

 地味に楽しいな、生産職。



「……よし、これで大丈夫ですかね」


「うん、これで完成。あとは運命力のパラメーターを参照して、ステータスが上がったり特殊な効果がついたりする感じだね」


「なるほど、運命力ですか……」



 ……ん? 運命力?

 俺の脳裏を悪い予感がよぎる。


 果たしてその予感は的中し、ボフン! と音を立てて革鎧が弾け飛んだ。



「うわっ」



 ズタズタになった革鎧ははたから見ても防具として使えそうになく、防御力の上昇など無に等しいものとなっていた。



「え? 何これ……初めて見たなあ……」


「無いんですか? こういうこと」


「普通は無いね。成功か失敗かは捏ねた時点でわかることだから……とりあえずもう一回作ってみてくれるかな」



 装備職人としての俺のレベルが素材と離れすぎていたのが原因なのかもと思い、今度は俺のアイテム倉庫から初めて戦ったストーリーボス[晶牙のエルボア]の革素材を取り出す。


 適当な鉱石を混ぜ、丁寧に捏ね、自動で断裁を行った後、組み立ててゆき——またしても弾け飛んだ。



「なんで?」



 ……まあ、十中八九あの【新月】とかいうタレントスキルが原因だろう。

 最初は−100だったのが、何故か値が下がって行って今は−850になっている。

 多分【新月】って名前もツキが無いから新月なんだろ。めちゃくちゃ馬鹿にされてる気分だ。



 今まで目立った害は無かったような気がするのだが、ここに来て目に見えるデメリットが出てきてしまったようだ。


 特段生産職に強い憧れを抱いているわけでもないのでこれ自体はそこまで気にすることでも無いのだが、恐らく気づいていないところからこの【新月】の悪影響はじわじわと湧き出てくるのだろう。


 それにしても、運が悪いってふつうに嫌すぎるな……どうにかしたいのだが、やり方がわからない。

 タレントスキルの性質上、ネットで調べることもできないし。



「ちょっと別ジャンルのもやってみようか。折角だし、調合師になってきてくれるかな」


「わかりました」



 というわけで調合師にクラスチェンジして再挑戦だ。


 HP回復効果のある葉や木の実をすり潰して粉末状にし、台の上に均等に振りかける。



「はい、そしたらこれをかけて捏ねて」



 手渡された小瓶に収められた黒色の粉末をその上に振りかけ、捏ねる。

 ……粉末を捏ねるって何? やっぱり捏ねるシステムおかしいだろ。


 そう思いながら捏ねてみると、見た目とは裏腹に、しっかりと粘土のような感触が手に伝わってくる。

 脳が混乱するわ。


 そして出来上がった濃い緑色の球体に、渡された紐のような物を付け、そっと製作台に置く。



[回復用爆弾]



「爆弾にする必要ありました??」



 範囲回復としては使えるだろうが、それにしたって爆弾にする必要はないだろう。

 

 まあそれはそれとして、今回の回復爆弾は先ほどの皮鎧のように破裂することは無かった。


 しかし、一応使ってみようということで超さんに火の魔法で着火してもらったところ、


「……ダメだね。湿気っちゃってる」


 そもそも導火線に火がつかないようだった。



「やっぱりダメですか」


「理由がわからないな……」



 そう言って、爆弾ヘッドを傾げる超さん。


 タレントスキルについて言ってしまっていいものなのか分からないので、俺は「何でなんでしょうね」と相槌を打つことにしたのだった。


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ