Part3 ソロゆえに
まだ世紀末要素は薄いです
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結局のところ、スライムを相手にする場合の最適解は、跳躍後の後隙に強い攻撃を叩き込むというものであった。
地道が一番なのだなあ。
グッドが言うには、「苦労しなければ勝てなかった敵が、強くなることで雑に倒せるようになるのが最高」らしい。まあ分からなくはないが。
さて、そのグッドなのだが、急に何やらぶつぶつ唱え始めたと思うと「悪い、用事ができた」と言って何処かへ行ってしまった。
つまり俺は今ぼっちだ。
MMORPG初心者なので、ソロプレイのデメリットというのがあまりわからないが、序盤なのでソロでも問題はないだろう。
幸い、モンスターの初見殺し的性能については知ることが出来た。
あまりに強すぎてクソゲーだろ、と一瞬思ってしまったのだが、よくよく考えてみれば、正規の手段で倒せるのだから神ゲーだ。
スライムを数体倒したところで、そういえばレベルは上がっているだろうかと考えて、ステータス画面を呼び出す。
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[名前] ナツレン
[職業] 侍
[所持金] 520アイン
[生命力] 32
[物理攻撃力] 27
[魔法攻撃力] 20
[物理防御力] 25
[魔法抵抗力] 20
[継戦能力] 23
[弱体抵抗力] 20
[総合思考力] 29
[運命力] 0
パッシブスキル:《構え 2%》
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「全然わかんねえ」
それぞれの項目が何を指しているのかが少しわかりづらい。そもそもレベルが存在していないようなのだが、そういうシステムなのだろうか。
おそらく、[生命力]はHPのことだ。
その他の項目も何となくわかるのだが、[継戦能力]というのはよくわからない。スタミナ関連のパラメーターなのだろうか。
気になって少しいじってみると、ステータスの項目に関する説明を見つけた。
ゲーム側の細かい配慮が暖かい。
独自のパラメーターを使うくせに何一つ説明がなく、仕方ないから気にせず進めたら何かの値がマズかったらしく急に魔獣化して詰んだクソゲーとは大違いだ。
話の中にヒントもなく、仕方なく様々なアクションを試した結果、ゲーム中一切関わってこなかった『教会』に祈りを捧げることで回避することが可能だとわかった時は、もう本当にどうしてやろうかという気になったのを思い出す。当然のように教会はその後も関わってこなかった。
さて、クソゲー・リコールは程々に、説明を開いてみる。
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《VOX-0》にはレベルシステムがなく、それぞれのパラメーターは、いくつかの隠しパラメーターによって変動します。
隠しパラメーターは戦闘に限らず『経験を積む行為』によって上昇します。
また、スキルの習得に必要なスキルポイントは、対応するパラメーターが1上昇する毎に1ポイント獲得することができます。
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「えっ……これだけ?」
予想以上に何も解決しなかった。
他の項目にもそれらしい記述はない。
仕方なくグッドに通話を飛ばすが、出る気配はなかった。VOX-0プレイ中と出ているのでログインはしているはずではあるが、手が離せない状況なのだろう。
これは……。
「……一旦別のことするか」
こういうよくわからないものに触れるのは避ける。
俺の中の鉄則だ。
そもそも俺はMMORPG自体初プレイなので、まだまだやるべきことは沢山あるはず。
そう考えて、とりあえず、街に戻ることにした。
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「いらっしゃい!」
武器屋を訪れた俺を、体格の良い男が出迎えた。
「武器が欲しいんだけど、刀はあるか?」
「刀か。種類は少ないが、あるぜ」
言葉とともに、ウインドウが表示される。
「刀は……これか」
ソートすると、3種類の刀が表示される。
1つは初期装備の刀。もう1つは練習用の木刀。
残りの1つが今のより強いものだ。
「斬鉄か。500アイン……って、買ったら20アインしか残らないな。安くならないのか?」
「無理言うんじゃねえ。これでもかなり安くしてんだぞ」
……こうして話していると、相手が人間ではないことを忘れてしまいそうだ。
VRゲームの普及とともにプレイヤーが求めるようになったもの。それはリアリティだ。
今までディスプレイ越しに見ていたからこそ許されていたものが、フルダイブによって違和感へと変わる。
その最たるものが会話だろう。
すなわち、「ここは○○の街だよ!」が通用しなくなったわけだ。
黎明期のVRゲームは、そのあたりの改善を急ごうとしすぎて逆に不安定だったのだが、今ではかなり高度なAIが組み込まれているらしく、大体のゲームで会話が成立するようになっている。
正直言って、ネームバーの有無やステータス画面以外でNPCを判別するのは至難の技だろう。
「まあ、この辺りじゃここ以外に武器買えるとこなんてないから仕方ないか……」
「こっちも商売だからな」
とは言え、NPCとここまでリアルな会話をしたのはこれが初めてだ。
MMORPGだからなのだろうか。
過去に遊んだゲームから考えようにも、クソゲーの会話AIを引き合いに出して良いものなのかと考えてしまう。
「で、買うのか?」
「……いや、金が溜まったらまた来る」
やはり何をするにも金は入り用だ。
しかし、苦労してスライムを倒しても金額的には微々たるものだ。
となると、ギルドのような、クエストを受注することのできる場所があるのだろう。
採取クエストくらいなら初心者でも出来る気もするので、俺はギルドを目指して街を歩いた。
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そして迷った。
「……おっかしいなあ」
一応武器屋の店主にギルドの場所を聞いてから出発したのだが、完全に迷子になってしまった。
人もまばらで、何か店があるような雰囲気でもない。
マップは購入しないと見れないシステムのようで、現在地を把握するすべはなく、つまりヤバい。
「なんだお前、迷子か?」
急に声をかけられて振り返ると、一人の男が立っていた。ネームバーがあるのでプレイヤーだ。
とりあえず敬語で対応する。
「あー……はい。ギルドの場所、知りませんか」
「ギルドな。リスポーン地点あるだろ?あの近くのデカい建物だ。送ってやるよ」
「いえ、それさえわかれば十分です。お手を煩わせるわけには……」
「いいのいいの、気にすんなって」
そう言って男は、懐から銃を取り出した。
「一瞬で済むからよ」
乾いた音と共に迎えた三度目の死亡。
死因はプレイヤーキル。略してPK。
やられるとすげえムカつくんだなあと思いながら、俺の意識は飛ばされていくのだった。




