Part35 地獄の番犬
凄まじい地響きとともに、黒の群勢は牙城を崩さんと押し寄せる。
そんな恐怖映像見たいな光景に対し、無数のプレイヤーが歓喜の声を上げて突撃を開始した。
合わせて、アルゴノーツのメンバー達もそれぞれ行動を始めたようだ。
ちなみに、補助役のリンネとココロアは俺と行動することになった。他の人たちはそれぞれソロで戦った方が効率が良いらしい。
それ自体は別に良いのだが……この組み合わせは少し怖い。
リンネとココロアを組み合わせるとどうなるか。それはココロアの死んだ目を見ればすぐにわかるだろう。
「……この女は……ナツレンくんの、何?」
うん。そうなると思ってた。
何だっていいだろ、と返したいところだが、それをやると大変なことになりかねない。
「ただのゲーム友達だよ」
「……そうなんだね!」
「えっ」
「え?」
えっ、て何。その表情はどういう気持ちなんだ?
もうどうしたらいいのか分からないんだけど。
「とにかく! とっとと敵倒すぞ。いいな」
「うんっ」
「はいですわ」
機嫌の治ったココロアと、妙に力の抜けたリンネを連れて、俺はモンスターの波へと飛び込んだ。
「キシャァァアアァア!!」
「うわ凄い物量だな。よっ、と」
薙刀を振るうと、軽い感触が手に伝わり、複数のポリゴンが分散する。
一撃で五匹程仕留めたらしい。本当に無双ゲーだな。
そのまま立て続けに何発も当て、無数に続くモンスターの波を崩し続ける。
普通、死んだモンスターはポリゴンとなって消滅するのだが、このイベントで現れる黒いモンスター達は仕様が異なるらしい。
今のところ全てのモンスターが、絶命すると流れるようにドロドロと溶けている。
その為か、未だに何のアイテムもドロップしていない。
ごく低確率でのドロップか、そもそもドロップアイテムが設定されていないか。
まあこれだけモンスターがいたら仕方ないだろう。
「ゴァァアア!!」
「よし……《一閃》!」
若干必要な動作が異なっていたが、問題なくスキルも発動できた。
二人のサポートを受けつつ、幾度となく攻撃を繰り返していく。
やがて気がつくと、俺の周囲のモンスターの数はだいぶ減っていた。
そういえば、現れるモンスターの量には波があるらしく、周囲に敵が少なくなってきたら場所を変えるといいと超さんに言われていたんだった。
「よし……少し移動しつつ戦うぞ」
「了解致しましたわ!」
調子を取り直したらしいリンネのバフを受けながら戦闘を続けていると、何やら連続して爆発するような音が響いてきた。
めちゃくちゃ嫌な予感を察知しながら音のする方を向くと、予想通り超さんがモンスターの群れに大量の爆弾を投げつけているところだった。
「あっ、ナツレンくんじゃないか。調子はどうだい?」
「いい感じに倒せてます……けど、何してるんですか?」
「何って、爆弾を投げてるんだよ?」
「いや……はい」
何を言っても無意味そうだ。
やっぱりこの人も根本的にズレている。
「超さんは生産職なのに前衛と同じDPSを叩き出せるからな。凄い人だよ」
全身に過剰に搭載した重火器類をガシャンガシャンと鳴らしながら近づいてきたグッドが何か言っているが、なんかもうインパクトが先行しすぎてよくわからない。
その後ろでミーティアがモンスターの踊り食いをしているのとか、御兎姫がどさくさに紛れてPKを繰り返しているのとか、もはや突っ込んではいけない気がする。
「本当に、個性的な人たちですわね……」
「……リンネも相当だからな?」
ふと目を向けると、何やら念仏のようなものを唱えながら戦っている僧侶風の人や、高笑いしながら自在に空を飛んで飛行モンスターを撃墜する男や、大剣をグルグル振り回してプレイヤー諸共モンスターを断ち斬る幼女などが目に映った。
……もしかして、アルゴノーツがおかしいんじゃなくて、このゲームやってる人間がおかしいのか?
いや、それだと俺もおかしいことになるじゃないか。
たまたま一部の変な人間が近くにいるだけだな。
「っと、あぶねっ。……キリが無いな」
俺が考えている間にも、モンスター達は押し寄せてくる。
それらを倒すこと自体は難しくなく、なんとなく薙刀の扱いにも慣れてきたが……本当に終わりが見えない。
俺自身、無双系はそこまで好きではないので、少し飽きてきてしまった。
——そう考えたのとほぼ同じタイミングで、周囲のほとんど全てのモンスターが一瞬で溶けた。
「えっ?」
「第2フェーズの始まりね!」
これも想定内の事態らしい。
黒く溶けたモンスター達は、しかし絶命した時のように地面に溶け込んで行くことはなく、そのドロリとした沼のような状態で地面に留まっている。
その表面にはふつふつと気泡のようなものが浮かび、徐々にその勢いが増していくとともに、それらは混ざり合い、隆起し、やがて固体へと変化した。
無数にいたモンスターはそれぞれ融合しあい、各所で巨大なモンスターとなって高く咆哮したのだった。
「合体した……!」
俺の前に現れたのは、黒く巨大な三つ首の猛犬。
おそらくはケルベロスをモチーフにしたのであろうそれは、六つの眼で俺をじっと見た。
……これ、狙われてるな?
「グルォォォアアア!!」
真ん中の首が吼え、左右の首が口から焔を噴き出した。
知らないプレイヤーが巻き込まれてリス地送りにされるのを流し見ながら焔を飛び避け、次いでケルベロスを注視する。
[レイドモンスター ケルベロス・レムナント]
やはり、これ単体でレイドボスだ。
先程までの雑魚モンスターには当然そんな表記はなく、アイテムを落とさないことなどから、何かしらボスとなるものがいるはずだと思っていたのだが……こういうことか。
合体して数が減ったとは言え、総量としては未だに多く、それぞれが純粋に強化されている以上、先程までよりキツイ戦いになりそうだ。
「《属性号令:輝》!」
「ありがとう、リンネ!」
以前より強くなったリンネのバフを受け、漆黒の刀身に似合わぬ光が灯る。
色味からしてそうなのだろうとは思っていたが、やはりこいつらの弱点は総じて光であるらしく、リンネのバフがとても役に立っていた。
「全然回復の出番がない……」
……逆に、ココロアは殆ど置物だった。
決してコイツが弱いわけではなく、むしろステータス的には俺と同じくらい強化されている(トリバードをゆすってパワーレベリングをしたらしい)のだが、こればかりは仕方ない。
回復役というのはパーティーに一人はいないといけないが、紙耐久の俺にとってはあまり用のない存在なのだ。
「他のプレイヤー沢山いるだろ、回復してあげろよ」
「ナツレンくんしか回復したくない……!」
「んなこと言っても、俺そもそも紙耐久だから食らったら即死なんだよな……」
「うう……」
まあ、ココロアにヒーラー辞められると困るので、わざとでもダメージを受けておくか。
光線の如く纏め上げられた炎が大地を焦がし、複数のプレイヤーを巻き込みながら俺へと迫る。
その攻撃に対し、俺は若干甘く避けた。
チッ、と右脚に僅かな痺れが発生し、体力が1割削られる。
掠っただけで1割持っていかれるのは紙耐久ゆえの悲しい性か。
「おっと脚にダメージを負ってしまったな! ココロア、回復を……」
「《フルートフルレイン》!《コンフォートミスト》!《サンライト》!」
「過剰!!!」
三重にかけられた癒しの魔法が辺りを包み、周囲にいたプレイヤー達も含めて傷を治す。
当然俺の一割減っただけのHPなどすぐに全快した。
それぞれ雨と霧と太陽光が出るせいで天気が凄いことになっている中、改めて三つ首の番犬に向き直る。
辺りを燃やしていた炎は、慈雨によって副作用的に鎮火されていた。
これでだいぶ戦いやすくなっただろう。
「……行くぞ、反撃だ」
「うおおおおお!!!」
独り言として呟いた言葉に反応して、周囲のプレイヤーが雄叫びをあげながらケルベロスに突っ込み始めた。
……そういうつもりじゃなかったんですけど。
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