Part34 黒蝕の禍
ぞろぞろと集まってきたクランメンバーたちによってココロアの歓迎会が開かれ、ミーティアの「とっておきのデザートがあるの!」という言葉に複数の人間が真顔になった辺りで、そのアナウンスは流れた。
[——大地を蝕む黒の流動が横溢する]
[——鴉の災禍が波の如く押し寄せる]
[大規模防衛クエスト:黒蝕の禍 が開始されます]
「な、なんですの、これ?」
「大規模……防衛?」
俺も含め比較的最近始めた人間が困惑する中で、他の人間は落ち着いているようだった。
突然のアナウンスにも動揺せず、むしろその顔には喜びの色が浮かんでいた。
「一ヶ月ぶりかしら……腕がなるわね!」
「よし、今日こそデータを取るぞ」
「……誤射が捗る」
三者三様の反応だ。誤射が捗るって何?
それはともかく、大規模防衛クエストというのは、名前からしてなにかを防衛するタイプのクエストなのだろう。
大規模と付いているので、その対象は人ではなく、もっと大きなもの……それこそ街のようなもののような気がする。
「これ、何なんです?」
「不定期開催の防衛クエストだね。押し寄せる雑魚モンスターから主要三都市——デュオクレイン、ゼーヴェンクライツ、ツヴェルヘイムを防衛するっていうクエストなんだ。経験値的にもかなり美味いよ」
両手に爆弾を持ってウキウキしながら、超さんが答えてくれた。とりあえず怖いからしまって欲しい。
「後半の都市の方が敵が強かったりするんですの?」
「いや、ほとんど変わらない。だから全プレイヤーがある程度ばらける必要があるな」
「……前回は、デュオクレインだった。今回は?」
「今回はゼーヴェンクライツだよ。黒蝕の禍に関しては、十二クラン同盟の方で予めどのクランが何処に陣取るか調整してあるからね」
なるほど。やはり経験値的にも美味いということで、大きなクランの間で利益を取り合わないように、という判断なのだろう。
まあアルゴノーツは小規模だけど。
「黒蝕の禍が始まるのは30分後。それまでに準備を済ませておいてね」
超さんの言葉に全員が頷き、プレイヤー達はそれぞれ準備をするために解散するのだった。
————————
黒、黒、黒。
黒蝕の禍というクエスト名に恥じぬ一面の黒が、このゼーヴェンクライツを目指して、遠方から大地を蝕むように蠢いていた。
聞いたところによると、あれらはクエスト開始時間まで如何なる攻撃も通らないらしい。
「あれ全部モンスターか……」
思わず漏れ出た呟きに、すぐ隣にいた御兎姫が声を返す。
「……それぞれはあまり強くない。物量で押してくるタイプだから、範囲攻撃で薙ぎ倒すべき」
「無双系か。ゼミでやったところだなあ」
「……ゼミ?」
「なんでもない」
単純な物量で押してくる敵というのは、既に冥き門の試練で経験している。
あれ程強くはないだろうが、その分一度に相手取らなければならない数は多くなりそうだ。
さて、範囲攻撃ができる武器といえばなんだろうか。
スキルに頼れば大体の武器種で範囲攻撃が可能ではあるのだが、スキルポイントには限りがあるので、なるべく武器そのままで行きたい。
単純にリーチの長い武器は、大剣、大鎌、ハルバードなどなど。あとは鎖鎌や多節棍、鞭やフレイルなどがあるが……正直使いこなせる自信はない。
スキルのアシストがあればともかく、そのまま使うとなるとリーチの長い武器はかなり扱い難いのだ。
大鎌とか使いづらすぎて完全にスキルありきの武器だし。
何か他に無いかと武器種一覧を見ていると、刀カテゴリーの近くに薙刀を発見した。
あまり使ったことはないが、多節棍や大鎌とかに比べれば使いやすいだろう。
そう思って薙刀について色々見てみると、気になる表示があった。
「薙刀って、刀のスキルを一部流用できるのか」
「……近い武器種で、かつ再現可能だと流用できる」
「なるほど……流石にこんだけ武器種があったら、それぞれに作るのは無理ってことなんだろうな」
俺がまだ侍で刀を使っていた頃のスキルが、薙刀でも使えるようだ。
勝手は違うだろうが、そこは慣れるしかない。
よし、今回は薙刀を使おう。
先程プレイヤーから購入した黒い和服のような全職共通装備を身にまとい、ヘカトンケイルを薙刀へと変化させる。
「深編笠が似合いそうだな」
「確かに頭装備は空いてるけど、それやったらもう完全にモンスターじゃん」
服も黒ければ薙刀も黒い。そんな状態で深編笠を被ったら確実に黒の軍勢の一員として認識されるだろう。
別に顔を隠したい事情もないし、深編笠の出番はない。
さて、そんな風に雑談しつつ、集合場所として指定された、ゼーヴェンクライツの西端に位置する大聖堂の塔の上で待っていると、アルゴノーツのメンバー達が次々に集まってきた。
「ここからだと一望出来ますわね!」
「わぁ、ナツレンくん、その装備すごく似合ってるよ……!」
「お腹が空いたわ!!」
そんな個性的な面々の中で、一番最後に現れた超さんが、その場にいる全員を見渡して満足そうに頷く。
「うんうん、やっぱり人が増えるのは良いことだね。さて、準備もできただろうし、作戦の説明をするよ」
おっ、何か本格的になってきた。
MMORPG自体が初プレイな俺は、当然レイドクエストに関しても仄聞したことがある程度の知識しかない。
それでも、この雰囲気からすると、ある程度の作戦会議が必要なものなのだろう。
視界の端に存在するカウントダウンが残り3分を切るのと同時に、超さんは勢いよく言い放った。
「他のプレイヤーより速く倒す! 以上!」
作戦ではないだろ、それ。




