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Part33 鳥とココロア

現実が忙しくてめっちゃ時間が空いてしまいました

申し訳ないです



 結論から言うと、瞬殺だった。

 厄鴉の眷属とかいう、ストーリーの根幹に関わってきそうなボスなのに、本当に瞬殺だった。


 ……ゲームとは言え、『強くなりすぎて孤独になってしまった』系の作中最強キャラみたいな感情を味わえるとは。


 リンネが楽しそうだったので別にいいんだけど、俺としてはとっとと進めてしまいたいものだ。



 さて、今俺は7つ目の街ゼーヴェンクライツにいる。

 念のため、着いてすぐに街の周囲のモンスターを相手に戦ったのだが、予想通り簡単に倒せてしまった。

 どうやらここでも俺は適正レベルを大幅に超えてしまっているらしい。


 ささっとボスを倒して次の街に向かってしまおう。

 そう思っていた俺の肩を、誰かがガシッと掴んだ。



「ナツレンくん……ですよね?」



 急に呼び止められたことに驚きつつ振り返ると、そこにいたのはピンク髪の女性キャラだった。

 ネームバーがあるのでプレイヤーだ。

 名前は……ココロア………



「チガイマスヨ」



 咄嗟にその問いかけを否定する。

 声も高くしたので完璧だ。俺だとはバレるまい。



「でも、ネームバー……」


「……………………えっと」

 

「うふふ、ふふふふふ……やっと逢えた……ナツレンくん……!」


「あっ用事があるんだった!! じゃあな! 《アクセル・バースト》!!」



 踵を返し、街中を全力で疾走する。


 確かに、さまざまなゲームをプレイする中で、妙な人間と知り合うことは多々ある。

 そういった人間との交流は楽しいし、思わぬところでためになったりもする。


 ……しかし、ココロアだけは別だ。とにかく逃げなくてはならない。

 


「……って、何だ!?」



 突如襲いかかる、ふわりとした浮遊感。

 バサリと翼の羽ばたく音がして、俺の身体は勢いよく宙に引き上げられた。


 上空に連れ去るタイプのモンスターか?

 しかし、街中にモンスターが出るなんて聞いたことがない。

 かと言って、飛べるプレイヤーというのも聞いたことがないのだが……無理やり首を動かして背後の人間を確認すると、ネームバーが表示された。

 プレイヤーだったらしい。

 一体何なのかと聞こうとして、しかし、ネームバーには見覚えのある文字が並んでいた。



「まさか、お前……」


「俺は人の願いに呼応し、群青の天より馳せ参じる者! 人呼んで『人鳥戦士トリバード』!! こんな所で逢うとは奇遇だな、ナツレン!」



 プロゲーマーチーム『ヴィルベルヴィンド』のリーダー格にして、俺を死にゲーの道に引きずり込もうとする悪友は、俺の襟首を掴んだまま、高らかに名乗りを上げた。

 

 

「お前絶対アイツに雇われてんだろ!! 金か!?」


「……いや、バラされたらプロゲーマー生命が終わるんだ」


「脅されてんのかよ!!」



 弱みを握られてる人間に交渉をねじ込む隙はない。

 抵抗もむなしく、俺は背中に翼の生えた奇妙な男に連行されてしまったのだった。




————————




 VRゲーム史における、最高の死にゲーは何か。

 何を面白いと感じるかは人それぞれだが、おそらくこの問いかけに対して最も多い答えは『Gazer』だろう。


 死にゲーゆえ、ステージギミックやモンスターは容赦なくプレイヤーを死に追いやるが、しかしその全てが理不尽ではなく工夫と閃きによって突破することが出来るという絶妙なゲームバランス。

 それにダークファンタジーのお手本のようなシナリオや設定も合わさって人気を博し、『ゲイザーライク』と呼ばれる後続のゲームを生み出した程の伝説のゲームだ。

 俺はプレイしていないが。



 では逆に、最低の死にゲーは何か。

 これは恐らく全ての人間がこう答えるだろう。

 ——『Gazer Evolution』と。


 その名の通り『Gazer』の続編であり、ゲーマー達から『GEVO(ゲボ)』と呼ばれるこのゲームは、もはやゲームとは呼べないほどに酷い出来であった。


 ただ硬いだけの敵や、ストレスを溜める以上の役割を果たさない初見殺し的なステージギミックによって絶妙なバランスは破壊され、売りだった重厚なストーリーはシナリオライターが制作途中に交代したことによって何がしたいのかわからないものになってしまった。


 それだけならまだマシなのだが、それ以上に酷い点として、このゲームはあまりにもバグが多すぎる。

 VRゲームの性質上、当たり判定などが原因となるバグがある程度発生するのは仕方ない。

 しかし、この『GEVO』はそんなレベルではないのだ。


 ただの道が奈落に通じたり、ジャンプアクションの最中に足場が透明になったりというようなありがちなものはもちろん、サイのような敵が膨張圧縮を繰り返したり(触れると圧殺される)、ラスボスの棲む城のテクスチャが異常な色でアニメーションを繰り返すものに置き換わっていたり、とにかく全方面でバグっているのだ。


 実害のない見た目だけのバグや、正規の手段では攻略が不可能になるバグが入り乱れ、ゲーマーたちの間でこのゲームは長らくクリア不可能だと言われていた。

 実際、クリア者の一覧がゲーム内から見れるのだが、発売から一年経っても誰一人としてそこに名を残すことはなかった。



 ……しかし、製作会社が倒産したため修正の可能性も消え、ネット民の興味がほとんど向かなくなった頃、事件は起きた。


 発売後一度も更新されることのなかったクリア者一覧が、ある日突然更新されたのだ。


 空白の中にただ一人記されたプレイヤーの名は太郎。

 あまりの特徴のなさから運営のアカウントではないかと言う声が上がる中、追い討ちをかけるように動画サイトに複数の動画が上がった。

 それは全て『太郎』と言う名のプレイヤーのもので、合計数十時間のその動画群には、クリアまでの一部始終がノーカットで記録されていた。


 当然、ネットは騒ついた。

 その動きはあまりにも正確で無駄がなく、だからこそ不正を疑う人間もいたのだが、それ以上に太郎の後を追う人間は多かった。

 太郎の動画によって、『わけがわからないもの』が『何すれば良いのかはわかるもの』に変わったのだ。

 それでも難しいことには変わりないのだが、クリアできることが示されるというのは、モチベーションにかなり良い影響を及ぼす。

 それは、GEVOを発売当日に買ってしまい、『購入したゲームをクリアできない』という事態に直面し絶望していた俺にとっても同じであった。



 その後、太郎の出現から一年経って、クリア者は十人に増えた。

 しかし、盛り上がりはそこで終息したようで、それ以降クリア者は現れていない。

 その十人は、今もSNSやクソゲー板で半ば伝説のように語り継がれているのだとか。


 以上が、伝説のクソゲーGEVOの話である。

 クソゲー・リコール終わり。



「うふふ……うふふふふ……」


「ごめんな、ナツレン。でも脅されてしまったんだから仕方ないよな!」



 そして、そんなクソゲーをクリアしたプレイヤー二人に、俺は謎の部屋に連れ去られていたのだった。

 


「やっとナツレンくんと同じゲームで遊べる……ふふふ……ふふふふふ……」



 虚空を詰めたような目のまま、ピンク髪の女は笑った。

 ココロアという名のこの女は、一言で言い表すなら俺のストーカーである。


 リアルで面識があるわけではないし、現実で何か危害を加えてくるわけではないのだが、とにかく異常な熱意を持って俺を追いかけているプレイヤーだ。

 ブログをいつ投稿しても絶対に最初にコメントしてくるし、俺が買ったゲームをすぐに買って報告してくるし、オンライン機能のあるゲームでは幾度となく俺に接近してくる。


 その圧が怖くて、俺はこいつとは絶対に関わらないようにしてきた。

 

 そんな存在が、今目の前にいる。


 ここは無駄な抵抗はせず、大人しく対応しておこう。

 そもそも俺を拘束しているトリバードは明らかに格上だ。

 職業もイカロスとかいうよくわからないものだし、戦って勝てる気がしない。


 

「な、何が目的なんだ……?」


「……ナツレンくんのクランに入れて欲しいなって」


「ええ……」



 予想外の答えだった。

 もっと凄いことを要求されるのかと思っていたが……いや、冷静に考えると同じクランにいるのってヤバくないか?



「つっても、リーダーの許可を得ないとな…………ちなみに、職業は?」


「えっと、サンクレスシャドウだよ……」



 サンクレスシャドウ?

 聞き馴染みのないワードに困惑していると、トリバードが助け舟を出してきた。



「特殊職だな。癖はあるけどヒーラーだ」



 ヒーラーか……奇しくも超さんの求めるプレイヤーと一致している。

 ……これは不味い。あの人なら、こいつをクランに入れかねないだろう。


 だからと言って、連れていかなければ脱出はできないし、仮に逃げだせたとしても粘着されるだろう。


 ここはもう、Aliceに蛇蝎の如く嫌われるということに賭けるしかない。

 そうだ。そもそもこんな煩悩にまみれたやつに、あの謎の幼女が懐くはずがない。そういうの敏感そうだし。



「……わかった、リーダーに紹介はする」


「!! ありがとう、ナツレンくん!」


「入れるかどうかは別だから、期待するなよ」




————————




「というわけで不本意ながら連れてきてしまいました」


「よろしくお願いしますっ」


「君がココロアちゃんだね。じゃあ、Aliceちゃんを連れてこようかな」


「こんな邪なやつ相手に懐くとは思えませんね」



 そう言いながらふと横を見ると、ココロアとAliceが手を繋いでいた。



「わぁ、可愛い女の子……人形みたい」


「めっちゃ懐いてるし!!!」


「うん、これなら拒む理由はないね。ようこそ、アルゴノーツへ!」


「ありがとうございます!」


「団員の貞操の危機は拒む理由にはならないんですか……??」



 とんだブラッククランだな。


 ……そんなわけで、最悪のやつがクランに加わってしまったのだった。

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