Part30 決着
リアルが忙しくて更新が滞っていますが、もう少し経ったらまた毎日更新に戻ります。
地面から飛び出してきた猛禽類に貫かれ、何度目かもわからないリスポーンを経験する。
既に五時間は戦っている。
しかし、それなのに——
「攻撃のパターンが掴めねえな……」
攻撃方法が奇想天外なだけならまだよかった。それなら二回目以降は避けられる。
しかし、ゲートキーパーの魔法は発動する度に変わって行くのだ。五時間も戦っているのに、一度見た魔法の方が少ない。
リスポーンを経る度に少しずつ感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。
生存時間も最初より増えた。
だが、俺は未だに武器を振るうことすら出来ていない。
「さあさあ、まだまだ行けるじゃん?」
「問題ない……」
細剣を構え、《アクセラ・バースト》を発動する。
ゲートキーパーに向かって駆け出すのと同時に、死角から躍り出てきた鉄の蛇の喉元に細剣の一撃を貫き通す。
太陽の如く輝く光球を視界の端に捉えつつ、棘のように隆起する地面を上手くかわして進み、光球から射出された鎖を首の動きだけで避ける。
相変わらず威力の衰えない魔法の連続だが……しかし、どんどん距離を詰めていく。
俺自身も驚いているのだが、この試練を経て、俺の身体は技を見てから避けることが可能なほどの反射神経を手に入れたようだ。小足見てから昇竜的な。
避けて、避けて、避けて……やがて、攻撃の隙間に差し込む一筋の光に辿り着く。
「捉えた……!」
まだ時間は2分程度しか経っていない。最高速はキープ出来ている。
ゲートキーパーに肉薄し、その身体に一撃を食らわせるため、最小の動きで細剣を突き出す。
「わあ! 危ないじゃん!」
「すばしっこいなあ!」
しなる細剣を踊らせ、連続して攻撃を加えようとするが、しかし、当たらない。
途中武器を鞭や銃へ変形させてもみたのだが、すんでのところですべて回避されてしまった。
幸い、回避中は魔法を使えない——いや、敢えて使ってないのかもしれないが、ともかく接近し続ければこっちのターンだ。
最高速であればほとんど同じスピードで食らいついていくことができる。
速度が最高速から減速し始めてから一分はまだ平気だが……二分後、つまりスキルを使ってから五分経ったところで追いつくことが難しくなってしまった。
十分に距離をとったゲートキーパーが腕を振るい、鋼鉄の葉が俺の胴を切り裂く。
……バフが消えるまで、あと五十分だ。
——————
それから四十分と少し経った。
未だに俺の得物はゲートキーパーに触れていないが、何度も挑戦してようやく勝ち筋が見えた。
残り時間的に、これがラストチャンスだろう。
「よーし、行くじゃん!」
「おう!」
俺にとっての最後の戦闘が開始された。
相変わらず意味不明な魔法だらけだが、なんとなく、それぞれどう避ければいいのかがわかって来たように感じる。
身体がこのゲームに最適化し始めたのだ。
三年前、《GEVO》と呼ばれる史上最悪の死にゲーをクリアしたときのように、俺の四肢は無意識的に動いていた。
そのまま避け続け、今までで一番速くゲートキーパーの元へ接近する。
横目で時間を確認すると、まだ戦闘開始から一分経っていなかった。最高だ。
「なかなか……やるじゃん!」
「俺にとってはこれが最後だからな……!」
細剣を使った攻撃にも慣れてきていた。
スキルまで取得する余裕はなかったが、いまは問題ない。
的確に攻撃を繰り返し、ゲートキーパーを大部屋の隅へと追い詰めて行く。
悟られないように、慎重に。
……壁際まで、あと少し。
ゲートキーパーが大きく後ずさったタイミングで、武器をハンマーに変化させる。
「《ハウザーブラスト》!!」
「わわっ!」
叩き潰す勢いで振り下ろしたハンマーは地面をめくり上げるように叩き壊し、爆発の煙が辺りを覆う。
ゲートキーパーの姿は見えなくなったが、逆に俺の姿も見えなくなってるはずだ。
すぐさまハンマーを短剣に変化させ、煙幕の向こう、ゲートキーパーがいる位置へ投擲する。
……おそらく躱されてしまうだろう。
しかし、それでいい。
角に追い詰めた時点で回避先は決まっている。
壁がない方……つまり上か、俺から見て左だ。
この時点では二択だが、実は既に癖は見抜いていた。
ゲートキーパーは上に避けない。
そう設定されているのだと考えてしまうほどに。
いくら知性を持つように振舞っても、NPCはみな作られた存在だ。
俺としては、AIにも人格はあると考えているが……しかし、それは今関係ない。
重要なのは、ゲートキーパーという存在がゲーム用に作られているということ。
ゲームである以上、バグらない限り攻略する手段というのは確実に存在している。
それはクソゲーであっても同じだ。結果はともかく、開発段階ではクリアできるように設定されている。
おそらく、ゲートキーパーの「上へ避けない」という性質は、攻略する手段に繋がるものなのだろう。
ウインドウを表示し、無造作に武器を取り出す。
短剣が壁に当たる音と同時に、手に現れたそれが実体化するよりも速く腕を振るい——
「来た!」
「え゛っ!?」
予想通り目の前へ飛び出してきたゲートキーパーの額に、ありふれた角材を叩きつけたのだった。




