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Part2 洗礼、片鱗




 五感をフルに使って新天地を一通り感じ終わった後、俺はフレンドリストからグッドに通話を飛ばした。


「キャラメイクできたぞ」


「おつ。今どこ?」


「なんか、草原」


「ああ、それチュートリアルだから飛ばしていいぞ。近くにある石像に触れるとメニューが出てくるからそれで飛ばせる」



 言われて後ろを振り向くと、そこには巨大なオブジェが鎮座していた。

 刀を象った石のオブジェだ。

 台座部分に触れると、チュートリアルをスキップできると言う旨のシステムメニューが表示されたので、迷いなくスキップする。


 一瞬ローディングが入り、徐々に周囲の景色が切り替わって行く。

 先ほどまで一面の草原だった辺りは、ほんの数秒で活気溢れる街へと変貌した。


 雰囲気としてはよくあるファンタジー系ゲームの、始まりの街、という感じだ。

 背後には大きな石柱が建っている。オブジェだろうか?


 周りを見渡すと、なかなかに個性豊かなプレイヤー達が目に入る。

 こう言ったカオスさは、オンラインゲームでしか味わえないものだろう。

 ふと視界に入ったかたつむりにプレイヤー名がついてたのはきっとバグだ。バグ。



「お、いたいた」



 聞き覚えのある声を発しながら、一人の男がこちらに向かってきた。

 表示されるプレイヤー名は「GOOD」、間違いなく神原だ。

 


「侍似合ってんなあ」


「グッドの職業は……何?」



 彼の外見は、なんというか、一言で表すなら『日曜洋画劇場』という感じだ。

 たくましい筋肉質な身体と、ゴリッゴリのアメリカンフェイスは、特殊部隊の隊員のようであった。

 というか若い頃のシュワルツェネッガーにそっくり。



特殊部隊員(グリーンスネイク)っていう、銃士系と傭兵系を極めるとなれるやつ。謂わゆる複合上級職ってやつだな。まだ上はありそうだが」


「廃人はすげえな」


「まあ長くやってれば誰でも取れるからな。 お前も廃人になろうぜ!」


「善処するよ」



 仮にハマったとしても、リアルを捨てない範囲で頑張るつもりだ。



「んじゃ、早速モンスターと戦ってみるか」


「ぶっつけ本番かよ」


「習うより慣れろって言うだろ」



 まあ確かにそうだけど、と言おうとした瞬間、グッドは俺の背後に向けて発砲した。

 乾いた音が街に響く。



「……えっ、何?」


「いや、ちょっとレアモンスターがいたもんで」


「街中でも出るんだな、そういうの」


「ああ、うじゃうじゃ出るぞ」


「うじゃうじゃ出るのはレアじゃないだろ」



 よくわからないが、とりあえず街の外へ向かう。

 あまり大きくない街だ。すぐにフィールドにたどり着いた。

 一面の草原の中で、いくつかのスライムが跳ね回っているのが見える。



「なあ、スライム斬っても内臓とか出てこないか?」


「お前心配する項目が常人離れしてんな……大丈夫だ、基本的にモンスターは倒してもポリゴンに分解されるだけだからな。初期設定では血みたいなのもエフェクト的に見えるように設定されてるし」


「神ゲーじゃん……」


「いやまあ確かに神ゲーではあるんだが」



 呆れたようにグッドが呟いた。

 クソゲーに触れ続けると人はおかしくなるらしい。誰か助けてくれ。



「まあいい、とりあえずスキルについては説明するわ。侍は最初にアクションスキルを覚えていない代わりに〈構え〉って言うパッシブスキルがあるんだ。わかりやすいのは上段、中段、下段な」



 言いながら、グッドは実際に刀の持ち方を示して見せた。

 その通りに構えてみると、上段の構えと下段の構えで、何か妙な感覚が身体を奔ったような気がする。



「上段は隙が大きくスタミナを消費しやすいが火力が高い。下段は火力が低いがスタミナの消費が少なく、隙がないので回避に発展させやすい。これ自体はスキル関係なくそうなんだが、侍はパッシブスキルの効果があるから、上段なら実際に火力が上がるし、下段なら移動速度や敏捷が向上する」


「なるほどな」



 何度か素振りを行い、自分が扱いやすい、最適な形を模索する。

 刀を振ったことがないのでよくわからないが、まあ、スライム相手ならなんとかなるだろう。

 


「よし、じゃあやってみるわ」


「おう、まあ頑張れ」



 ダッシュでスライムに駆け寄り、振りかぶった刀を全力で振り下ろす。

 軽い抵抗が手に伝わる。距離を見誤った為に、傷は浅かった。

 二撃目を加えようと刀を翻すと、同時にスライムが震えた。攻撃の予備動作か?

 下段に構え直し、身体能力の変動を感じながらステップで距離を取る。


 その瞬間、ゴムを弾いた様な音を響かせ、スライムが俺目掛けて跳躍した。



「やべっ」



 目前に迫るスライムに対し、咄嗟に腕でガードする。

 メキョッ、と嫌な音がして、左腕の感覚が消えた。



「……あ?」



 恐る恐る左腕を見る。

 ヤバイ方向に曲がり、力なく垂れ下がった腕が、スライムの攻撃のヤバさを物語っていた。



「……いや、スライムの強さじゃないだろこれ!!」



 そう叫んだ俺は、直後に二度目の跳躍を顔に受け、後ろで爆笑するグッドの声を聞きながら、絶命したのだった。



————————



 視界が切り替わり、街へとリスポーンしたことを悟る。

 街の中央の、大きな石柱のオブジェの下に戻されたようだ。この街のリスポーン地点なのだろう。


 遠くからシュワルツェネッガーみたいなやつが走ってきた。



「初リスポーンおめでとう!」


「酷い目に遭った」



 本当に酷い目に遭った。

 ツボに入ったようで未だに笑い続けるグッドを蹴りながら文句を言う。



「お前あれは無理だろ。絶対序盤の敵じゃねえ」


「いやいや、アレは正真正銘最初の雑魚敵だぜ」


「嘘つけ……なんでそんな高難易度にする必要性があるんだよ」


「そもそも《VOX》シリーズが死に覚えゲーだからな。その辺りも忠実に落とし込んだらしい」


「MMORPGに必要か? それ」


「さあ……どうせ慣れるし」



 廃人の適応力を一般人に求めないで欲しい。



「で、どうする? ヤバそうなら俺も手伝うけど」


「……まあ、あのスライムに関しては何とかなりそうなんだよな。跳躍は直線的な動きだし、それさえ分かれば……って感じ」


「お、もしかして死に覚えゲーの経験ある?」


「死に覚えゲーというか、バグ覚えゲーの経験なら何度もあるな」


「いやそんなジャンルはねえよ」



 ……俺の中には確かに存在するジャンルだ。

 当たり判定が無い地面とか、死後10秒間攻撃が発生し続けるボスとか、初見殺しのバグ達を記憶する楽しいゲーム。

 おすすめです。俺はもうやらん。


 

「よし、もう一回リベンジするぞ」



————



 跳ね回るスライムに、真っ直ぐ立ち向かう。

 自分からは仕掛けない。大切なのは後の先だ。


 こちらに気づいたスライムはすぐに身体を震わせた。

 何が起きるかは、もう分かっている。


 スライムが跳躍する瞬間、身体を左に引く。そして——



「おらぁぁああっ!!」



 ——全力で、野球のバッターの様に刀を振るった。


 真っ直ぐ、横一線に放たれた刀がスライムに接する瞬間、一瞬感じた抵抗感は、直ぐに消え去った。

 

 高校球児もかくやというフルスイング。

 ——決まった。

 そんな圧倒的達成感とともに、俺は視界の端で飛び散る刀の破片を見るのであった。


 ……破片。破片?


 手元の刀を見ると、鍔から先、つまり刀身部分が完全に消滅していた。



「こいつ、飛んでる間は魔法で硬化してるから刀じゃ無理だよ」


「スライム風情が魔法使ってんじゃねえ……!」



 結局その後、もう一度顔面に突撃を受けて、俺は本日二度目のリスポーンを経験したのだった。



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