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Part26 試練の前の試練


 料理人という職業があり、料理に関するスキルがある。

 当然それぞれの職業には選ぶメリットが必要で、それは料理人であっても同じことだ。

 料理人のメリットとは、バフのかかる食事を作れることだけでなく、単に美味い食事を作ることができることとも含まれている。


 料理なら現実で作ってる人も結構いると思うが、このゲームでは美味い食事を作るには料理関連の職業やスキルなどが必要だ。

 つまり、一流のシェフだろうが料理系スキルを持っていなければ、出来上がる料理は無味なのだ。


 これは全ての生産系職業に言えることで、現実での経験が役に立たないというわけではないのだが、それよりもスキルを持っている方が最終的な質は高くなる。



 ゲームなので当然といえば当然だ。

 よほど力を入れているのでなければ、VRゲームの生産は、簡略化された工程の何処かにパラメーター等を参照したゲーム的処理を行う工程が挟まれる。


 その工程はゲームによって様々なのだが……何故かこのゲームにおける生産では、何かしらの工程が『捏ねる』という動作に置き換わる。

 料理を作るのも、武器を作るのも、爆弾や薬を作るのも、必ず何かしらの作業が捏ねることに置き換わるのだ。


 ……もう少しなんとかならなかったのだろうか。

 このゲーム、全体としての自由度は高いが、その分料理などが割りを食っている印象がある。

 ソースまでかけたたこ焼きを捏ねて再構築するというのは、その後ちゃんと完成するとはいえ、精神的に少しきついものがあった。

 掘った穴を埋め直させる刑罰的な。



 まあ、結局のところ何が言いたいのかというと、料理系のスキルさえ取っていれば料理を失敗することはほとんどないということだ。


 それは格闘系上級職の『シュラハト』と、料理人系上級職の一つである『美食家(フードファイター)』を組み合わせたものである『サヴェージ』であっても同じはずで……だからこそ目の前のゲテモノはなんなのかと、自問自答を繰り返していたのであった。



「…………」


「…………」


「…………」



 クランハウスに、3人分の沈黙が流れる。

 左から超さん、俺、リンネだ。

 目の前には、およそ人の食すことのできない色で彩られた、ステータス的には料理に含まれるらしい物質が皿に盛りつけられている。



「さあ、冷めないうちに食べるといいわ!」



 自信満々に言うミーティア。


 適当なことを言って逃げたいのだが、クランハウスに入った瞬間何者かに背中に小型爆弾をつけられ「逃げたら起爆する」と脅されたので身動きが取れない。



「じゃ、じゃあ、頂きます……わね」



 震える声でそう言って、リンネは目の前のゲルのような緑色の肉を手に取る。

 ヴェノムドラゴンの骨つきステーキという名のその物質には、大幅な攻撃力上昇などのメリット効果が付いていたが、同時に猛毒というバッドステータスも存在していた。毒抜きをしろよ。


 リンネの手が震えているのか、それともそもそも肉が小刻みに震えているのか、プルプルと振動する肉を、彼女は口に運び——



「ヴァッ」

 


 ——身体にノイズが走り、消滅した。



「リンネ!?」



 正常なログアウトのエフェクトではない。

 他のゲームをプレイしている時に何度か同様の演出を見たことがあるのだが、これは肉体かヘッドギアに何かしらのダメージが入り、正常な動作を行えなくなって強制的にログアウトされる場合のエフェクトだ。



「あら? どうしたのかしら……心配ね」


「……………………」


「……………………」



 もはやバッドステータスとかいうレベルではない。明確な実害がある。


 ふと見ると、超さんの震える手が起爆スイッチのような端末を握りしめていた。

 それが俺の背中に付けられた爆弾の起爆装置なのか、それともテーブルの下から一定間隔で漏れ出る赤い光に関連するものなのかはわからないが、お願いだから早まらないでほしい。



「えっと、食べないのかしら……?」


「………………食べます」



 観念して、目の前の脈打つ肉にフォークを刺す。

 テーブルの上の料理をみたところ、この肉が唯一バッドステータスの存在しない料理だったのだ。

 溢れ出る青い液体を意識からかなぐり捨て、意を決してそれを咀嚼する。


 ……意外といける?

 なんというか、肉の旨味が確かに存在していて、ちょっとした辛味と酸味があるけど、それを打ち消すような辛味と酸味があってそれを更に上書きする辛味と酸味があってそれ以上の辛味と酸味が


「ぷごふ」


「ナツレンくん!!」



 なんだこれ。なんだこれ。

 辛味と酸味の威力が咀嚼回数分だけ二乗されていく地獄のスパイラル。


 このゲームの食材は、正規の手段で料理しなければかなり薄味だ。

 しかし、これは違う。

 こんな見た目なのに、正規の手段で料理されているため、しっかりとした味があるのだ。


 途中で痛覚遮断システムが発動し、まだ耐えられる程度の苦味と妙な歯ごたえを残した肉を飲みくだして、一息にコップの水をあおる。

 辛味と酸味がシステムに引っかかったらしい。殺人兵器かよ。



「ガッ」



 隣からうめき声が聞こえてくるが、もはや他人に意識を割く余裕などない。

 ……これがあと数十種類あるのだ。

 とにかく、生きなければ。


 絶対に、生きて帰るんだ。



————————



「はぁ……はぁ……」



 ヘッドギアを外し、額の汗を拭う。

 デスゲームに挑む主人公のような覚悟で挑んだものの、数品食べた後に強制ログアウトが発動してしまったのだった。


 グッドや御兎姫は知ってたのだろう。だからこそ、参加しなかったし、だからこそ俺やリンネに教えなかったのだと思う。


 なんだかんだでとても高レベルなモンスターの肉を使っていたため、一時的ではあるがかなり強いバフがかかっていたが……とにかく、次は絶対に行かない。

 そう決意したのだった。

 

Q.サヴェージってどんな職業?

A.パワー特化のインファイター。打たれ強くもないし避けまくるわけでもないが、モンスターの身体を食べることで回復と強力なバフを得ることができる本能的に蛮族タイプ。

プレイヤーやNPCなどの「人肉」は食べられるが、めちゃくちゃ不味いしバフなどはかからない。

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