Part24 見習い冥幻闘士
「うーん……」
「おっ、お目覚めじゃん?」
「リスポーン地点はここなのか」
無残にも五つの斬撃に斬り刻まれた俺は、先ほどまでと同じ岩の空間で目を覚ました。
死んだらここまで来るのが面倒だと思っていたが、ここもリスポーン地点として設定されているらしい。
ついでにファストトラベルの項目を見てみると、『冥き門前』という名称で登録されていた。バス停かよ。
「……というか、アレは無理だろ」
「そもそもクリアさせる気は無かったし、気にすることはないじゃん」
「だろうな」
まあそんな事だろうとは思っていたが。
「それはともかく、君の適性が理解できたじゃん!」
「ほうほう」
「このまま刀を使い続けるのもいいけど、刀を使うなら二刀流をお勧めするじゃん!」
「パス」
「即答じゃん!?」
「二刀流は苦手なんだよ」
今まで様々なゲームを渡り歩いてきたため、ほとんどの武器は問題なく扱うことができるのだが、二刀流だけは別だ。
両手に武器を持つとどうしても絡まってしまう。
スキルを発動すると勝手に身体が動いてくれるタイプのシステムであれば問題はないのだが、ヴォックソはある程度自分で動かなければならないので二刀流はキツい。
「かと言って、侍に執着してるわけじゃないんだよな」
「それなら冥幻闘士が良いじゃん!」
聞き慣れないワードだ。
まあ、キャラメイクでもわかった通り、このゲームは職業があまりにも多いので、全く知らないものがあるのも当然だろう。
グッドから聞いた話では、単純な初級、中級、上級の職業だけでなく、上級職を含む特定の複数職業の解放によって転職することができる複合上級職や、特定のユニーククエストをクリアすることで転職が解放される特殊職などもあるらしい。
例えばグッドの特殊戦闘員は、傭兵系上級職のコンドッティエーリと、銃士系の重火器特化上級職であるヴァリアントを組み合わせることで転職できるのだとか。
一部では最上級職なるものがあるのではと噂されているようだが、これに関しては真偽不明のようだ。
このような職業それぞれにスキルや装備、武器などがあると考えると、本当に狂ってるとしか思えない作り込みだ。
何でクソゲー扱いされてるのか……は若干わかるけど、個人的にはとても楽しいゲームだ。神ゲーと言っても問題ない。
「冥幻闘士……ってのはどんな職業なんだ?」
「簡単に言うと、幻闘剣っていう武器種を切り替えられる武器を使って、臨機応変に戦う職業じゃん? 考えることが多いけど、君には多分合ってるじゃん!」
「ふーん……」
武器種を切り替えられるというのは……まあメリットなのか。
確かに、戦ってて武器を変えたいと思ったことは何度もある。
明らかに斬撃の効かない敵だとか、近距離ではキツい敵だとか、そうでなくともその瞬間に最適なのは刀じゃない、と思うことは多い。
デメリットとして考えられるのは、主にスキル面だ。
様々な武器種に変更できるということは、それぞれの武器種に対応するスキルが必要ということでもある。
まさか獲得スキルポイントが武器種分だけ増えるなんてことはないだろうし、どれを優先して取るかの判断は重要だ。
幸い、普通なら複数取るべき属性攻撃に関しては頼れるバッファーがいるし、そうでなくとも属性を付与できるアイテムも存在するらしいのでそこまで問題にはならないだろう。
しかし、職業専用のスキル——侍で言う《構え》のような特殊なスキルは恐らく使えないと思う。
まあ何にせよ、立ち回りだけでなくスキル構成についても色々と考える必要がありそうだ。
その武器種を使う場合がどのような状況なのかを考え、その上でスキルを取り、それ通りに立ち回るだけのプレイヤースキルが必要。
かなり厳しい気もするが……しかし、凄く楽しそうじゃないか。
「そうだな……お試しとかは出来るのか?」
「勿論じゃん! じゃあ、ちょっと待ってるじゃん」
そう言って、ゲートキーパーはするりと門の中へと消えていった。
一分ほど経って門から出てきた彼女の手には、シンプルな鞘に収められた白い剣が握られていた。
「はいっ、これあげるじゃん」
[ヘカトンケイル・レプリカ]と銘打たれたその剣を受け取ると、同時に新たなウインドウがポップアップしてくる。
[見習い冥幻闘士へのジョブチェンジが可能になりました]
「見習いか」
「免許皆伝は私に認められないとじゃん? 私は疲れたし一旦寝るから、職業変えてくると良いじゃん!」
欠伸を一つして、とぷんと地面に沈むようにゲートキーパーは消えた。
……何者なんだろう。こういうのって本筋に関わってきたりするんだろうか。
確かwikiには色々と考察的なページがあったような気がするが、ちゃんと見たわけでも無いしよくわからない。
それはともかく、職業を変えに行こう。
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「一応被っとくか……」
深編笠を被り、水の街ペンテローネを歩く。
自警団やらミーティア親衛隊やらが居ないとも限らないので念のためだ。
なんだかんだで侍用のファンタジック和服と深編笠はマッチしているようで、半裸虚無僧の時のように悲鳴をあげられることはなかった。
「えーっと、ここか?」
少し歩いて、目的地っぽいところにたどり着いた。
マップを見て、ここが職業変更所であることを確認する。
どうやらペンテローネではスキルセンターと合体して一つの施設となっているようだ。
中に入り、ジョブ関連の項目を開く。
転職可能な職業で絞り込むと、見習い冥幻闘士はすぐに見つかった。
見習いなのだが、システム上は中級職として扱われているらしい。
多分、冥幻闘士が上級だからだろう。
「これに転職……と」
見習い冥幻闘士に転職しましたというポップアップが現れ、自動的に装備が切り替わる。
水神の洞窟で戦ったコウモリの素材で作った胴、腰、足の侍専用防具が外され、しかし職業に制限のない深編笠はそのまま装備されたまま残った。
……ん?
隣にいた女性プレイヤーが、俺を見て短く悲鳴をあげる。
…………これ、半裸虚無僧の再来じゃん?




