インタールード
□◆□◆□◆的なのは視点の切り替えです
若干わかりにくくなりそうなので多分そんなに使いません
VRゲームで一番キツい死因は落下死だと思う。
ゲームがゲームである以上、どんな死に方をしようが痛みは存在しないのだが、それに至るまでの恐怖というものは拭えないものだ。
苦しい死に方として有名な焼死や溺死も、VRゲーム内であれば大したことはない。
しかし、落下死だけは別だ。落下する間はもう……ヤバい。怖いというか、フリーフォールとかのフワッとした感じが胃に悪い。
だからこそ、足場崩れて落下した時は目を閉じて何も考えないようにしてたのだが……
不意に落下スピードが変わったことに気づき、恐る恐る眼を開ける。
「あ、暗黒さん!」
「……ユーゴだ」
どうやらユーゴさんが助けてくれたらしい。
左手で俺の手を掴み、右手から伸びる黒いロープをどこかに引っ掛け、振り子のように宙で揺られていた。
「下は近い筈だ。一度底まで降りる」
「わ、わかりました」
勢いをつけて飛び、別のロープを伸ばしてターザンのように移動していく。
それを数回繰り返し、ようやく地面についた。
辺りは暗く、手元すら霞んで見えるほどだったが、ユーゴさんが手から火の玉を出現させると問題なく見渡せるようになった。
「ふう……ありがとうございます、助かりました」
「……ここに繋がっていたのか」
「知ってるんです?」
「ああ……そうだな、お前になら教えても問題あるまい」
「はい?」
「これから見るものを、他言しないと誓えるか」
「えっ、あっはい」
慌ててそう答えると、ユーゴさんは俺に背を向けて歩き出した。
ついて来いってことか。
途中でジェネラルゾンビのものであろうドロップアイテムを回収しつつ、地下を進んで行く。
少し歩くと、だんだんと様子が変わってきた。
舗装されていなかった地面には石畳が敷き詰められ、壁には確かな光量を持つ黒い炎が灯る松明が据えられている。
やがて狭い道を抜け、大きな黒い門のある広い空間に出た。
いわゆるボス部屋のような空間だ。
門以外は今までと特に変わらないが……
「やあ、ユーゴ。あれっ、ユーゴが人連れてくるなんて珍しいじゃん」
突如、声が響いた。
何処からともなく聞こえてくる声に対し、ユーゴさんは応える。
「成り行きでな。しかし腕は良い」
「へえ……なるほど、確かに良さそうじゃん」
そう言うと、急に空気が歪む。
蜃気楼のように揺らめき、人の形をとったそれは、暗い色を伴って現れる。
声の正体は、ユーゴさんと同じように全身を黒い服で揃えた少女だった。
「えっと……誰?」
「私は、この『冥き門』を護ってる存在……ゲートキーパーと呼んでくれればいいじゃん?」
[ユニーククエスト 冥き門を護る者を開始しますか?]
ユニーク……クエスト?
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ナツレンがユニーククエストを受注したのと時を同じくして、アインシアに現れたプレイヤーが一人。
聖職者用の初期装備に身を包んだ彼女は、聖職者に似つかわしくないほどに闇を湛えた目で微笑んだ。
彼女は、ある目的の為にヴォックソをプレイし始めた。
それは廃人達のように自由度や世界観に惹かれた、などと言うものではなく、ある人に会いたいという目的のもとプレイし始めたのだ。
アインシアの街中を歩き始めた彼女を、ナイフを持った初心者狩りが襲う。
しかし——
「邪魔なんだけど?」
「グボァ!」
抜き放ったメイスは的確に初心者狩りの顎を捉え、その脳を揺らす。
彼女はスタン状態になった男を路地に連れ込み、メイスで殴打した。
その顔に浮かんでいたのはまさに恍惚の表情であり、やがて男をキルすると、そのアイテムを漁りながら思い人への妄想を始める。
「待っててね……ナツレンくん……ふふっ」
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薄暗い部屋に、灯がともされた。
中央に円卓が置かれているこの大きな部屋に、一人、また一人とプレイヤーがやってくる。
彼らの所属クランはバラバラだが、しかし、皆同じ同盟に所属している。
十二クラン同盟——その名の通り十二のクランによる同盟であるそれを構成するクランはどれも一線級であり、だからこそ、今この場で円卓を囲む十一人のプレイヤーは、それぞれがトップランカーと言っても差し支えないほどの強さを持っている。
少し遅れて、一人のプレイヤーが現れた。
白衣と爆弾の被り物が特徴的なプレイヤー——超人マンは、遅れたことを詫びると席に着いた。
「さて……呼びかけた人間が遅れてしまって、申し訳ない。全員来てるのかな?」
「【黒盟騎士団】はマスター不在につき、サブマスターである私が代理で出席しています」
「【天の最果て】も、同じく」
「なるほど。まあそこのマスターは乗ってくれるかな……」
超人マンは、改めてプレイヤー達を見回す。
そして、ゆっくりと喋り始めた。
「私のクラン【アルゴノーツ】は、近いうちに『月』を起動するつもりだ」
その言葉に、マスター達はそれぞれの反応を示した。
声を発する者はいなかったが、その表情は動揺に近かい。
「つまり……あのイベントをもう一度起こすと言うことかい?」
初老の男性が、最初に声を上げた。
「ああ、そう言うことだね。だからついでに君たちに恩を売っておこうと思ってね」
「なるほど」
「どういうことなのだ?」
「時間がわかっていれば、ある程度の独占が可能……か」
具体的な言及こそしていないが、ほとんどのマスター達は超人マンの言葉の意味を理解しているようだった。
「それに加えて、うちのメンバーの情報愛好家が主な出現位置まで特定してる。場所が場所だから、多分ランダムってことは無いはずだよ」
「……そう。で? 何かしら要求するんでしょ? とっととその辺を教えてほしいな」
超人マンは、被り物の下で口の端を歪めて笑う。
「ここからは、交渉の時間だね」
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