Part22 形態変化
得物を鎌へと変化させたジェネラルゾンビ第二形態。
飛ぶ斬撃は脅威だが、わかってしまえば対処は容易だ。あの技は大振りなので、近づけば発動されない。
魔法を織り交ぜてくるようになったが、近距離であればそこまで脅威ではなく鎌の攻撃自体も回避は容易い。
……弱くなってね?
もしかしたら一撃のダメージが上がっているという可能性もあるが、どちらにせよ直撃はそのまま死に繋がるので気にすることでもない。
あとついでに防御力も下がっている気がする。
第二形態になってから鎧の隙間から黒い瘴気のようなものが漏れ出ているのだが、触れても特にダメージはなく、防御力が下がっている事を暗に示しているのかもしれない。
何にせよ、俺にとっては好都合だ。
大きく怯んだ隙に、現状出せる最大火力のコンボを叩き込む。
上から振り下ろす《兜割》と下から斬り上げる《滝登》を連続させる事で《燕返し》が発動し、大きなダメージを与えることができるのだ。
「おらおら、弱くなってんじゃねーかあ!?」
テンションを上げつつどんどん斬り込んで行く。
ちなみにこの間†暗黒のなんとかかんとかユーゴ†さんは墓石に座って戦闘の様子を眺めていた。
手助けしてくれるわけではないようだが、元からソロで行くつもりだったし、この調子なら手を借りる必要も無いだろう。
その後も攻撃を繰り返し、第二形態に移行してから十分も経たずにジェネラルゾンビは膝をついた。
沈むように倒れ込み、兜が転がり落ちる。
「やったか」
「それフラグ……」
と言いかけて、あたりの霧が濃くなっていることに気づいた。
それは先程ジェネラルゾンビの剣を変質させた黒いモヤのようで、徐々に濃くなっていく。
……ジェネラルゾンビの鎧がカタカタと小刻みに振動を始めた。
鎧の中から現れた肉塊が霧を吸ってその質量を増し、鎧すら飲み込むほどに成長する。
これ、もしかしなくても——
「シャァァアアァアアア!!!」
「やっぱ第三形態じゃねーか!!」
人型の肉塊に成り果てたジェネラルゾンビが高く吼える。
ボスでも無いのに第三形態とかおかしいだろ。その分HPが低めであってほしいが……。
肉塊は飛び上がり、身体から刃を複数本作り出して地面へと落下し、勢いよく一回転した。
……やばい。今の一動作見ただけで攻撃範囲と機動力が底上げされてるのがわかる。
身体がそもそも不定形なうえ、自由に身体から刃を作り出せるというのがかなりマズい。
人型はもちろん、ドラゴンのようなアクション系ゲームによくいるタイプの敵であれば過去の記憶からなんとなくで行動することもできるのだが、こいつにはそれが効かない。
そもそもがアクションゲームというよりホラーゲームのボス敵だ。こんな奴に銃とロケラン以外で立ち向かったことなどない。
「シャァァァァアアア!!!」
「うるっ……せえ!」
例によってこいつの咆哮にも行動阻害の効果が含まれていた。
龍水といい、こいつといい、咆哮を絡められると動きにくくてかなわない。
実際、竜種なんかはどいつもこいつも初っ端から咆哮をかましてくるようなやつらばかりなので、それにデバフが乗るこのゲームにおいて聴覚保護系のスキルは必須だろう。
肉塊を突き破って目の前に現れた剣を背後に滑りって躱し、再度接近して攻撃を叩き込む。
一つ救いがあるとすれば、この形態は確実に防御力が低い。鎧がないのだから当然と言えば当然なのだが、やはり手に伝わる感触が違う。
このゲームには、ダメージの通り具合を感触で伝えるシステムがある。
ダメージが0の場合はそのまま弾かれるのだが、1ダメージでも与えられるのなら刃は途中で止まる事なく振り抜くことが可能だ。
その分、いくら貫通力の高い武器であっても首を斬って一撃、ということにはならない。
もちろん弱点を攻撃すればクリティカルが発動するし、一箇所にダメージを集めることで部位破壊が起こったりもするので積極的に狙うべきだが、人型エネミーの心臓を貫いてワンパンというのはVOX-0に限らずどんなゲームでも不可能だ。
……いやまあ、そういうクソゲーはあったけど。
圧倒的リアルを謳ったファンタジー系RPGだったんだが、あらゆるモンスターが首斬れば死ぬので貫通力を鍛えまくればラスボスすらワンパン出来るというクソゲーだった。別にそれ以外リアルじゃなかったし。
タイトルを略してSHOK……処刑《K》と呼ばれ、一部クソゲー界隈では親しまれているらしい。
「っと、集中集中!」
クソゲーのことを考えている場合ではなかった。
オワタ式戦闘では集中力の低さが命取りだ。おのれクソゲー。
相変わらず全身から剣を生やして攻撃してくるジェネラルゾンビ。
地面から腕を生やす魔法もコンパクトになったが、その分近距離で使ってくるようになった。
地面からの攻撃魔法はカースゴブリンと戦った時に慣れたが、別の攻撃を対策しつつ避けるというのは少し難しい……まあやるしかないのだが。
咆哮を食らいつつ若干距離を置いてスタミナの回復を行う。
すると、ジェネラルゾンビは腕を伸ばし、そこから複数の刃を作り出した。
「遠距離……いや、中距離攻撃か!」
振るわれた腕は刃ごと回転しつつ、大きくしなりながら迫ってくる。
跳んで避け……るのは無理か。
「《グライドステップ》!」
範囲外まで全力で逃げ、腕を回避する。
範囲内に入っていた暗黒の人は墓石に座ったままの姿勢で跳躍して回避していた。波紋使い?
と、余所見している場合ではない。
刃を体内に戻し、腕を縮めるという動作を行うジェネラルゾンビに接近し、脳天に《兜割》を叩き込む。
追撃はできなそうだ。防御力低下のデバフが入っただけ良しとしよう。
次の攻撃に備え刀を構え直す。
「カ、ァァァ……!」
「何だ?」
突如、ジェネラルゾンビの様子が変わった。
膝をつき、右腕を庇うように体を丸めている。
直ぐに右腕から複数の刃が飛び出し、やがてそれは一つに融合して巨大な一本の剣となった。
「はあ!? 第四形態!?」
悪の帝王かよ。
今時ラスボスでもそんなに変化しねえぞ。
「あれは形態というより、最後の足掻きだ。直ぐに死ぬ」
いつのまにか背後に立っていた暗黒の人がそう呟く。
事実、もうジェネラルゾンビに先ほどまでの力を残っていないようであった。
攻撃も大振りで単調。避けるのは容易だ。
パワーを集中させるために右手に集めたというよりも、複数本を維持できなくなったから一つにまとめたというような稚拙な動き。
一閃、半月斬、滝登。あらゆる攻撃がジェネラルゾンビの身体を切り裂き、崩壊させる。もう長くはない。
「これで……終わりィ!!!」
「グガッ……ァ!」
口から黒い泥のようなものを吐き出し、ジェネラルゾンビはよろめいた。
人間の形を保っている左手で喉を抑え、苦しむように後ずさる。その後ろの深い亀裂にも気づかずに。
果たして、屍の将軍は足を踏み外した。
空を飛ばないものであれば誰しもが打ち勝つことのできない重力に引かれ、その身体は小さく消えて行く。
「倒せた……か?」
落下音が聞こえない。当然底には明かりがなく、覗き込んでも目視は不可能だ。
倒せたのか若干不安になるが……。
[レアモンスター ジェネラルゾンビを撃破しました]
[クエスト 墓場に眠る騎士を達成しました]
どうやら問題なく倒せたらしい。
落下音すらしないほど深い亀裂がなんであるのかはともかく、これでクエストクリアだ。
「……中々やるではないか」
後ろから、暗黒の……暗黒さんが声をかけてきた。
褒められて悪い気はしない。
振り返って、改めて助けてもらった礼を——
「えっ?」
——ガラッ、と音を立てて、俺のいる地面が崩れた。
後ろに引っ張られるような感覚と、遠ざかる視界。
あっ、これ死んだわ。
まあクエストはクリアできたからいいかと思いつつ、落下死の恐怖を和らげるために目を閉じた俺が最後に見たのは、こちらに向かって飛び込んでくる暗黒さんの姿だった。
ジェネラルゾンビは形態が変わりまくるけどその分HPが低めです。
高い攻撃力の代わりに色々と犠牲にしており、ナツレンのような回避アタッカーにとってはかなり倒しやすい敵だったり。




