Part19 超次元戦車戦ティースリー
「……疲れた」
無事に追っ手から逃れてログアウトに成功した俺は、ゆっくりとヘッドギアを取り外し、伸びをした。
かなり連続でプレイしていたから、少し体が凝ってしまったようだ。
首を回しつつ、軽く飯を作って栄養を補給する。
チャーハンは美味くて楽。
「さてと。どうすっかな」
おそらく、今ログインしてもまだアイツらは居るだろう。執念が凄いし。
ついでに、【自警団】の方も何かしら動く可能性がある。今ログインするのは危険だろう。
そういえば、さっきチャットで超さんにゲームの上手い奴を勧誘してほしいと頼まれたのを思い出した。
「ゲームが上手いやつ、ねえ」
ゲームが上手い知り合いというと、かなり心当たりがある。というか知り合いは大体ゲームが上手い。
一癖も二癖もあるような連中だが、その分プレイヤースキルは抜群だ。
とはいえ、ヴォックソに誘える人間となるとあまり多くはない。
プロゲーマーや実況者のようにゲームを仕事にしている人間はまず無理だ。時間的な面で断られるだろう。
ヴォックソをやっている奴も割といるし、単純にヴォックソをやらなそうな奴も多い。過疎ゲーしかやらないやつとかな。
超さんのいう「ゲームが上手い」というのがどのレベルなのかを図るのも少し難しいといえば難しい。
とりあえず自分と同じくらいの実力の人間であればいいのだろう。
Aliceに攻撃されないというのは……もうぶっつけ本番でやるしか無いな。ダメだったらダメだったで別の人を探そう。
以上の条件から、俺は一人のプレイヤーを導き出した。
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「久しぶりにログインしたな……」
前回ログインしたのは半年前だろうか。
かなりのブランクはあるが、変わらない鉄と油と火薬の匂いが俺を出迎える。
ロビースペースを歩く俺を、懐かしい声が呼び止めた。
「あっ、ナツレンさん!お久しぶりっす!復帰っすか?」
癖のついたオレンジ色の髪の毛で、ザ・後輩みたいな喋り方をするこいつの名はエビ美。
俺がこのゲームで一番最初にフレンドになったプレイヤーだ。
「よう、エビ美。今日はまあ、人探しに来たんだが……」
「そうなんすか? まあまあ、とりあえず一戦やりましょうよ!!」
「あー……そうだな、やるか!」
エビ美から送られて来た搭乗員申請を受諾し、二人で出撃ドックへと向かう。
巨大な戦車が並べられた空間には、一段と濃い戦場の匂いが漂っていた。
《Two Thousand Tanks》、通称ティースリーは、1000台vs1000台の超大型戦車戦が楽しめる戦車ゲーである。
といいつつ、上限が設定されているのは戦車の台数ではなくプレイヤーの人数なので、一つの戦車に乗せる人数を減らせば1000台を超えて配置することもできる。
しかし、搭乗人数の少ない戦車はそれだけ打たれ弱かったりするので、その辺りのバランスは考えなければならない。
まあバランスを考えるのはそれぞれのプレイヤーなので当然偏ることも多々あるのだが、それもまたオンラインゲームだ。
実際に戦場として使われた場所を再現したマップがあったり、史実の戦車が多数出演していたりと、ミリオタ大興奮なゲームでもある。
さて、今回俺たちが乗る戦車は軽戦車だ。
名前は……なんだったか。代表的な軽戦車らしいが、あまり詳しくないのでよくわかっていない。
戦車は好きだが「戦車?かっこいいよね!」という感じなのだ。つまりにわかなので大人しくしています。
「よーし、張り切って行くっすよー!」
と、運転席に座って意気込むエビ美。
そしてその後ろで大量の超高火力爆弾に囲まれながら砲手席に体育座りする俺。
「……あの、エビ美」
「どうかしたっすか!?安心してほしいっす!先輩と私とで最高のコンビネーション見せつけてやりましょうっす!!」
「いやこの戦車ソロ用の自爆機じゃねーか!!!」
戦車の台数は増やしたいけど、搭乗員が少ない戦車はスペック的に微妙に設定されてるし、どれだけ無理矢理削っても操縦と攻撃の二人が必要だ。もちろん、二人というのも現実的な数字ではない。
人数が必要なら、その分強い重戦車に乗ろう。
そんな諦めムードがかつてのティースリーを覆っていたのだが、ある時、一人の悪魔がこんなことを閃いた。
——それなら、最初っから砲撃を考えずに大量の爆弾を詰んで突撃すれば1人で最高のダメージを与えられるのでは?
その結果生まれたのがこの自爆機である。最悪すぎる。
「飛ばすっすよー!!」
「せめて重戦車に乗せてくれ!!!」
そんな俺の叫びも虚しく、試合開始の合図と共に時速100kmを超える速度で飛び出した軽戦車は、更に加速しながら敵陣へと迫って行く。
背後からは同型の軽戦車たちが恐ろしいスピードで走りつつ散開している。こいつらも同じく自爆要員だ。誰に頼まれたわけでもないのに自分から進んで自爆しに行くその爆発魂には敬意を表さざるを得ないのだがそれはそれとして俺は帰りたい!
「敵陣が見えて来たっすよー!!!」
前方に蠢く鉄の群れ。大量の敵の戦車が全てありえない速度でこちらへと突っ込んで来ている。
自爆特化の軽戦車は別の場所に回しているらしく、どれも中戦車や重戦車なので軽戦車ほどの速度はないがやはり時速100kmは普通に出てるように見える。
「揺れるっすよ!」
「あぶねえっ!!」
時速120kmで走るポルシェティーガーの砲塔から高出力のレーザービームが照射された。
エビ美はそのドライビングテクニックをフルに活かしてドリフトでビームを躱すと、敵の軍団の懐に肉薄する。
「チェストォーーーッ!!!」
「もうどうにでもなーれっ!!」
起爆。轟音。連鎖する破壊。
ほかの軽戦車たちが次々と爆破していく様を第三者視点で眺めながら、やっぱこれクソゲーだなと思いました。はい。
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「ナイスボンバーっす!!」
「ボンバーしかしてねえもんな」
結局さっきの試合は俺たちの陣営が勝ったらしい。
正直戦った記憶がまるでないので特に感想もないのだが、最後に残ったT28とトータスの一騎打ちは中々にアツい戦いであった。
どちらも80トンを超える超重戦車だ。
持ち前のプラズマ波動砲や多段反射式レーザーなどを駆使しつつ、時速70kmで大地を爆走する二台の戦車の戦いには、思わず手に汗握ってしまった。
正直なところ、俺はこのゲームを割と楽しんでいる。
ジャンルとしてはバカゲーに近いだろうし、そう考えればクオリティは高いかもしれない。
しかし戦車ゲーを期待して買ってこれが出てきたら普通にキレると思うのでクソゲーはクソゲー。慈悲はない。
「そういえば人を探してるんすよね? もしかして私っすか?」
「いや、違うな」
肩を落とすエビ美。
彼女のドライビングテクニックは確実に一線級であり、俺の知る中で最も上手いとさえ思っているのだが、《VOX-0》においては活躍しにくいだろう。
「俺が探してるのはな、幻水だ」
「えっ、あの戦争屋っすか!? ナツレンさん、何を企んでるんすか……?」
「まあ、いろいろとな」
後ろ手に別れを言って、俺は目的の場所へと歩きだした。
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ティースリーには、小隊というクランのようなシステムがある。
同じマッチに入れたり、小隊用のランキングがあったり、メリットは色々だ。
そして今俺は、大小様々な小隊の中で常にランキング三位以内に入り続ける小隊【オスカーキャット】の部屋の前にいる。
若干気は進まないが、行くしかない。
扉を開けると、一人のプレイヤーが俺を出迎えた。
「おやぁ?アハハハハ!ナツレンくんじゃないかぁ!久しぶりだねえ!」
「相変わらず変わらねーな」
この謎にテンションの高い女こそ、俺が探していたプレイヤー、「幻水」だ。




