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Part18 奔る死兆星



 思わぬ乱入者のエントリーによって、オーディエンスはにわかにざわめき始めた。



「ミーティアって、あのミーティアか!?」

「あんな業、トップランカーにしか使えねえだろ!」

「え? またウルフさんちゃんFCとの抗争?」

「いや、相手は自警団だとよ!」

「なんでペンテローネに……」

「すげえ! 直接見るとかっこいいな!」

「君も、ファンクラブに入らないかい?」



 なんかみんな好き勝手言ってんな。

 ファンクラブとかあるのか? 確かに美人だけど。


 そういえば、以前見たヴォックソ最強ランキングスレでミーティアの名前が挙がっていたのを思い出した。

 掲示板で名前が出るような人だ、相当強いのだろう。

 


「貴様ァ……邪魔立てするなら斬り殺す!!」


「吠えるだけじゃなく実際にやってみなさい。刀、止まってるわよ」


「ぬぅァ!!!」



 挑発を受けて、自警団の女狂戦士は刀を握る力を強め、そのまま腕力で圧しようとする。

 しかし、動かない。

 まるで、刀が空中に固定されてしまったかのようであった。


 ……下への力を上から掴んで止めるのって冷静に考えたらヤバくないか?握力が化け物過ぎるだろ。



 尚も力技で押し通ろうとする女だったが、刀が発するミシミシという嫌な音を聞いて急に青ざめた。

 頭はおかしいが確実に上級者だ。武器の価値もバカにならないだろう。

 先程までとは打って変わって刀を引き抜こうとするが、やはり刀は動かない。



「貴様ッ、離せ!!」


「嫌よ」



 ミーティアが冷たく言い放つのと同時に、大太刀は大きな音を立てて砕け散った。

 野次馬がより一層騒めく。



「……今なら見逃してあげるわ。とっとと去りなさい」


「誰が退くかッ、この人殺しめ!!誅殺してやる!!」



 言ってることがめちゃくちゃ過ぎる。

 女は柄だけになった得物を投げ捨て、インベントリから別の大太刀を取り出した。

 向かっていくのは凄いが、しかし初心者の俺でも分かるほどに、この両者の間を隔てる力量の差は大きすぎる。


 大太刀を振り上げ突撃してくる女に対して、ミーティアは哀れんだように呟く。



「……そう、向かってくるのね」



 ミーティアが拳を握りしめるのと同時に、彼女のブロンドの毛髪が、意思を持っているかのように逆立った。

 それが彼女自身から発せられる「気」の様な物によるものだと、すぐに理解できた。

 渦を巻き、空気を歪ませる程の力の奔流。

 濁流に似たその無尽蔵なエネルギーは、ミーティアの拳に吸い込まれるように流動する。

 そして——



「《滅流漆星》」



 ——空気が、煌めいた。

 

 ミーティアの拳は閃光を伴って放たれ、その一撃は相手の腹部に七つの拳跡を残した。

 円環を描くように力の込められた六つの衝撃と、その中心を貫く一つの衝撃。

 【自警団】の女は、ライフルから射出された弾丸のように、高速で錐揉み回転しながら空の彼方へ飛んで行った。



「……ギャグアニメかよ」



 オーディエンスの一人がポツリと漏らした。

 うん、実際俺もそう思った。



「ふぅ……食べられないから最初から強めにしたのだけど、少し強くしすぎたわね」


「あ、ありがとうございます!」


「また敬語になってるわよ」


「あっ」



 クランに加入した時から敬語じゃなくて良いと言われているのだが、雰囲気とか佇まいとか、そういう部分でめちゃくちゃ格の違いを感じてしまい、ついつい敬語になってしまう。

 本当に姐さんって感じなんだよな。



「さて、身体を動かしたからお腹が空いてしまったわね」


「それなら、奢りま……奢るよ。お礼もしたいし」


「ありがたいけど、気持ちだけ受け取っておくわ。だって……」



 ミーティアは俺に背を向け、言葉を続けた。



「……私が食べたいのは、モンスターの肉なのよ」



 じゃあね、と手を振って、ミーティアは転移した。


 モンスターの……うん、深く考えないようにしよう。

 常識人ポジションだと思っていたのだが、少し怪しくなって来たぞ。



 流星の如く過ぎ去っていったミーティアに圧倒されつつ、とりあえず何処かで休もうかと思った俺の肩を誰かが叩いた。

 振り返ると、プレイヤーが約五十人。


 …………何で?



「なあ、あんたミーティアさんとどう言う関係なんだ!?」



 先頭のリーダー格っぽい男が声をかけたのを皮切りに、俺を取り囲むプレイヤー達は一斉に騒ぎ始めた。



「あんたミーティアさんの何なんだよ!」

「知り合いなのか!?」

「返答次第では殺す」

「君もファンクラブに入らないか?」

「殺す」

「殺す」



 おい半数が殺害予告じゃねーかよ。

 言動から察するに、コイツらはミーティアのファンクラブのメンバーなのだろう。

 というかステータスを見たら全員【ミーティア様親衛隊】に所属していた。多分あの人守らなくても問題ないと思うぞ。



「えーっと……」



 なんて答えるのがベストなのだろうか。

 同じクランに入った……というのはそれはそれで拗れそうだ。それで拗れそうだと感じる時点でもう詰んでないか?


 悩んでいる間にも、ファンクラブ会員達からの質問責めは続く。

 いや、質問責めというか、殺害予告が七割を占め始めたのでもう集団恐喝だ。適当にあしらって逃げよう。



「あっ!あんな所にAliceが!!」


「ッ!!??」


「メシなので落ちますね。乙でした^^」


「あっ!!てめえ!!」



 Alice、有効すぎ。まさか全員振り向くとは思わなかった。どんだけ恐怖植え付けられてんだよ。


 グライドステップとマナステージングで軽業師の様に屋根に登り、パルクールゲーで培った技術を基に追っ手の追跡から逃げる。

 屋根から屋根へ、路地に入り込んでまた屋根へ。


 やがて完全に暴徒(FC会員)の視界から逃れ、「名前覚えたからなあああ!!」という叫び声を聞きながら、木箱の裏に隠れた俺はゆっくりとログアウトするのであった。

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