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Part13 カエルキラー・ナツレン




「《エンチャント・ファイア》ですわよ!」


「サンキュー!おらぁっ!!」


「グゲェ!!」


良し(ベネ)、次!!」



 この世界において、プレイヤーは復讐者と呼ばれており、その目的は災厄の象徴たる『厄鴉』を倒すこと。


 これが俺の知りうるすべての情報であり、始めたばかりの初心者が自らの手で得ることのできる情報量の全てである。

 ……という風にリンネから聞いた。

 どうやらこのあたりはチュートリアルで知ることができるらしく、それを飛ばした俺は当然のようにその情報を知らなかった。



「わたくし、攻撃も出来ますのよ!」


「グァーッッ!!」


「ナイス!」



 何故プレイヤーが復讐者と呼ばれるのか、何故厄鴉を倒すのか、そもそも厄鴉が何なのか……疑問は尽きないが、やってるうちにわかるだろう。

 これがクソゲーならその辺の設定すべて放り投げて終了ってパターンもザラにあるのだが、今の俺の《VOX-0》に対する信頼度はとても高いのだ。



「もう一発!」


「ガコァーーーッ!」


良し(ベネ)……って痛え!あっやばい死ぬ、ポーション投げて!」


「はわわっ、はわっ!」


「焦り過ぎてRP(ロールプレイ)が雑になってないか!?」



 さて、今俺はリンネとともにデュオクレイン近辺のフィールドで戦闘を続けている。

 タレントスキルについてグッドに聞いたところ、もの凄いいい笑顔で「検証、しよう!」と肩を掴まれ外まで引きずられたのだ。

 検証内容はバッドクリティカルの発生率とドロップ率についてだ。前者はともかく、ドロップ率に関しては既に「運命力が高いほど良いアイテムが落ちやすくなる」という結果が有志により導き出されているのだが、やはりマイナスの場合はわからないようで、グッドの検証魂を揺さぶったのだろう。



「お前で最後だ!」


「ゲコォ!!」


「よし……100匹目!」



 戦闘をするならついでにとリンネも呼び、二人でジャイアントトードを倒すこと計100回。一応の目的を達成することができた。

 同じモンスターを相手にするとパラメーターが伸びにくいようで、20匹を超えたあたりからパラメーターの変動が微量になってしまったがそれはもう仕方ない。

 まあ、リンネのエンチャント系魔法を纏った状態での攻撃で魔法攻撃力が上がったり、ジャイアントトードの毒攻撃で弱体抵抗力が上がったり、あとは単純に攻撃を食らったせいで物理防御力が上がったりと、全体を通して見ると成長率は悪くなかったりする。



「疲れましたわ……」


「もうスタミナがない……」


「二人ともお疲れ!飲み物あるぞ」



 少し離れた場所で見ていたグッドが瓶を持ってやって来た。

 エナジーウォーターと表示されたそれは、飲むとスタミナを即時回復する効果があるようだ。

 飲んでみると、味はエナドリ風の飲み物という感じ。

 あくまで"風"だ。本物のエナドリのあのケミカルな甘さはほとんどなく、柑橘系フレーバーが強い。

 たまに飲みたくなるよな。

 


「二人ともMMORPGは始めてって聞いてたんだが、やっぱゲーム自体が上手いと上達も早いんだなあ。良い連携だったぞ!」


「リンネのバフがすごい助かる」


「私にかかれば、そんなことできて当然ですのよ? ……って、いつのまにか中級職になれるようになってましたわ!?」


「まああれだけ倒したもんなあ」



 リンネの職業は「令嬢」だ。

 職業が「令嬢」って何?と思ったのだが、主にバフを得意とする職業のようだ。

 中級職は「姫」で、分岐する上級職は「バフ特化のクイーン」「特殊バフ+自身も積極的に攻撃する戦姫」「デバフ特化になるエンプレス」という風になっているらしい。

 やはりRPGにおいてバフデバフは重要なので、そういう役割の人間がいてくれると本当に助かる。



「で、ドロ率の方の結果はどうだったんだ」


「ドロップアイテムは全て回収して確率を計算してみたんだが……ほぼ平均値だ。誤差レベルで平均より高いくらいだな」


「リンネと一緒だったから、ってことはないのか?」


「いや、ドロップ率は最後にダメージを与えた人間の運命力に影響されるからそれはないな。一回だけリンネが倒したやつがいたが、まあそれも誤差だ」



 運命力がマイナスになってもドロップに影響はない……のか?



「なんの話をしてるんですの?」


「あー……ちょっとした検証みたいな感じ。グッドに強要されてな」


「ああ、またですのね」



 いつもの事なのかよこれ。

 そういえば超さんも軽く流していた気がする……。



「ナツレンの方はどうなんだ?」


「こっちも全然だ。バッドクリティカルなんて一度も感じなかった」


「なるほどな……。これは憶測なんだが、内部的には禍患と新月では変化するパラメーターが違うのかもしれないな」


「というと?」


「例えば[物理攻撃力]は「物理攻撃で相手にダメージを与えるためのあれこれ」がまとまって出来ているものなんだ。その辺りは隠しパラメーターだから詳しくはわからないが、おそらくそれは[運命力]でも同じで、ドロ率やクリティカル率はそれぞれ独立した隠しパラメーターとして存在している可能性がある」


「……つまり?」


「新月で低下してるのはドロ率でもクリティカル率でもない別のパラメーターかもしれないってことだ」



 別のパラメーター……運命力が何に影響を及ぼすパラメーターなのかが現状よくわかっていないというか、他に運が絡みそうな要素が思いつかないというか、そんなことよりもステータスのシステムめちゃくちゃ分かりづらいな。

 ステータスはアテにならないとは上級者たちの弁だが、確かにあまり気にしない方がいいのかもしれない。


 

「ま、だからと言って何が変化してるのかはわからないけどな。事故に遭わないように気をつけとけよ?」


「そういう方向に不運だったら嫌だな……」



 流石にゲーム内とはいえそこまでシンプルに害のある不幸が襲いかかってくることはない……よな?

 


「まあ、また何か興味深い話があったら教えてくれよな。不運な割には色々持ってくるし」


「機会があったらな」



 今のところ禍患と新月とかいうデメリットしか得てないので、次はメリット効果を持っていきたいな……。




————————




 ジョブクエストを受けに行ったリンネと別れ、俺はスキルセンターという施設に訪れた。

 名前そのままスキルに関係する施設であり、俺もまだ把握できていないのだが、スキルの連結なども行えるのだとか。

 ただ、今必要なのはそれではなく、スキル練習用のシステムだ。


 自分の職業で取得できるスキルであれば習得しなくとも練習として使用できるという、スキル取得の前のお試しとして最適な機能である。

 このゲームはスキルの数があまりにも多く、派生や連結などのシステムも合わさって地獄のような自由度を持つらしい。

 利用しない手はないだろう。


 受付で料金を払って少し広い部屋へと入ると、スキルの試用(トライアル)が可能であることを伝えるメッセージが現れた。



「さて……何からやるか」



 スキルメニューを開き、少し考える。

 初級職だからか、現状覚えることのできる技能はあまり多くはない。

 その分熟練度を上げることで上の段階に進化するものがほとんどなので、早い段階から上げておこうと既にそれ系のスキルはあらかた習得している。



「全職共通スキルから何か選ぶかな」



 今日のお目当は回避系技能だ。

 バグだらけのクソ死にゲーを1年近くかけてクリアした経験がある為か、俺の身体は避けに最適化されている。

 であれば、最初から回避をメインとした構成にしておくのも悪くはないだろう。

 回避によってステータスが向上するものは取れるだけ取りつつ、あとは特殊ステップ系のスキルが欲しいな。



「ミラージュステップは短距離の瞬間移動か……後隙大きいし魔法職向きっぽいな。四足躍動は両手両足が地面についているときに跳躍性能が伸びる……侍向きじゃないな」



 特殊回避だけでもかなりの数があるのだが、その中で一つ気になるものを見つけた。



「《スカイグライド》は、空中をアイススケートの様に滑って回避する……なんか面白そうだなこれ。《グライドステップ》から発展する感じか」



 将来的に空中を自在に駆け巡ることができるというのなら、これはかなり興味がある。

 グライドステップは空中こそ飛べないものの、地面を滑ることができるらしい。


 メニュー画面から試用を選び、《グライドステップ》を一時的に習得する。

 一応実戦を意識して刀を構えておくことにした。



「さて……グライドステップ!」



 高らかにそう宣言し、後ろに下がった瞬間——音がなりそうな程の加速が俺の身体を強く引いた。



「はぁっ!?」



 あまりの急激なスピードに耐えられず体勢を崩した俺は、そのまま壁に叩きつけられてしまった。


 ……いやこれアイススケートではないだろ。

 足の裏に高速回転するタイヤがあるような殺人的加速だ。とても回避に使用できるとは思えない。


 思えない……のだが……。



「……燃えてきた!」



 こういうのを逆に使いたくなってしまうこと、あるよな。


 使いにくいのを使いこなしてこそ真のゲーマーだと言うつもりはないが、それはそれとしてこのグライドステップは使い熟せばかなり強い気がする。

 もちろん直感的に使用できるくらいにならなければ完全に自滅技なのだが、その分リターンは大きいはず。



「グライドステップ!ぐぁっ!」



 先ほどより派手に壁に叩きつけられながら、そんなことを考える俺であった。

スカイグライドは極めると空島でワイパーが使ってたやつみたいになります

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