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Part12 新月は空に有るか



「……待たせた」



 ステータス画面を色々と調べていると、受け取ってきたらしい武器を持って御兎姫(おとひめ)がやってきた。

 せっかくなので、このスキルについて聞いてみることにする。



「なあ、タレントスキル……って知ってるか?」


「………………」



 御兎姫は、少し驚いたように固まった。

 その後、数秒の沈黙の後に口を開く。



「……もし、それがあなたに関係のあることなら、信用できる人間以外には言わないほうがいい。少なくとも、重要なものだから」


「えっと……」


「……私が言えるのは、それについての情報はほとんどないということだけ。複数のプレイヤーがその存在を主張して、しかし証拠となるものは存在しない……それは、そういうもの」



 いまいちよくわからないが……この件に関しては聞かないほうが良いのかもしれない。

 話を聞く限り、タレントスキルは珍しいものであるらしい。


 ただ、この【新月】は状態異常のような効果を俺に与えている。

 説明には[運命力]が変動すること以外に何も言及がないため、デメリットがある代わりに凄いメリットがあるというものでもないのだろう。

 珍しいものだとして、何故デメリットなんだ?


 結局その日は【新月】に関する思考で頭がいっぱいになってしまったのだった。



————————



 御兎姫と別れてログアウトをした俺は、真っ先にネットを見た。

 とりあえず一番賑わっている掲示板を開く。得体の知れない烏合の群れとは言え、集合知には変わりない。



「このプレイヤー最強議論っていうのすげえ気になる……けどそれは後だ」



 検索にタレントスキルと入れて、ヒットしたレスを見る。



[初心者質問スレ]

172.名無しさん

タレントスキルって何ですか?


[報告スレ]

821.ミリオーネ

マジでタレントスキルがあった件

ソースは俺


[雑談スレ]

469.ヤタっち

ところでタレントスキルなんかあったか?



 検索できる範囲ではこの程度か。

 一応その書き込みがされた後の板の流れも見てみたのだが、煽られたり、そもそも反応がなかったり。

 ただ嘘乙的な反応から、なんとなく認知はされているということはわかった。

 問題なのは、その存在が「都市伝説」に近い形で認知されているようだということだ。



「これ……写真出したら時代変わったりしないかな……」



 御兎姫は「主張する人間はいるが証拠がない」と言っていた。

 もしここで自分がタレントスキルに関する写真を投下したら、ちょっとした祭りになったりしないだろうか。

 そこまで考えて若干怖気付いた俺は、とりあえず先程撮っておいたステータス画面の写真を見てみる。

 投下するにしても、プライバシー的な部分を隠すために加工しなければ。

 そう思って写真を見たのだが……



「……あー。証拠がないって、そういう」



 ……写真には、タレントスキルは映っていなかった。

 決してミスった訳ではない。

 タレントスキル【新月】と表示されていた部分には、ただの空白が存在していた。

 運命力の値もマイナスではなく、0に……えっ、デバフなくても俺の運命力って0なの?



 まあそれはともかく、写真に映らないという幽霊のような性質が、タレントスキルを「都市伝説」的な存在にしているのだろう。

 確かに、一部のゲームではネタバレを防ぐためなどの理由から写真に加工が入ることがある。仕組みとしてはそれと同じはずだ。

 しかし、そこまでして隠す理由というのはなんなのだろうか。



「わかんねー……」



 MMORPG自体が初めてな新人プレイヤーに複雑な事情がわかるわけがない。

 今は放置……いや、自分の胸のうちに秘めておこう。

 何なら墓まで持って行こう。

 決して考えるのが面倒な訳ではない。


 さて、調べ物も終わったし、時間にも余裕があるのでもう一度ログイン……



「……の前に、やっぱこれ気になるわ」



 [VOX-0プレイヤー最強議論スレ part19]、超気になる。

 いや、創作物でやるようなことをオンラインゲームでやってるとなると、流石に好奇心を押さえつけてはおけないではないか。

 ぶっちゃけ俺はあの手の議論は世界観が違う時点で不毛だと思っているのだが、これは《VOX-0》という同じゲーム内での議論なのでまた別だろう。


 さて、実際にスレッドを覗いてみる。

 明確なランキングが確立している訳ではないようで正確な順位はわからないのだが、活気があり色々と議論が交わされている。



「ヴォンヴォリは雪奈より上じゃね?」「あのかたつむり救世主ってどうなんだ」「実力が分からなすぎる」「最近の動向を見る限りミーティア様が一つ上だな」「は?ウルフさんちゃんが名実ともに最強なんだが?」「トリバードがプロゲーマーってマジ?」「わりとこのゲームプロゲーマー多いんだよな」「『ボンバーマン』ってどのくらい強いんだ」「あの人はPvPよりPvEで本領発揮だからな」「対人重視ならIDA天も相当強い」「でも全員Aliceちゃんに負けるよね」「全てをぶち壊しにくるんじゃねえ」「災害のことAliceちゃんって言うのやめろよ」



 なかなかに混沌としたスレッドではあるが、それ以上に……



「知り合いが複数人いるな?」



 先程の御兎姫との話にも出てきたトリバードに、【アルゴノーツ】のメンバーであるミーティア。

 同名の別プレイヤーという可能性もあるが、少なくともトリバードは確実にあいつだろう。

 ついでにIDA天というプレイヤーネームにも心当たりがあったりする。


 あとAliceな。本当にあらゆるプレイヤーに恐れられているらしい。

 超さん曰く、あまりにも強すぎてチートが疑われたことがあったらしいが、公式から「現状のVOX-0内にチートは存在していない」というアナウンスが出てからは沈静化したのだとか。



「とりあえずここで名前出た人は覚えておこうかな……って二つ名議論スレもあるのか。超気になる」



 もう一度ログインしようと思っていたのだが、結局その日は掲示板やwikiを眺めることで終えてしまったのだった。



——————



 翌日、朝早くからログインした俺は、超さんからクランハウスに呼び出されていた。



「おはようナツレンくん。来てくれてありがとう」


「ご機嫌よう!」


「おはようございます。……ん、リンネもいたのか」



 朝からテンション高いな。さすがプロだ。

 手元で何やら奇妙な色のものを捏ねている超さんは、目線を(目は見えないが恐らく)俺たちに向けて話し始めた。



「今日呼んだのは、まあ、ちょっとした提案があってね」


「提案、ですか」


「単刀直入に言うけど、君たちにはストーリークエストを最新のところまで進めてもらいたいんだ」



 ストーリークエスト。

 このゲームのストーリーの軸となる、俺がまだほとんど進めていないクエストだ。



「わたくしは殆ど進めてませんわね……」


「俺も倒したのはエルボアだけですね」


「なるほど。まあストーリークエストだけ(・・)やるなら難易度はそこまで高くないからすぐに行けると思うよ」



 超さん曰く、現状の最新部分まで行くために必要なクエスト数は4つらしい。

 デュオクレインから新たに行ける街は四つ。

 その四つはそれぞれ横に繋がり、それとは別にゼーヴェンクライツという一つの都市に繋がる。

 そして、ゼーヴェンクライツからも四つに分岐して、それぞれがツヴェルヘイムへと繋がっている。

 現状できるストーリークエストはツヴェルヘイムに行くためのものまでであり、最短ルートで行けば受けるクエストは4つで済むということだ。


 最短で行った場合ストーリーがわからなくなったりしないのだろうかとも考えたのだが、このゲームは直接設定が語られることがあまりないらしく、必要な要素は確実に通るであろうゼーヴェンクライツとツヴェルヘイムで語られるのだとか。


 まあ最短を目指さなくとも分岐の全てを回るプレイヤーはそこまで多くないだろうし、運営側もそういう仕様にしているのだろう。



「でも、なんでストーリークエストを?」


「まず一つはステータスを伸ばすため。格上を相手にするとパラメーターや熟練度が成長しやすいんだけど、それに加えてストーリーモンスターは成長にボーナスが乗るからね。そしてもう一つは、あるフラグを立てるため」


「フラグ?」


「詳しくはたどり着いてから話すよ。そこはストーリーを追っておいた方が良いだろうからね。……っと、出来た。これあげるよ」



 そう言って、超さんは俺たちに爆弾を渡した。

 え? さっきから何か捏ねてると思ったら爆弾作ってたの?



「あ、ありがたく頂いておきますわよ?」



 動揺したのか、リンネのロールプレイが若干揺らいでいた。


 色々と気になることはあるが、とにかく今はメインクエストを進めていくことにしよう。

 爆弾をインベントリにしまいながら、そう考える俺であった。

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