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Part11 少女の姿の大災害



「……で、この子について教えてもらえますか」



 【アルゴノーツ】のクランハウスの一階で、椅子に腰掛ける俺の膝の上には、Aliceと言う名のヤバいやつが座っていた。今は無言で煎餅を食べている。

 俺と対面する形で座っている超さんが、俺の質問に答える。



「Aliceちゃんはね、よくわからないんだ」



 答えになっていなかった。



「よくわからない?」


「そう、よくわからない。何せあまり喋らない子だからね」



 確かに、この少女は先程から一言も言葉を発していない。とはいえ、本当に何もわからないものなのだろうか。



「分かるのは、この子が戦いよりも散歩が好きだってことと、あとは職業だね」


「職業、ですか」


「パラメーターは見れないんだけど、職業ならステータス画面から見れるんだ」



 早速、目の前の少女のステータス画面を開いてみる。



————


[プレイヤー名] Alice

    [職業] 熾天剣(セラフ・ヘレヴ)


————



「熾天、剣……?」



 名前だけ見てもよくわからない。

 熾天というのは熾天使(セラフィム)から取っているのだろうが、それが職業に結びつかないというか……。



「その熾天剣が、彼女を守る防衛システムなんだ。観てもらった方が早いね」



 そう言って、超さんは俺の前にウインドウを呼び出した。

 ウインドウ内には動画が流れている。どうやら定点カメラで街の様子を撮影したもののようだ。

 活気のある大通りといった感じで、人々が行き来している。


 見ているとすぐに、画面下部からAliceが現れた。

 一人のようで、周りの風景を見ながら歩いているのだが、不意に覆面を被った一人のプレイヤーが物陰から刀を持って飛び出してきた。

 狙いはAliceだ。男はそのまま刀を振り下ろそうとし、その瞬間全てがバラバラになった。


 ……いや、そうとしか表現できないんだって。

 PKを行おうとしたプレイヤーだけではない。ほかのプレイヤーも、馬車も、ファンタジーな街並みも、映っていたもの全てが一瞬のうちにバラバラに切り刻まれていた。



「これが熾天剣の力。そういえばさっきも使ってたね」


「あー……」



 森に入った時に見たあれがそうだったのだろう。

 プレイヤーの能力としてありえるのか? これ。

 ぱっと見の情報だけで「自動迎撃、超範囲攻撃、超高火力」というヤバさ。ボスモンスターが持ってても普通にクソゲー案件なほど強力な技を持つプレイヤーってなんだよ。



「見てもらった通り、一度発動してしまえば周囲の人間が大勢巻き込まれてしまうから、一ヶ月くらい前に『Aliceちゃんハザードマップ』ができたんだ」


「『Aliceちゃんハザードマップ』……ハザードマップ? 災害のアレですか?」


「うん、アレ。Aliceちゃんがよく出かけるスポットを調べて、そのうえで被害が出るとしたらどの辺りなのかっていうのをまとめたものだね」



 いや、もう扱いが災害のそれじゃん。人類の営みを脅かす存在として台風や地震と同列以上に語られてるじゃん。



「ご存知の通り、プレイヤーは死ぬとリスポーンまでの三分間自体が残り続けて、その間ならアイテムを掻っ攫えるんだよね」



 まあそれに関しては身をもって経験しているというか、その結果が角材殴打半裸虚無僧なので若干トラウマに近い感情を抱いていたり……。

 表情の陰った俺を不思議そうに見ながら、超さんは言葉を続ける。



「Aliceちゃんにキルされてもそれは同じで、火事場泥棒にレアアイテムを持っていかれる可能性が高いから、上位クランはAliceちゃんの行動に関する情報を欲しがる。私たちは彼らにその情報を与えて、代わりに資金の援助を受けているんだ」


「すごい商売だ……」


「だからうちのクランは小規模なのに最上位クランと同等の発言権があるんだよね」



 壮大なマッチポンプというかなんというか。

 まあでもAliceの行動をこちらで管理できるわけでもなさそうなので、結局は誰かがやらなければダメなのだろう。


 そんな恐ろしい少女は、俺の膝の上ですやすやと眠っていた。

 ……本当に何者なんだ?

 このゲーム、ネカマが普通に可能なので、こんな見た目でも中身はおっさんってパターンが普通にあるんだよな。


 見た目通りの少女がプレイヤーだとしてもそれはそれで恐怖ではあるんだけど。

 幼さ故の残酷さ的な? アリの巣を埋めるのと同じ感覚で街を滅ぼすのはどうなんだ。



「まあ、なんにせよ、君に懐いているようでよかったよ。グッドくんの推薦とはいえ、その点がダメならどうしようもないからね」



 そう言いながら、超さんはウインドウを操作した。

 

[クラン【アルゴノーツ】に加入しますか?]


 表示されたウインドウに、迷わず「はい」を選択する。

 クランに入ったことによって解放された諸々のシステムについてのメッセージウインドウを横目で流し見つつ、差し出された超さんの手を握る。



「改めてようこそ、アルゴノーツへ。君を歓迎するよ」



 Aliceという爆弾を抱えた戦艦(アルゴノーツ)に、俺は乗り込んだのであった。



————————



「覚悟ぉぉぉぉ!!」


「……うるさい」


「ぐわぁ!!」



 死角から襲ってきたプレイヤーを、振り返ることなく撃ち殺す少女、御兎姫(おとひめ)

 今俺は、そんな彼女と一緒にデュオクレインを歩いている。この街の主要な施設に関して案内してくれるようなので、お言葉に甘えて色々と教えてもらうことにした。

 まあ御兎姫の方は超さんにお願いされて仕方なくという感じだったけど。



「……そっち、来る」


「うわっ」



 路地から音もなく飛び出してきた忍び装束の男が放つ手裏剣をギリギリで回避し、新しく覚えたスキルである《居合》を放つ。

 忍者というジョブは、単に高火力なアタッカーか様々な忍術を使うトリッキーな職業のどちらかであることが多いイメージだが、どちらの場合もほぼ確実に装甲は紙同然だ。

 《VOX-0》においてもそれは変わらないらしく、鞘から抜き放った一撃は忍者を一撃で死に至らせた。



「……アイテムは貰っておくべき。それが礼儀だから」



 律儀に待ってくれる御兎姫に感謝して、男の亡骸を漁る。

 先程聞いて知ったのだが、死体から手に入るアイテムは持っているアイテムからランダムで選ばれるらしく、持ち物を全て奪うというのは基本的に不可能らしい。金についても同様のようだ。

 つまり50個のアイテムを持っていた人間が死んだとして、そいつから手に入るアイテムはその中からランダムに選ばれた10個だったり20個だったりするわけだ。


 この辺りには「カルマ値」とか呼ばれている隠しパラメーターの存在が関わっているようで、カルマが溜まりすぎてると死んだ時に持っていかれるアイテムが増えたり、レア度の高いものが持っていかれやすくなるのだとか。

 つまりはPKしすぎるとやり返された時にデメリットでかくなるよって話だ。


 誰も殺してない善良なプレイヤーである俺が全てを失い半裸虚無僧になったことに関しては、単純に俺自身がほとんどアイテムを持っていなかったためらしい。

 《VOX-0》は序盤で辞める人間が多いと聞いたことがあるのだが、その理由、これでは?



「何があるかなーっと」



 忍者のアイテムには侍でも使えるものが少なからず存在するので、貰えるものは全て貰っておこう。

 ……おっ、知らないアイテムだ。

 まだ行ったことのないエリアのモンスターのドロップアイテムが手に入るというのはかなりメリットではあるが、あまりにも先のエリアにいる人間はパラメーター的に覆しようの無い差があるのでバランスは取れているように思える。



「お待たせ。……それにしても、PK多くないか?」


「……デュオクレインはいつもこんな感じ。あとは、私に復讐しに来てる人もいる」



 あー、お礼参り的な。

 聞けばかなりのプレイヤーをキルして回っているらしく、なんというか、筋金入りのPKerであった。



「やっぱり御兎姫は強いのか?」


「……対人には、自信がある」



 でも、と彼女は言葉を続ける。


 

「うちのクランの中では、劣ってる。ミーティアは単純に強いし、グッドはあの見た目で頭脳派だし、超さんは……戦ったことあるけど、戦車を相手にしてるような感覚だった」



 まあグッド(廃人)がいるクランなので薄々察してはいたが、やはり強者の巣窟という感じらしい。

 今のところ《VOX-0》は今までにプレイしたゲームの中でも最高クラスに面白いので、自分ももしかしたら廃人になってしまうかもしれない。どちらにせよ、まだ先の話だ。



「それに、あなたもきっと、私より強くなる」


「俺が?」


「人違いでなければ、私の同僚があなたを高く評価してる。ネットで有名でしょ?」


「えっ、ああ……そうだね」



 これでもある程度ネット上での知名度はある方だ。

 トークイベントにも呼ばれるし、有名な実況プレイヤーと対談的なコラボをすることもある。

 俺というコンテンツの性質上、ゲームの公式と何かをするということはほとんどないのだが、それでも人の目に触れることは多い。


 だからこそ、知られているということ自体は特に驚くことでもないのだが、同僚が高く評価しているとはどういうことなのだろうか?



「同僚? っていうと……」


「……私は、『ヴィルベルヴィンド』ってプロゲーマーチームのメンバー」


「ヴィルベル……あー、もしかして陽雄馬?」


「そう。ちなみにヴォックソではトリバード。部門が違うから、そこまで関わりがあるわけではないけど」


 陽雄馬という名の男——イヌドッグとかネコキャットとかサメシャークのような「日本語+英語」的なプレイヤーネームをゲーム毎に変えながら使っている彼とは、色々あってリアルでの交友関係がある。


 若干テンションが高いというか、ぶっちゃけかなりウザい奴ではあるのだが、評価されていたとは驚きだった。数をこなしてる分、普通の人間よりは上手いとは思っているが、流石にプロゲーマー相手には勝てないし。



「……さっきの動きも中々筋が良かったし、普通に殺りあってみたい」


「遠慮したいな……」


「……冗談」



 全く冗談に聞こえなかったんだが。

 垣間見える戦闘狂的一面(バーサーカーソウル)に戦々恐々としながら歩いていると、何やら店の密集しているエリアに入った。

 金属を打つ音が無数に響きあい、一つのリズムを作り出している。


 

「……ここが一番近い鍛冶屋街。武器でも防具でもアクセサリーでも、ここに来ればとりあえずは作れる……品質を求めるなら、信頼できる人に任せるべきだけど」


「なるほど」


「……私は頼んでたものを受け取りに行ってくる。あなたも、必要があれば何か作っておくといい」



 そう言って、御兎姫は一瞬で何処かへ去ってしまった。というか消えた。

 AGI特化は対人戦にて最強!とはよく聞くことなのだが、PKerはみな彼女のように素早いのだろうか。


 さて、せっかくなので装備を作っておこうかと思ったのだが、よくよく考えると手持ちの素材では足りなそうな気がする。

 カースゴブリンやエルボアを倒した時も、【禍患(かかん)】の効果で幸運が減少していたからか、ドロップアイテムがあまり手に入らなかったのだ。


 謎の男によって禍患はもう消えているのでその辺りはもう平気だとは思うが。


 そういえば、何回か戦闘を行なっているがステータスを見ていなかった。

 おそらく順調に上がっているだろう。

 そう思って、ステータス画面を開く。



———————————


  [生命力] 67→92

[物理攻撃力] 81→110

[魔法攻撃力] 20→20

[物理防御力] 37→58

[魔法抵抗力] 56→56

 [継戦能力] 87→112

[弱体抵抗力] 21→21

[総合思考力] 63→84

  [運命力] -100


———————————



 …………んん?


 ……全体的にパラメーターが伸びてるのはいい。

 伸びてないのがあるのもわかる。魔法は使ってないし、弱体効果も禍患以降受けていないからだ。


 ただし運命力、テメーはダメだ。


 慌てて状態異常の項目を見るが、当然のように【禍患】は付いていない。

 何故だ?

 デバフの解除が反映されてないバグである可能性も考えつつ、他の様々な項目を見てまわると、やがて一つの『異物』を発見した。


 その『異物』は、スキルの項目に——それも、タレントスキルという謎の項目に淡々と記されていた。




タレントスキル:【新月(バッドラック)

——まだ月は見えない。

[運命力]に関する特定のパラメーターを変動させる。




 ……いや、何これ。


一応補足しておくと、タレントスキルは主人公だけのものって感じではなく、他にも持ってる人がまあまあいます。

その辺りは後々。

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