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Part97 夜藤清彦

リアルが忙しくて執筆時間を確保できてませんが、一応この章のプロットは完成してます



 時刻は夜。

 人の気配のない街並みを、俺は辺りの気配に気を向けながら足早に駆けていた。


 この夜藤清彦というキャラクターは元忍者というだけあって、移動速度はかなり速い。

 防御力を犠牲にしているという点ではヴォックソの俺と同じだが、俺が余剰ステータスを主に火力に注ぎ込んでいるのに対し、こっちは満遍なく強化されているようだ。



 さて、先程から俺の走る通りには人ではなく小さな鬼——それこそゴブリンのような敵がちらほらといるのだが、今はそいつらに構っている暇などない。

 狙う敵はただ一つ。特殊な鬼だ。


 この虎狼BSには敵プレイヤーの他に敵モンスターとして鬼が出現するのだが、それにも結構な種類がある。

 俺も覚えきったわけではないのだが……大雑把に分ければ三種類になるだろうか。


 そこらにいる小鬼は最も弱く、序盤弱い状態で血法ゲージを溜めるのには役立つが、それ以外に特徴はない。


 その一段階上、中級の鬼は、おおよその人間が想像するであろう『鬼』そのもの。体躯の大きさに比例して倒した時の血法ゲージの上昇量は小鬼よりも大きく、種類によっては更に特殊な効果まで付与される場合もある。


 そしてその上に特殊な鬼が存在するのだが、これは正直一覧を見ただけでもその混沌ぶりが伝わってくるほどには統一性がなかった。見た目的に明らかに鬼じゃないだろと突っ込みたくなるような鬼だらけだったし。

 その上出現条件はかなり厳しく、時間経過によって出現するいくつかの特殊鬼以外はあまりお目にかかることはないだろうから、恐らく覚える必要性はないだろう。



「ナビゲーションは……ここか」



 チュートリアル用のマップを走り抜け、俺はようやく指定位置の間近にまでやって来た。

 そうして曲がり角を曲がった俺を待ち構えていたのは、人間より一回り大きい鬼。

 その特徴から、俺はナビゲーションの表示よりも早く鬼の名を導き出す。



「波動鬼か」



 撃破することで使い捨てアイテム『波動珠』を手に入れることが出来るため、記憶してあったのだ。

 波動珠の効果は、使用することで自分を中心とした範囲五メートルに吹き飛ばし効果のある波動を生じさせることが出来るというもの。味方も吹き飛ばしてしまうのが難点だが、そこはまあ上手く調整すればいい。



 ともかく、このチュートリアルではこの波動鬼を倒すことが達成条件に指定されているらしい。

 そうと分かれば、行動だ。


 波動鬼に走り寄りつつ、右手を前に突き出し、右方向へ払う。すると、俺の右手に火球が出現した。

 これが血法。そのまんま魔法みたいなものである。

 ちなみに技名は《火灼(かしゃく)》で、先程の右手の動作はこの火灼を使うために必要な動作だ。


 この動作は『結印』、すなわちショートカットキー的なもので、特定の血法を設定できるシステムだ。

 血法は技名を声に出すことでも使えるのだが、音を立てたくない場面で使うことも想定できるため、登録できるものはなるべく結印を使っていきたい。



 出現した火球を波動鬼の顔面めがけて放ち、同時に鬼の足元に向かって全速力で駆け出す。



「グ、ガア!!」



 突然の攻撃にたじろぐ波動鬼が炎の飛んできた方向を見るが、当然俺はもうそこにはいない。

 波動鬼の背後で、俺は再度結印を行った。

 右手を突き出して右に払い、今度は更に左に翻して腕を胸の前に持ってくる。

 火灼の上位血法、《陽焔(ようえん)》の結印だ。

 俺の右腕に生じた火球が一回り大きくなり、そのメラメラという音に波動鬼が振り向く。



 俺はその顔面に再度火球を放ち——



「——《空梯(くうてい)》!」



 血法によって空中に足場を作り、謂わゆる二段ジャンプのようにして俺は火球を挟んで波動鬼へと肉薄した。


 ヴォックソのマナステージングと同じような感じだが、マナステージングが足裏に足場を生成するのに対し、この《空梯》は場所を選ばない。

 自在に場所を決められるというのはそれだけ考える必要があるということで、適当に作ってしまうと足が届かないということになり兼ねないのだが、その分使いこなせれば結構幅広く対応出来るようになるだろう。

 まあ、ヴォックソに影響が出てもいけないので出すときは足裏を意識するつもりだが。



 さて、初撃に続いて再度顔面に火を放ったわけだが、当然波動鬼の方もこれをそのまま食らってしまうほど残念なAIをしているわけではない。

 空中で膨張しながら迫る火球を見て、波動鬼は右手で火球を払う。

 腕から血法を打ち消す波動のようなものでも出しているのだろうか。原理はともかく、その行動によって火球は打ち消され——



「狙い通り!」



 その動きの後隙に、俺は勢い良く刀を振るう。

 一瞬の振りに煌めく銀閃は波動鬼の二の腕辺りを一文字に斬り、一拍遅れてその剛腕を肉体から分離させた。



「グガッ!?」



 今回は敢えて戦闘に組み込んでみたが、物理アタッカーである夜藤清彦のメインウェポンは血法ではない。

 この『煌刀(こうとう)無景(むけい)】』という名の刀こそが、このキャラ最大の武器なのである。



「ゴァァアアッ!!!」



 雄叫びとともに波動が放たれた。

 ビリビリと体を震わせるような衝撃に二、三歩後ずさってしまったが、すぐに攻撃に転じる。


 一応目くらまし用の火灼を眼前に投擲しておいたが、流石にもう引っかかりはしないだろう。

 波動鬼は首の動きだけで火球を回避すると、俺目掛けて残った左腕を疾く突き出した。

 ゴオッと音を立てて迫る真空の衝撃波。

 それを寸前で身をよじって回避し、刀を抜き放って二度目の斬撃を叩き込む。


 肩口から切り離された左腕が宙を舞い、血のエフェクトが傷口から吹き出す。

 その雫が地面に染みを付けるよりも速く、俺は叫んだ。



「——《我流忍法・血旋華》!!」



 視界の端に表示された血法ゲージが一瞬で底をつき、同時に俺を中心として赤い円が形成される。

 その円を構成するのは刀のように鋭い赤い花弁で。


 それらは連続して波動鬼の首を斬り刻み、一瞬のうちに刈り取って行ったのだった。



「……よし、動きは掴めた気がするな」



 細かい粒子になって霧散していく波動鬼の骸の中から珠を拾い上げながら、俺は呟いた。

 この夜藤清彦というキャラクターを選択してから、現実時間でおよそ一日。流石に何度かログアウトはしたものの、それ以外の時間は殆どこのゲームのトレーニングに費やした。

 その甲斐あって、一先ず実戦に耐えうる程度の動きはマスターできたように思う。


 まあ、血殺術を使うタイミングとかはまだマスターしていないのだが……その辺りは実戦で経験を積んでいくしかないか。

 ちなみにさっき波動鬼にトドメをさすために血殺術を使ったのはチュートリアルだからで、実戦ではプレイヤー相手か強力な上級鬼に対して使うべきものである。



「にしても、結構面白いなこれ」



 まだ対戦までやったわけではないが、それでも結構ワクワクする。

 なんだかんだで、和風ゲームは好きだ。


 この虎狼BSで遊ぶことがヴォックソでの戦いの役に立つかはわからない、というかぶっちゃけ特に役には立たないと思うのだが、人には息抜きが必要だしな。



 当初の予定よりもハマってしまってるなと考えながら、俺は更にトレーニングを進めるのだった。

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