Part95 リアルでの遭遇
Partは95ですが、プロローグやインタールードを含めるとこれがちょうど100になるらしいです。
自分がここまで書き続けられたことと同時に、ここまで書いて全く終わる気配がないことに驚いていますが、これも皆様のブクマとか評価とかでモチベを保ち続けられた結果です。
今後ともよろしくお願いします。
「……はぁ」
ベンチに座り、溜息をつく。
WeFの打ち合わせに赴いた俺だったが、ついつい昨日の事を思い出してしまう。
第一の試練はすぐに突破することが出来た。
俺含め三人ともアドリブ的な動きを得意としていたというのが、あの試練の性質に噛み合ったのだと思う。
しかし、その次の試練がどうにも上手くいかない。
ゲンメイが連携の試練と呼称した第二の試練の達成条件は『絡繰漆號』という名の木造りのゴーレムを破壊することだった。
俺たちは互いに連携を取りながらそれに挑んだのだが……結果は惨敗。
トライアンドエラーを繰り返し、どうにか一つ難所を乗り越えることには成功したのだが、それ以降が続かない。
そもそも連携ってなんなんだろうか。複数人で組んで戦うゲームをほとんどやってこなかったせいで、その辺りをどうしたらいいのかが全くわからない。
これがまだ何個も続くんだよなと考えると、思わずため息が出てしまう。
「やっほー、怜穏! なんか暗くない? どうしたの?」
声のした方を向くと、見慣れた顔が心配そうにこちらを見ていた。
「ああ、鈴世。別に大したことじゃないんだけど、ちょっとヴォックソでクリアできないのがあってな」
声の主は鈴世だった。
ヴォックソではお嬢様口調でロールプレイをしている彼女だが、当然リアルでは普通の喋り方だ。
そんな彼女が何故この場にいるのかといえば、単純に鈴世も俺と同じ出演者だからである。
役になりきる事の巧さから『憑依型女優』と呼ばれている鈴世だが、ネット上では重度のゲーム好きとして知名度が高い。
それ故に、一般層への宣伝も兼ねてWeFに出演することになったのである。
当然だが、俺とはステージが違うので直接的な共演はない。俺が企業ステージで少しの間出演するのに対し、鈴世はメインステージで何時間も出演するのだとか。
人気者は大変だな。
「そういえばヴォックソで全然会ってないよな」
「だよね〜。最近忙しいし、予定合わないし……私の方が先に始めてたのに置いてかれちゃったなぁ」
「まあ、職業的に忙しいのは良いことなんだろうけど」
「でもやっぱゲームやりたいよ。最近やっと強くなれて来たし」
「そうなのか?」
「うん! 上級職にもなったし、ユニークもゲットしたし——」
と、ここで鈴世の携帯が通知音を発した。
「ごめん、ちょっと確認するね」とメッセージを読んだ彼女の顔が、すぐに焦った表情になる。
「やば……私の方の集合時間間違えてた! ごめん、また今度ね!」
「ああ、じゃあな」
走り去っていく鈴世の背中を見送り、まだ時間には早いけど移動しておくかとベンチから腰をあげ……
「…………」
……物陰からこちらをじっと見ている少女と目があった。
誰だ? なんか何処かで見たような気がするのだが、全然思い出せない。
カジュアルなゴスロリ風ファッションが目を惹くが、その個性の強さに負けないくらい可愛らしい顔立ちをしていることから、恐らく女優とかアイドルとか、そういう類の人なのだろうとは推測できる。この場にいるわけだしな。
見た目的には高校生か、はたまた中学生か。そのくらいの年齢ならアイドルの可能性が高いか。
もしそうだとしたら、何処かで見たような気がするというのは単に過去にテレビか何かで見たことがあるというだけの話だろう。
そんな事を考えていると、少女の方から先に口を開いてきた。
「……七月怜穏……で、あってる?」
「え、はい」
「今のは……彼女?」
「えっ? いや、友人です……けど」
予想外の質問に、思わずたじろいでしまう。
もっとしっかり否定しておくべきだったかもしれない。鈴世は女優だし、その辺り変な噂がたつ可能性もあるからな。
そんな不安をよそに、目の前の少女は話を続ける。
「……そう。あなたに渡すものがある」
そう言って、彼女は懐から何かを取り出し、俺に差し出した。
どうやらゲームのパッケージのようで、虎と狼の睨み合うカッコいいデザインに筆文字で『虎狼Bloody Strom』と記されていた。
何となく聞いた事のあるタイトルだが、正直言ってあまり思い出せない。和風対戦アクションゲーム……だったような気がするくらいだ。
「これを、俺に?」と聞くと、彼女は口を閉ざしたまま頷く。どういう事なんだろうか。
「……詳しいことは、ヒューマ……トリバードから聞いて」
「えっ、トリバード?」
突然知り合いの名が出たことに驚きつつ、俺は思い切って彼女の名前を聞く。
過去に会ったことがあったら失礼だろうなと思って聞けなかったが、よく考えると最初に俺のことを確認した時点で相手も俺のことを覚えていないか、そもそも会った事のない可能性が高い。
「あの、名前を教えてもらっても……?」
「…………ヴィルベルヴィント所属、三ツ木麗華」
そう言い残して、彼女は去っていく。
その姿が見えなくなってから、俺は急いでヴィルベルヴィントの公式サイトを開き、選手一覧を開いた。
ヴィルベルヴィント
格闘ゲーム部門リーダー 三ツ木麗華
その横に表示された写真は、先ほどの少女のものと完全に同じで。
俺はそこでようやく思い出した。
「格ゲー部門リーダー……って、御兎姫じゃねーか!」
虎狼BSのパッケージを手に、俺はつい叫んでしまったのだった。




