Part9 絶滅危惧種のお嬢様
日間と週間に入ってて二度見しました
「ほい」
「ん、聖者の証か。通っていいぞ」
聖者の証を見せ、厳戒態勢の関所を通り抜ける。
苦労して手に入れただけあって、すんなり進むことができた。
少しインベントリを整理しながら進んでいると、すぐに第二の街が目に入った。
「……でかいな」
それはもはや、街……というよりは都市に近い、巨大な建造物群であった。
アインシアとは比べ物にならない大きさだ。
距離的には少し離れているはずなのだが、それでもすぐ近くにあるように感じてしまうほど、その街は巨大であった。
高くそびえ立つ城を中心とした巨大都市。それがデュオクレインである。
前半部分における拠点となる街、という風にグッドは言っていた。確かにそれだけの規模はあるように感じる。
街道を歩いて行くと、周囲には初めて見るモンスターが複数いた。
赤いダチョウの様な鳥や、やけにデカいカエル、スライムの色違いなど様々だ。
戦いたい気分だが、今は先に街を見ておきたいので先を急ぐ。
街道には魔物が寄ってこないらしく、安全にデュオクレインまでたどり着くことができた。
「これは……テンション上がるなあ!」
巨大な正門の前で、思わず声に出してしまった。
ファンタジー系のRPGは、大体中盤くらいに城のある巨大な街に行くことが多い気がするのだが、まさにそんな感じだ。
西欧風の建物が立ち並び、プレイヤーやNPCが往来を行き来する光景は、自分が異なる世界に来てしまったかのような感覚をもたらす。
門番に聖者の証を見せ、門をくぐる。
同時に、リスポーン地点の更新と、街間の転移システムの解放についてのメッセージが表示された。
一度行った街であれば、多少の金を支払うことでワープできるらしい。
さて、デュオクレインに着いたのでグッドに連絡を入れようと思ったのだが、今は連絡を遮断しているようで、メッセージも送ることができなくなっていた。
何か用事があると言っていたのでそれだろう。
「……ん?」
何をしようかと考えながらフレンドリストを眺めていると、不意にメッセージが送られてきた。
送り主はリンネ。俺の現実の友人だ。
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ごきげんよう、ナツレン。
風の噂で《VOX-0》を始めたと耳にしましたの。
宜しければご一緒しませんこと?
先輩プレイヤーとして嚮導して差し上げますわ。
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「なるほど、今度はお嬢様系か……」
VRゲームのプレイヤーには、効率を追う者や速度を競う者、攻略情報を検証する者など様々な種類がある。
その中で、リンネというプレイヤーは「ロールプレイ」を重視する。
俺もどちらかというとロールプレイは大事にしていきたいと思っている方ではあるのだが、リンネのそれはかなり極端だ。
前に巨大なモンスターを狩るアクションゲーム(クソゲー)を一緒にやった時は「廓言葉の花魁『凛音』」だったし、FPS(クソゲー)では「組織によって作られた戦闘アンドロイド『RINNE-Λ』」だった。
他にも、俺はプレイしていないのだが、ある格ゲー(クソゲーではない)ではそれぞれのキャラクターに合わせて喋り方を変えているらしい。
そのようにゲーム毎に個性を設定し、その通りにプレイしていくというのが、彼女のちょっとした縛りのようなものなのである。
『今デュオクレインにいるんだが、会えるか? まだここまでしか進んでないんだ』
『問題ありませんわ!わたくしもまだあまり進んでいるわけではありませんの』
『了解。何処で待ち合わせる?』
『そうですわね……「黄金蜂蜜」という喫茶店がありますの。マップから検索すれば分かるはずですから、そこで待ち合わせ致しましょう』
「黄金蜂蜜か」
ショップでデュオクレインの地図を購入し、検索欄に黄金蜂蜜と入れて検索すると、今いる場所より北西の方向に店の場所が表示された。
若干遠いが、今から行けば問題ないだろう。
辺りの景色に見とれながら、俺は「黄金蜂蜜」に向かって歩き出した。
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「ここか?」
大通りから少し奥に入った若干人通りの少ない小道にその店はあった。
存在を知らなければ通り過ぎてしまいそうな店構えだ。知る人ぞ知る、というものなのだろう。
扉を開け、来客を知らせる鈴の音とともに店内に入ると、こじんまりとした店内の奥にいる少女と目が合う。
金髪縦ロールというもはや前時代の遺産となったコッテコテの『お嬢様』を演じる少女は、名前を確認するまでもなく確実にリンネだった。
「あら、御機嫌よう。随分とお早い到着ですのね?」
「急いで来たからな」
そう言って、俺は向き合うように席に着いた。
リンネはショートケーキを食べている。
「店員はプレイヤーなのか?」
「その通りですわ。でも、今はいらっしゃいませんの」
「へえ、そうなのか」
注文はどうするのかと考えていると、急に目の前にウインドウがポップアップした。
メニューのようで、紅茶を購入すると、すぐに目の前に紅茶が現れた。
「便利だなあ」
「時代というやつですわね」
ついでにアップルパイも注文する。美味い。
そういえば、ゲーム内でまともに食事をとったのはこれが初めてな気がする。
栄養バランスなどは考える必要がないので、これまでは全て林檎でまかなっていた。
その林檎に関してもあまり味がせず、満腹度を回復する以外で食べたいとは思えないものであったのだが、今目の前にあるアップルパイは現実のものと同等の味がする。
「美味いな、これ。今まで果物しか食ってなかったから新鮮だ」
「このゲーム、調理しないとちゃんとした味が出ないシステムになってますのよ?」
「マジか」
だからあんなに味が薄かったのか。
いくらバーチャルとは言え、この味を知ってしまったら、以前の林檎生活には戻れないな……。
雑談をしつつ、俺が食べ終わったタイミングで、リンネが話を切り出してきた。
「さて……もうグッドから話は聞いていると思うのですけれど、クランに入るのでしょう?」
「ああ、そのつもりだけど、リンネも同じクランに入ってるのか?」
「ええ、【アルゴノーツ】には、二週間ほど前に参加させていただきましたの。よかったら見学してみませんこと? 紹介くらいなら私にもできますわよ」
「見学か……」
もう少し経ってからでもいいかな、なんて思っていたのだが、まあ早い段階で見に行ってみるのもいいかもしれない。
クランというものをそもそもよく知らないので、この機会に見ておきたいというのもある。
「じゃあ、頼めるか」
「ええ、もちろんですわ。それでしたら、早速向かいますわよ」
俺の手を引いて歩き出すリンネ。
俺は、持ち帰り用のアップルパイを5つインベントリに送ってから、彼女について行くのだった。




