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わわわ儂がななななんとか……! その2

 聞き覚えのある声で叫ばれた『フルチンジジイ』――小鉄へと伸ばしたホタルの手がぴったぁ~~~っと止まった。

 形良いホタルの指先と機械(メカニカル)な小鉄の指先が、そっとふれあう。

 その光景は、少年と宇宙人の心温まる洋画のポスターを彷彿とさせた。


 ぎくしゃくと、ホタルは声がした方を見る。


 壁となってくれている女達の向こう、少し離れたところに立つ男が四人。ホタルには見覚えのある、クレイジーで世紀末な出で立ち……あの盗賊達だ。

 盗賊達はしっかりとホタルを見つめている。中にはホタルをばっちり指さしている者までいた。


「まままま町の皆さんが隠してくれてるのに、なんであいつら儂のことが見えるんじゃ~~~!?!?!?!?!?!?」


「んなもん、お前……立っ端(タッパ)があるからだろ」


 ホタルの頭に乗るプニの指摘どおり、百九十センチのホタルは、女達の後ろにいても頭二つ分ニョッキリ飛び出ている。


「くぅぅっ……! 目立ってやがる……大きすぎたか……!」


「ったく……股間だけじゃなく、身長も見栄張ってキャラメイクするからだ」


「だってしょうがないじゃろ……どうしても大きくしたかったんじゃ……! あちこち……! あちこち……!」


「何、ブツブツ言ってやがる、フルチンジジイ! おう、女ども、道を空けやがれ! でないと殺すぞ!」


 四人の中で兄貴分の男が叫ぶと、三人が矢をつがえ、(やじり)を女達に向ける。

 それを見たホタルは血相を変えた。


「やめんか! 皆さん、道を空けてくだされ! 儂は大丈夫じゃ!」

(何が大丈夫なんじゃ~~~~~!!)

 咄嗟に叫んだホタルの声に、即座にホタルの心が突っ込んだ。


 あからさまに狼狽えるホタルの頭上で、プニはため息をつく。


「馬鹿が……ありゃただの脅しだっての。盗賊達は女達を殺せねえ。生きてなきゃ意味のねえ人質なんだからよ」


「そそそ、そうは言うてもだなぁ……咄嗟にだなぁ……」


 狼狽に震えるホタルの手。その小指がきゅっと優しく包み込まれた。紫の瞳がそちらを見る。リュエルだ。ホタルの小指を握っている。老人を見上げる少女の顔は心配と不安でいっぱいだった。


(……そうじゃ。儂よりリュエルさんや女の人達の方が、ずっと怖いはずじゃ。男で、こんなにでかい図体をした儂がびびってどうするんじゃ)


「ありがとうな、リュエルさん。勇気が出た。小鉄、リュエルさんを後ろにかばうんじゃ」


「キュイッ!」


(こいつ、今、どこから声出してんだ?)


 というプニの疑問に気づくことなく、小鉄は元気に返事をして、リュエルの肩を引き寄せ、自身の背後へ促した。


「プニも小鉄の上に。いざというときはリュエルさんについててやってくれ」


「あいよっと」


 リュエルと小鉄、小鉄の上に載ったプニを背中で守るよう、ホタルは威風堂々と立ち、頭のスカーフを取った。長い白髪(はくはつ)がするりと流れる。


「……ほんとに道を空けていいんだね? ホタルさん」


「ああ、マデナさん」


 ホタルとマデナのやりとりを聞いて、女達は――盛大に心配をしつつも――左右に広がり道を空けた。


 女達の頭越しだった盗賊達と真っ向から対峙する。

 ホタルはごくりと息を呑んだ。


「アニキー! 見てくださいよー! フルチンジジイの後ろに、あの魔物がいやすぜ!」


「いちいちうるせえ! バッチリ見えてるっての! おい、フルチンジジイ! てめえ、よくもそんな魔物を使って、オレ様達の大事な小麦を盗みやがったな、おお!?」


「っ……あ、う、うう、その……」


「隠そうったって無駄だぜ? パン屋の煙突から煙が出てるってことは、パン焼いてたってことだろうが!? この町に小麦はひとっつもねえことは知ってんだよ! それと、その魔物! オレらの大事な小麦を盗んだ奴がここにいる! あと、ジジイ! エプロンをつけてるってことは、お前が店でパンを焼いてたんだろ? ジジイが黒幕ってことだよな!?」

「ったくよぉ、魔物まで使って盗みを働くなんて、なんて悪いフルチンジジイだ!」

「ボケて、ずーっと腹減ってんのか? フルチンおじいちゃん、さっきメシ食ったばっかだろ? なーんてな! ギャッハハハハッ!」


「ぐっ、ぬ、ぬぬっ、ぬぬ……」


(だ、駄目じゃ……不可抗力とはいえ、盗んだのは事実……どうやってごまかせばいいんじゃ……! 何か、何か……何か浮かばんのかい……! あ~~~~! 心がビョッコンビョッコンするんじゃ~~~!!)


(うっわ~……ホタルの奴、すっげえ混乱してやがる。まあ、この状況、成り行きだったもんな。無策で当然か)


 混乱にビョッコンビョッコンしている親友の背中を見つめ、プニは思案し、口をへの字にする。


(うーん……俺と同じようなホタルなら、あれ(・・)に耐えられるか? だけどなぁ……)


「さっきから、いい加減にしな!」


 盗賊達の(わら)いを断ち切ったのは、マデナの一括だった。


「盗んだ盗んだ言ってるけどさあ、もとはといえば、あんたらがオーユゥテ牧場から強奪した小麦だろ!」


 マデナの一括に、そうだそうだと女達が続く中、兄貴分の盗賊が鼻で嗤う。


「強奪? そんなことするかよ。お前らが用意してくれたから、もらってやったんだろ?」


「こっちから用意なんかしてないよ! 男の人達を帰してほしいって頼んだら、あんた達が食料があったらなぁって言ったからじゃないか!」


「そうだ。俺達は食料があったらなぁって言っただけで、交換してやるとは一言も言ってねえ。勝手に用意してくれたモンをもらってやっただけだ」

「アニキの言うとおりだ! 強奪なんかしてねえよ!」


 マデナ達を揶揄する兄貴分に追従し、盗賊達はせせら嗤う。


「ま、そーいうことだ。おい、フルチンジジイ。そんなわけだからよ、ボケてねえでしっかり答えてくれよ。お前、その妙な魔物使って、オレ様達の小麦を盗んだんだろ? 泥棒なんだろ?」


 ぐ、ぬ、とホタルは怯み続ける。その様子に兄貴分の盗賊は殊更調子づき、優越感たっぷりで嗤う。


「オレ様達の物を盗んだ詫びを入れてくれてもいいんじゃねえの? そうだなぁ……女達の前で、またフルチンになれ。で、土下座しろ。泥棒してすみませんでしたーつってな。んでもって、オレら全員の靴の裏を舐めな」


(悪役の言いそうな台詞、知ってるだけ言ってみたって感じだな)


 やれやれと嘆息し、どうするかと逡巡していたプニの躰が、かくんと右に傾いだ。


「ふえ? ふええ~~」


 プニが座っていた小鉄の天板が斜めになり、愛らしい丸々子犬ボディがコロコロと転がり、ぽてんと地面に落ちる。


「何しやがる、小鉄! 俺様のプリティボディが……あっ!?」


 小鉄の天板が傾いだのは、後ろにかばっていたリュエルが飛び出したからだった。リュエルを止めようと小鉄が動いた為、天板が傾ぎ、プニは落とされてしまったのだ。

 リュエルはホタルの前で立ち止まるや否や、盗賊達に向かって声を張り上げた。


「ホタルさんに酷いことしたら、あたしが許さない!!」


 少女の凜とした怒りの声が、そこにいる全員の鼓膜を打つ。


 そこに盗賊の無体に怯えていたリュエルはなかった。少女の肩は怒りで強く持ち上がり、拳は硬く握り込まれている。熱く燃える瞳は盗賊達をきつく睨め付けていた。


「あんた達の目的は、もともとはあたしなんでしょ?」


 リュエルの言葉に、盗賊達は『お?』といやらしく嗤う。

 ホタルを筆頭に、町の者すべて『何を言うの』と血相を変える。


「だから、あんた達の望みどおり働いてやるわよ!」


 ひとつ、大きく息をしてから、リュエルは言い放つ。


「鉱山で!!」


「「「「「え?」」」」」


 盗賊も、ホタルも、プニも、町の女達も……全員が全員、声を揃え、首を傾げる。


 まず声を取り戻せたのは、兄貴分の盗賊だった。


「……いや、あの……あの~……? 働くって、その……お前、あの~?」


「何よ!? 死んだじいじの代わりに鉱山で働けって手紙寄越したの、あんた達じゃない! それなのに、鉱山に行く前にあんなことして、あたしを行かせないようにして……だから、今度こそ鉱山で働いてやるって言ってるの!! あんた達がびっくりするくらいたっくさん働いてやるわ! 何日だって寝ないで働いてやる! そのかわり、今鉱山で働いてるみんなの家族を帰しなさいよね!! さあ、さっさとあたしを鉱山へつれて行きなさい!」


「いや、あのな……働いてもらうってのは口実で、オレ様達はお前を、そのぉ~……あのね?」


「うるさい! あんた達がつれてかないなら、あたし一人で鉱山に行くから!」


 怒りに任せ力強く地を踏み、リュエルは盗賊達のいる方へと歩く。ならず者達の後ろにある町の入り口を抜け、森に入り、鉱山へ行く為だ。


 まず大慌てになったのは盗賊の四人だった。

 さっきまでの一方的な蹂躙に下卑た()みを浮かべていた表情が一転。

 全員、あたふたとリュエルを止める。


「ちょ、ま……! 待った待った!」

「女子供に鉱山に行かれちゃオレ達が困るんだよ!」

「だから、えーと、お前はだなぁ!」

「ちょっと待て! 頼むから待って!?」

 声をひっくり返す盗賊達の様子に、プニは確信する。


(やっぱ、こいつら……そういうことだな)


 小鉄の足下で冷静に状況判断をする子犬とは打って変わり、ホタルは狼狽に高速で四肢をくにゃくにゃさせていた。


「いっっっかぁぁ~~~~ん! そいつがルパンだぁ~~……じゃなくってーーーー!! あの様子じゃと、リュエルさん、本当に死ぬまで寝ないで何日も働いてしまうぞい!! そんなことさせられんわい!! 待っとくれ、リュエルさん! 儂が鉱山で働くぞい!!」


 リュエルだけでなくホタルまで鉱山に向かおうとし始め、盗賊達はさらに大慌てになった。


「だからぁ! オレ達がここにいるがばれるようなことはだなぁ! あ~~~もう!! いいからおとなしくしてろ! おい、てめら、ガキとジジイを止めろ! 少しくらいなら手荒なことしてもかまわねえ! 絶対に止めるんだぁぁ!!」


 兄貴分の命令に従い、盗賊達はリュエルとホタルを捕まえようと踏み出した。

 それでもリュエルは足を止めない。怒らせた肩で荒波を分けるが如く、ずんずんと歩みを進める。


「リュエルさんに手荒な真似なんぞさせん! 二度とさせてなるものかぁぁぁ!!」


 ホタルは地を蹴った。

 駆ける長身の一歩は、歩く小柄の五歩相当。

 すぐにリュエルに追いついたホタルは、華奢なウエストに両手を添え、右の踵でくるりと回り、百八十度方向転換する。


「マデナさんのところへ行くんじゃ!」


 リュエルから手を離し、勢いのまままたくるりと踵で百八十度回った。

 ホタルの真正面に、暴力を振るう気満々の盗賊達が迫り来る。


(なんとしてもこいつらを止めねばならん! 絶対に止めねばならん!)


 酒宴の場で先に酔った者がいると酔えなくなるように、リュエルの怒りにあてられたホタルは冷静さを取り戻していた。

 そして考える。

 IQ一千三百の将軍ばりに灰色の脳細胞をフル回転させる。

 そして――結論を得た!


(こいつらを怯ませるには……やはり……やはり、儂にできることは……これしかない!!)


 ホタルはカッと目を開き、雄叫びを上げる。


「全裸土下座がなんぼのもんじゃぁぁぁぁぁっっっっっ! 会社員生活四十二年、中間管理職も経験したプロの社畜じゃぞ!? 上にも下にも土下座なんぞ日常茶飯事の朝飯前じゃあぁぁぁぁぁ!!」


 なんと!! ホタルは冷静ではなかった!!


(全裸はねえし、靴の裏も舐めねえだろ)

 と、プニは心の中でつっこむ。


(ふっ……全裸はないし靴の裏は舐めないだろうというプニの心の声が聞こえてくるようじゃ。しかしな……見てくれ。メイキングした儂本人が把握していないほど膨大な時間を費やした、この美しい容姿を! 容姿だけでないわ! サラッサラの髪、お髭、美しい菱形(ひしがた)をした下の毛(ギャランデゥ)。その上の(へそ)の形も拘った! そして! 今や自慢してもまっっっったく問題のないビッグマグナム! この儂のすべては儂の美意識の象徴! 我が信念のかたち(・・・)だ、みくびるな! というわけでだ……!)


「はああぁぁ~~~~……」


 ホタルは長く息を吐くと、ピキンッと両目を光らせた。


(せっかく、こんなに美しい躰になったんじゃ……ちょっと……見せびらかしても……いいじゃろ……?)


 恍惚の顔をして、頭上にまっすぐ伸ばした両手をゆるゆると弧を描いて下ろし、ズボンの前でピタリと止め、叫ぶ!


「エリーゼの――!!」


魔王の威厳デュガウル・プレッシャー!!」


 (色んな意味で)セクシーコマンドーをキメようとしたホタルの膝裏に、野球のボールほどの塊の魔王のプレッシャーがクリティカルヒット。


「あっふぅぅぅん!?!?!?!?」


 艶めかしい驚愕の声を上げ、ホタルの躰が後ろへ傾ぐ。

 その姿勢はまさにマトリックスのアレ。


 百九十センチの美々しい肢体が地面に落ちる……のを、阻止したのは――


「小鉄ぅ……!」


 主の危機に飛び出してきた魔法生物だった。


 さながら姫の危機に颯爽と駆けつけた王子のように、小鉄は両手でホタルの躰を抱きかかえていた。


 そう――お 姫 様 だ っ こ――である。


 麗しい主従愛に度肝を抜かれた盗賊達は、思わず足を止めた。

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