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わわわ儂がななななんとか……! その1

 手に手に得物を持った女達は、もう駆けてはいない。

 油断なく前を見て、じりじりと後退していた。

 殺気立っていた顔は緊張と不安に取って代わられている。


 それを見たホタルは、慌てて躰を起こし、立ち上がった。

 リュエルもマデナも腰を上げる。


「まさか、盗賊達が攻撃を仕掛けようとしておるのか?」


 ホタルの問いかけに答えたのは、彼の頭に載って通りの様子を伺うプニだ。


「かもしんねえ。まあ、いくら集団でも普通の町の女が戦い慣れた盗賊と渡り合うのは無理があるわな」


 女達の最後尾にいる一人が、店の前にいる小鉄を見て、目を(みは)る。

 そして、マデナと同じように天を仰いだ。

 それに気づいた隣の女も小鉄を目にして、あちゃあ~と顔を顰めた。だがすぐに表情を引き締め、店の中にいるマデナに向かい、口を大きく動かす。


「何々……早く逃げろだってさ。ホタルさん、この乗り物……え~っと小鉄だったっけ。これつれて墓場へ逃げな」


「マデナおばさん、墓場って……」


「そうだ。あいつらが鉱山に帰る道とは反対側だ。見つからなきゃ逃げ切れる。ホタルさんは道を知らないだろう? リュエル、プニ。あんた達が道案内をするんだよ」


「でも、それだとおばさん達が……」

「そうじゃ、儂らが逃げてしまったら、お前さん達がどうなるか……」


 マデナは、気遣いの目でリュエルを見てからホタルに告げた。


「ホタルさん……あたし達は家族がいるせいで大丈夫(・・・)なんだよ。でも、リュエルの家族は、もう……そういうことだからさ、聞き分けておくれよ」


 明確に説明しないマデナ。そして、神妙な声色。リュエルを見つめる気遣いの気配。どういうことを意味するのか――ホタルは懸命に考えを巡らせる。


(リュエルさんとマデナさん達の違い……今言った、家族の有無か? それが何か……)


『町と女達は人質として利用価値がある』


 家族の有無でホタルがまず思い出しのは、プニから聞いたその説明だった。


(そうじゃ。鉱山の男達も町の女達も、互いを盗賊の人質にされている。家族がどうなってもいいのか、と……)


 ――リュエルには家族がいない――


 それが意味することを、ホタルはより思い見る。


(……家族がいなければ、人質としての条件が整わない……ということか? 盗賊達は、いつ、リュエルさんに家族がいないことを知った? 町の男達を人質にする時とかかの? 人質になれない若い娘……もしや、人質になれない者になら何をしても問題はないと盗賊達は思ったのか……? だから、リュエルさんにあんなことをしてもいいと……?)


 そしてまた今、天涯孤独である……自分達にとって人質としての価値がないと勝手に決めつけたリュエルを狙って――


「っ……」


 足下から脳天へ。視界を純白に染めるほど冷たい痺れが駆け上った。

 それは怒り。

 眼前を白に染める痺れが一気に突き抜け、ホタルの心身を燃やす。


(なんということじゃ……! マデナさんがすべてを説明したがらんはずじゃ……! 怒って得物を持って儂に向かってくるはずじゃ……! そんな……そんなっ……!)


 怒りに歯が鳴りそうになった。

 慌てて食いしばりを解く。


(……落ち着け……儂のこの怒りにリュエルさんが気づいたら怖がらせるかもしれん)


 未だ残る冷たい痺れを小さく息をついて、抜く。


 ホタルはさらに思い出す。


 リュエルと盗賊が初めて会ったのは森の中。

 プニの飼い主を探していた時。

 その時に、リュエルは盗賊達に襲われかかっている。

 恐ろしい目に遭っている。

 であるのに何故、そんな盗賊にまた襲われたのか……


(プニの飼い主を探すためにリュエルさんは一人で森に戻った……? いや違う。プニが言っていたのは、確か……)


『そうじゃねえ。昼間、町のガキんちょが、リュエルに紙みたいなのを渡しに来た。それを読んだリュエルは血相を変えて飛び出してった。多分、リュエルを襲った下っ端盗賊からなんだろうな』


(……もしかして、リュエルさんは自分のためではなく……)


 ホタルはリュエルの前に膝をつくと、できる限り優しく、静かな声で言った。


「……リュエルさん。あの盗賊達から何か……手紙のようなものをもらったことがあるかの? 町のガキんちょちゃん経由で」


 リュエルは大きく身をびくりとさせる。

 少し迷ってから、やがて、か細く震える声で言った。


「……うん」


「それを読んで、自分から盗賊どものところに行ったんかのぅ?」


 その結果、盗賊に何をされそうになったかを思い出し、リュエルはぎゅっと目を閉じる。震えて、小さく、頷く。


「いやなことを思い出させて本当にすまん。じゃが……もうちょっとだけ教えてくれんかの? 盗賊達の手紙には、どんなことが書かれておったんじゃ……?」


 いたわるホタルの声に促され、リュエルの唇が震え、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「……うちには男の家族がいないってわかってる。だから、あたしに鉱山で働けって……でないと手紙を届させたサモナを……あたしより小さな女の子を鉱山で働かせるって……」


 そうやって呼び出したリュエルを、盗賊達は――


 ホタルの身の(うち)でザッと音がする。刹那――指先は冷たく。反比例するかのように(はらわた)は熱い。

 それら、怒りの暴風を(ようよ)(なだ)めてから、ホタルは考える。


(やはり、あいつらはリュエルさんに人質としての役割以外のものを……ええい、どうしてくれよう! じゃが、今の儂に魔法が使えるからといって、盗賊四人を相手に戦えるかわからん。かといってプニに戦わせるわけにもいかん。では、ここはもう……)


 ホタルはマデナと目を合わせ、しっかりと頷いた。

 それから、できる限り優しく、そして不安であることを装った声と表情で、ホタルはリュエルに言う。


「リュエルさん、プニ~。すまんが儂と小鉄を墓場までつれていってくれんかのぅ?」


「えっ、でも……」


「ホタルさんのことは任せたよ、リュエル。なぁに、あたし達がとぼけ続けてたら、盗賊の奴らも飽きて鉱山に帰ってくだろうからさ。しばらく墓場でいい子にしてな。あいつらが帰ったら、すぐ迎えに行ったげるよ」


 そう言われても……と、戸惑うリュエルの肩に、ホタルは手を添えた。長い足を生かし大きく一歩進む。強引にリードするホタルの歩につられ、リュエルも足を踏み出した。

 そのまま通りに出る。

 気づいた女達は、二人を隠すように集まって、じりじりと後じさる。

 女達の背中を見て、ホタルはぎゅっと唇を結んだ。


(……皆さん……すまぬ!)


「小鉄、儂とリュエルさんを抱えるんじゃ」


 ホタルの命令に従い、小鉄が二人に手を伸ばした――その時だった。


「おい、あのジジイ、フルチン野郎じゃねぇか!?」

「そうだ! あの時のフルチンジジイだ!!」

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