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儂と子犬 その2

「んで、高森……じゃなく、今は魔王デュガウル・ゾガレグ・ビュ・レグゾゾンガ様か。魔王デュガウル・ゾガレグ・ビュ・レグゾゾンガ様は、なんで自分が魔王だと知ってるんじゃ? 誰かが教えてくれたのかの? で、なんで子犬なんじゃ?」


「わざとフルネームで言うんじゃねえよ。プニでいい。これでも魔王ってのは隠してるんでな」


 プニはそう言うと、皿の上にあるドライフルーツを口に含み話を続けた。


「魔王ってのは、この世界に来る前っつーか、死んだ後……なんだろうな。なーんもない真っ暗な場所で、テレビゲームのなんかこう……自分の情報が表示される画面みたいなのが浮かんでてな。そこに魔王デュガウル・ゾガレグ・ビュ・レグゾゾンガって書かれてたんだ」


「その画面、儂も見たぞ。だけど、儂は自分で名前を入力されられたんじゃが……じゃあ、その時にキャラメイクで子犬に?」


「キャラメイクってなんだ?」


「容姿を決めることじゃ。儂は人間の姿だけで、子犬の姿の選択肢はなかったんじゃが……」


「ああ、あれか。メイクってことは作るってことだよな。俺ん時は、なんかもうそれっぽい姿が出来上がってたんで、これでいいやって決定した。子犬は世を忍ぶ仮の姿ってやつよ。魔法でばけてる」


「なんでまた子犬に?」


「そんなもん、この姿だと高確率で女が撫でたり抱き上げたりするからに決まってるじゃねえか」


「そうじゃったー! 高森は無類の女好きじゃったー! こっちでもそうなのか」


「お前だって、オタクのままだろうが。お互い様だ。つか、お前はなんなんだよ」


 プニに低く良い声で言われ、ホタルは小首を傾げる。


「なんなんだよとは?」


「職業や、その魔力の高さだよ。なんて表示されてたんだ?」


「職業もなーんも表示されてなかった。儂の場合はパラメーターに入りきらん数値が用意されてての。この容姿で決定したかったんで、余った魔力を髪に込めたんじゃ」


「ふーん、なんか人によって違うのか?」


「儂はゲームでキャラメイク慣れしとるが、プニは非オタで慣れてないから、あれこれ用意されてたのかのぅ? それにしても魔王とは……って、ちょっと待て。さっき、女性にかまってもらえるから、その容姿になったと言うておったの? もしかして、リュエルさんにもそういう……はっ、破廉恥な感情を持ってここにいるんじゃないじゃろうな!? このロリコンどもめ!!」


「どもってなんだよ。俺は女好きだけど、ちゃーんとわきまえた女好きだ。生まれたての赤ん坊から棺桶に入りかけの婆さんまで等しく愛を振りまくが、一発かましたい相手は相応を選ぶっつの。そういう意味じゃリュエルは守備範囲外だ」


「じゃあ、なんで……?」


「なんつーか……ん~……あいつは、ほっといたらヤバイというか……」


「何がヤバイんじゃ?」


 プニが口を開こうとした瞬間、バスルームの扉が開いた。

 生成り色で開襟タイプのパジャマに着替え、髪をタオルで拭きながら、リュエルが出て来た。


「お待たせ、ホタルさん……あーっ、駄目じゃない、プニ。テーブルの上に載ってー」


 室内履きをパタパタ鳴らし、リュエルは早足で食堂に駆け込むと、テーブルの上のプニをひょいと抱き上げた。


(プニよ……そんな気はないと言うておったが、リュエルさんの胸に抱かれてまんざらでもない表情をしているのは何故なんだぜ?)


「リュエルさん、その子犬、最近家族になったと言うておったが、どうしたんじゃ? 店で買ったのか?」


「ううん。墓場で拾ったの。いつの間にか足元にいて。探したんだけど、飼い主らしい人いなかったから、取り敢えず連れて来ちゃったの」


「墓場にのぅ……って、墓場って……」


 リュエルは少し困ったような顔をした。


「こないだね……お祖父ちゃんが病気で亡くなったから……」


 リュエルの声は未だ拭えぬ悲しみに、小さく震えていた。


(それで、店や家が冷えた印象がして、この子とプニしかおらんのか……)


「大事な形見を儂に貸してくれたのか。ありがとう。おかげで助かったよ」


「お祖父ちゃんもホタルさんに着てもらって喜んでると思うから、気にしないで。それより、お風呂。お湯が冷めちゃうから……あっ、プニもお風呂に入れようと思ってたの忘れてた。明日、あたしと入ろうか」


「ひゃうん!」


「じゃあ、儂がプニと一緒に入ってやるとしよう」


 嬉しそうに一声鳴いたプニを、ホタルはリュエルの手からひょいと抱き上げた。


「ひゃっ、ひゃううう~~~ん!?」


 不安そうな切ない裏声で鳴いてはいるが、てめえ、何しやがるという抗議のオーラが重くホタルにのしかかる。

 しかし、それに気づいているのはホタルだけだった。


「そんな……悪いよ、ホタルさん」


「大丈夫じゃ。儂、ずっと犬を飼っていたから慣れてるしの。それじゃあ、お風呂いただいてくるぞい。さあ、プニ。一緒に入ろうなぁ。隅々までピッカピカにしてやろうなぁ」


「ひゃううーーーん!」


 この世の終わりのような声を上げるプニだったが、ホタルは意に介さず風呂場に入り、扉を閉めた。


 入ってすぐ、小さな脱衣所があった。

 正面にまた扉がある。

 ホタルはそっと開ける。

 ホタルのいた世界の一般的な広さのバスルームに、短い足のついた一人用の白いバスタブがあった。


「ほほう、壁はタイル張りじゃ。懐かしいのぅ。水道とシャワーもあるのか。ありがたい。これならリュエルさんに教わらずに使えるかの。わからないことがあればプニに教えてもらえばいいし」


「ホタル、てめぇ……なんで、俺がリュエルと風呂に入るのを阻止しやがった?」


「そんなの当然じゃ。儂、リュエルさんのガチモンペだもんっ」


「なんなんだよ、それ!? オタ用語か!? わかんねぇよ! いやだー! 男の裸を見ながら風呂とかいやだー! 女の裸がいいー! ひゃうう~~~ん!!」


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