儂、それでもお邪魔せざるを得なくなる
「ホタルさん、かたかた震えて……どうしたの? ひょっとして……トイレ我慢してるの!? 大変! 早く入って!」
「ええええーっ!? ちょっ、ちがっ、まだ大丈夫だけど、あ、嘘、いやーーー!!」
リュエルに背を押され、ホタルは家の中に入らざるを得なくなってしまった。
「っ…………!!」
中は木と漆喰と石でできた、何の変哲もない西洋風の家だ。
市松模様を思わせる正方形の床板が敷かれた廊下。
左右の白い壁には、いくつかの木製の扉がついている。
本当に何の変哲もない。
電気がない為に、灯りの一切がない暗い廊下。
その暗闇が、ぐわりと口を開け襲ってくる。重く。そんな感覚にホタルの震えは大きくなる。
リュエルは慣れた所作で玄関横の靴箱の上にあるランプに火をつける。
幾分か暗闇は消えた。
それでも、ホタルは震え続ける。
そんなホタルの手を、リュエルは優しく握った。
「トイレはこっち。使い方、わかる?」
「お、おおお、おそらく、は……」
「わからなかったら遠慮なく声かけてね」
「そ、そんな! リュエルさんにシモの世話をさせるわけに、は……っ……ひぃぃぃぃぃ!?」
ランプの灯りの届かぬ暗闇から、ギィィィィ……と、軋む音がした。
ゆっくりと長く尾を引くその音に、ホタルはがちんと硬直する。
奥から伸びる黒い影がゆぅるりと揺れる。
それは最奥の扉が開いたせいであると辛うじてわかった。
「っ…………!!」
途端にホタルにのしかかる重さが増した。
「マッ……マジで、なんなの、これ? ひょっとして、霊圧!? 死神が感じちゃうやつ!? 儂、斬魄刀とか持ってないのに! まだ卍解できないのに!! どっ、どういうことじゃーー! 儂、死ぬんかーーー!? また死ぬんかーー!? というか、儂、死んでるんかーーー!?」
「どうしたの、ホタルさん!? ひょっとして、怖い!? 大丈夫、噛まないから!」
「…………へ? か、噛まない……?」
カシ、カシ、カシ……
開いた扉から奇妙な音が近づいてきた。
(この音……聞き覚えがあるぞ……だけど、このプレッシャーはなんじゃ? 儂が知る『もの』が近づいているのなら、どうして……こんな……)
「ただいま。いい子にしてた? プニ」
近づいてくる音に向かって、リュエルは優しく声をかける。
カシ、カシ、カシ……
音がどんどん近づいてくる。
暗い影から、姿を現したのは――
純白のフレンチブルドッグの子犬だった。