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儂、躰で払う

「かかかかか、躰で払うとはどういうことじゃ!? やられてしまうのか!? 輪姦(まわ)されてしまうのか!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」


「なんかよくわかんないけど、ろくでもないことを言ってるのはわかっちゃうね。あんたが考えてるようなことじゃないよ、たぶん。バーゲンの間、店員になって欲しいんだ」


「バーゲン?」


「今、街に活気がないんでね。景気づけみたいなモンさ。女物の服のバーゲンをしたいんだ。見立てはあたしがする。あんたは客を煽てて気分良くしてくれないかい?」


「わっ、儂、接客とかしたことないんじゃが……事務職の人だったんじゃが……儂にできるのかのぅ……?」


「じゃあ、あたしがホタルさんの代わりに頑張る! みんなが喜びそうなことを言えばいいんでしょ?」


「それはちょっと……何もかもリュエルさんに甘えてしまうのものぅ……ううむ、この年になって新しいことにチャレンジできるのも貴重な体験じゃな……よしっ、この服をいただいた礼に一肌脱ぐとしよう……服を着たばかりだけどな」


「あははっ、何くだらない駄洒落言ってるんだい。その調子で接客してくれればいいよ。そうと決まれば、すぐ行動だ。ちょうど今、店の外には人が集まってるしね。それじゃバーゲン開始するよ」


「あたしも手伝うわ、マデナおばさん!」


「じゃあ、会計と梱包を任せたよ。価格は値札に書いてある。一律半額にしておくれ」


 服屋の女主――マデナは入り口の扉を勢いよく開いた。


「さあさあ、今から半額セールを始めるよ! 婦人服と子供服は一律半額だ! さあさあ、寄ってっておくれ、見ておくれ、買っておくれ、新人の店員も見て行っておくれよ!」


「マデナ、新人の店員って、まさか……」


「そのまさかさ。さっきの爺さん……ホタルさんとリュエルが手伝ってくれるよ」


 ホタルが接客してくれると聞いた女達は、好奇心たっぷりで店内に転がり込んできた。


(ひっ、ひいいいっ! 女性の集団は迫力があるのぅ! 負けそう、くじけそう。だけど、頑張れ儂、頑張れ!)


「……いらっしゃいませ」


 ホタルはできる限り表情筋を駆使し、にっこりと微笑んだ。


 一瞬の沈黙があって、すぐ。甲高い嬌声が店内一杯に響いた。


「やだ、お爺ちゃん、さっきのピチピチもセクシーだったけど、今の格好も素敵!」


「どれが似合うか、見立てて!」


「っていうか、背中のボタン留めてぇ!」


(ひいいいい! 大勢の女性の黄色い歓声の迫力しゅごいいぃぃぃぃ! タマが縮む! それに儂、女性の服の見立てとか、しかもドレスとかどうしていいかわからん! わからん~~~~!!)


「はいはい、あたしが見立ててあげるよ。選んでから似合うかどうか、ホタルさんにジャッジしてもらいな」


 マデナの助け船に、ホタルはほっと息をついた……のも、束の間。


「どうだい、これ、あたしに似合うかい!?」


「こっちはどうだい? こっちの方がいいかい?」


「ねえねえ、ホタルさんはどっちが好き?」


 マデナに見立ててもらったり、自分で選んだりした女達が、服を手に一斉にホタルを取り囲んだ。


「す、すみません……まずはお一人ずつで……えっと、では、最初に声をかけてくださった、あなたから……」


 一流ホテルのドアボーイの所作を思い出しながら、ホタルは女性客の一人を鏡の前に案内する。


 女は鏡の前に立つと、目をきらきらさせ、意気揚々と服を自分の躰に当てた。


「どう? 似合うかしら?」


(似合っている……ような気がする。だが、これは彼女が気に入っているのか? どんな言葉を待っているんだ? どっ……どうすれば……どうすれば……)


 そのとき――ホタルの脳裏にキラリと光ったのは……


 ドラマでは阿○寛が演じた、西○骨董○菓子○(ア○ティー○)の小○川○影が若から伝授された技だった。


(そうじゃ! 若の言うとおりにすればええんじゃあ! いけ、今のお前ならいけるぞ、ホタル!!  鏡越しにお客様の目をじっと見るんじゃ! あああっー、目が合う! どっ、どうしよう。反らしてはいけない。でも、恥ずかしい……あっ、そうじゃ! 儂は声優!! 今から女性向け囁きCDの収録に挑む声優じゃあああ!! このお客様の顔をダミーヘッドマイクと思うんじゃ! おおっ、いける、いけるぞ!! ダミーヘッドマイクだと思うと、顔を近づけることも容易い! そして、このスネ○プ先生ボイスで耳元で囁くんじゃああああああ!! いっけぇぇぇぇぇ、ウィスパーボイス!!)


「お召しになればわかります……」


 ホタルの囁きを聞いた女は、ガッチーーーーーンと硬直した後、ふるふると震え、顔を真っ赤にして、言った。


「着てみるわぁぁぁぁ!! マデナ、これちょうだい!!」


「毎度ありーっ! リュエルちゃん、お勘定!」


「はいっ! こちらへどうぞ!」


「ホタルさん、ホタルさん!! これはっ!? あたしにこれ似合うかい!?」


「お召しになればわかるのです……」


「これにするわーーーー!!」


「ホタルさーーーーん!!」


「お召しになれば……」


 そして、ホタルは囁いた。


 囁いて、囁いて、囁き続け……店内に夕日が差し込む頃、客はすべて買い物を済ませ、婦人服と子供服の棚はほぼ空っぽになっていた。


「は~~……!! こんなに売れたのは久し振りだよ。儲けは少ないけど、久々にみんなのいい笑顔が見れたんで、よしとしようかね。お疲れさん、ホタルさんにリュエル」


「お疲れ様でした、マデナおばさん。ホタルさん……も……」


 ホタルはレジのそばにある丸椅子に座り、猫背になって目を閉じていた。


「……燃え尽きたぜ……真っ白にな……」


「燃え尽きるのはまだ早いよ。これから夕食だ。今日はオーユゥテさんの牧場だよ。二人とも、一緒に行こう」


「はい、マデナおばさん。行こう、ホタルさん」


 リュエルはホタルに向かって手を伸ばした。リュエルは自分の手を見て首を傾げる。


「……あれ?」


「どうした、リュエルさん」


「あっ……ううん、なんでもない。早く行こう。食べ損なっちゃうよ」


「お、おおう……」


 差し伸べられたリュエルの手を掴み、ホタルはゆっくりと立ち上がった。


(あたしの手……こんなに綺麗だったっけ……?)

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