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槍の乙女と螺旋の剣  作者: トト
第一部 「王国篇」
32/42

番外編 鍍金の王子4


「はは……、凄いなこれ」


 資料を大方読み終えて、自然と乾いた笑いが漏れた。

 手にしているのは、ライラに関する報告書だ。

 近衛師団に入団する際の試験の他、その後も度々受けている検査について詳細が記載されている。

 それに目を通してみて、まず異様なまでの検査の頻度に驚いた。

 しかしそれ以上に、内容が想像をはるかに超えていた。


 まずライラの基本的な身体能力、これが桁違いなのだ。

 体力も馬力も、何もかもが花守の枠を軽く超えている。

 数値だけ見れば、ドラゴンに匹敵する位だろうか。

 当たり前だが、これは明らかにおかしい。

 いくらライラが長身だろうが、岩山ほどあるドラゴンと同等の力が備わっているなんて、どう考えても辻褄が合わない。

 思わず調査に何か不備があったのでは、と何度も見返してしまった。

 しかし、そう考えたのは調査した当人たちも同様だったようで、念入りに何度も計測しなおした記録が残っている。

 どうやら数値に間違いはなさそうだ。


 さらに異彩を放っているのは彼女の槍だ。

 鋼を貫く強靭さも、肉を腐らせ神経を破壊する猛毒も、普通の槍では有り得ない。

 だが最も注目されていたのは、何度でも振るうことが出来る特異性だった。


 花守の槍は、高い攻撃力を持つが一度きりしか使えない。

 命と引き替えの、捨て身の一撃だ。

 もしもその槍を、死に怯えることなく、何度でも敵に突き刺す事が出来れば……。

 そんな戦う花守達の夢が現実に現れたのだ。

 当然、近衛師団はその力を欲しがり、何とか他の花守にも応用出来ないかと、メカニズムを解き明かそうと躍起になっていた。

 執拗に、いっそ妄執を感じさせるほど念入りな調査が実施され、幾度もライラに槍を発現させては様々な実験を繰り返し、その結果を解析してはまた、あれやこれやと試している。


 ……ところで、その実験には苦痛を伴う類のものが多数含まれているのだが、彼女に拒否権はあったのだろうか。

 疑問が浮かぶのとほぼ同時に、見当がつく。

 あの子はきっと、嫌だ、なんて言えない。

 気弱に笑いながら、ひたすら痛みに耐えるライラの姿が容易に想像できて、腹の底が焦げ付くような不快感を覚えた。

 ちなみに、彼等の欲しい情報は未だ手に入れられていないようだ。

 そもそも槍自体が詳しく解明されていない分野であるため、仕方がないと言えばそれまでだが、こんな無茶な調査にライラをいつまで付き合わせるのかと思うと、無性に腹が立つ。


 その他にも報告書には、身体的な特徴、各種耐性、生活パターン等、ライラに関する詳細な情報が記述されていた。

 俄かには信じがたいライラの記録を前に、ふ、と細身でしなやかなライラの姿が思い浮かび、次の瞬間、水に垂らしたインクのように、輪郭がじわじわと滲んでいく。


 凄まじい力を秘めた肉体と、驚異的な性能の槍。

 ……まるで途轍もなく強大な何かを、花守の形に押し込めたかのようだ。


 そんな自分の妄想に、慌てて首を振る。

 馬鹿々々しい。あの子は、ライラは、普通の女の子だったじゃないか。

 気弱で、謙虚すぎる程に謙虚で、そして心の優しい女の子。

 きっと何代か前に螺旋の剣によって付与された情報が、隔世遺伝でもしたのだろう。

 稀にだが、そういった事例は以前にもあったようだし。


 そう自分に言い聞かせて、資料を閉じる。

 そして、ふと明かり取りの窓を見やれば、空が夕日で染まっていて焦る。

 没頭していて時間を失念していたようだ。

 今日は、晩からライラが来てくれる。

 早く部屋に戻って準備をしなければ。

 ……なにより今日は、贄の日でもあるのだから。


 トリトンに軽く手を振って、梯子に手をかける。

 早く、片付けねばならない。

 ライラがやってくる前に、全部済ませるのだ。




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