彼女以外にも・・・
約、月に一回のペースで彼女は温泉から湧き出る湯と泥を街へと運び、その代金で生活に必要な諸々を購入して帰って来るのだが、その際に自分の為に薬も買い求めてくれている。
以前は彼女も街には住んでいた様ではあるのだが・・・
別段に彼女から聞いた訳ではない、第一、未だに彼女が話す言葉も充分に理解している訳でも無い、では『何故その事に関して知り得たのか?』なのだが・・・
今現在、彼女と一緒に暮らしているこの場所に『彼女の私物』が極端に少ない事と、暮らしている場所には『家』が無い、有るのはこの場所の近くに有る大樹の根本に建てた小さなテントと言うか?小屋と言うのか?・・・
まあそんな感じの物だ・・・
そして彼女は自分の為にココで生活しているのだ、自分の怪我を癒す為に、だから自分は彼女に対してとても感謝している・・・
彼女の言いつけ通りに木陰でおとなしくしていると、約1カ月ぶりの客が遊びに来た。
「いや〜久しぶりだね!? 体の調子はどうだい?」
『最近は少し調子が良いかな?』
「そっか、それは良い事だ! で、彼女は街へと出掛けた様だね?」
『ああ先ほど出掛けた』
「それは良かった。僕は彼女に姿を見られるわけにはいかないからね!」
『何故?』
「そんな事は君にも大まかな想像は付いていると思うけど?」
『人外の存在だから?』
「まあそんな事はどうでも良いのではないのかな? ただ僕は『彼女が知らない方が良い存在』って事だよ!」
『自分は良いのかな?』
「まあ君はね・・・ 第一『普通の人間は僕の姿も視えなければ声も聞こえ無い・・・』し、 大体、万が一にも彼女が僕の姿を見る事が出来てしまうと、色々と彼女は『不幸』な事になってしまう。 君はそれで良いのかな?」
『いや、そんな事は遠慮したい・・・』
「だろう? しかし彼女は本当に力持ちだよね! 知ってたかい?あの樽に詰められたコノ温泉の泥と湯の総重量・・・君が知っている単位で言うと、2トンぐらい・・・ 凄いよね!?」
『・・・』
(この客、色々と意地が悪い・・・ )
「何々? そんなに僕は意地悪では無いよ!?
(ほらねっ! 自分の思考を勝手に読んでしまう・・・)
「だって今の君は声帯を損傷してて満足に喋れないじゃないか」
(そして何よりも、多分、アレの知合い・・・)
「いや、それは仕方ないと思うよ! ? 」
『はあぁ〜 ・・・ 自分のプライバシーに関しては?』
「いや〜 そんなの無理だ! 第一、僕達はそんな存在だから」
『ああ、頭が痛い・・・』
「だったら頭痛薬を飲む?」
と彼?は自分に向かって頭痛薬を差し出してくる。
(アアッ・・・本気でムカついた! しっかも! 自分が知っているメーカーの頭痛薬・・・バ○⚪︎リン!)
「まあまあ、怒らない怒らない!」
『で、今日の用件は?』
「今日もカレに頼まれて君の観察かな?」
『アレに頼まれて『自分をからかいに来た!』の間違いでは?』
「いやいや、カレは本気で君の事を心配しているよ! 君をからかうのは『僕の楽しみ!』かな?」
『だったらアレ自身がココに来れば良い!』
「いや、それが無理だと言う事は君自身も知っている筈だよ? 第一、カレがこの世界に顕現したら、その瞬間に世界は・・・
ああそれと今日はもう一つ! コレを君にお願いしたくてね!」
と、彼?が取り出したのはダチョウの卵と同じぐらいのサイズの卵だった・・・
『コレを食べて元気をつけろ!と?・・・』
「あっ、食べないでね!? コレは今後の君達に必要な物だから」
『今後?』
「そう今後だよ! 君はあと数日もすれば今の不自由な生活から解放される。 そしてこれは、この不自由な生活を出した後の君達にとって、とても必要な物になる筈だよ!?」
『・・・?』
「まぁそのうちに解るさ! 呉々も『食べたらダメ!』だよ!? まぁその卵、簡単には割れないとは思うけど・・・ 彼女の怪力が少し心配なんだよね〜」
と、彼?は少し心配そうにしながらも岩神の鼻先?を撫でながら気配を消した。
残された大きな卵を膝の上に抱いて、自分は彼女の帰りを待つのだった。