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病気で少女!  作者: アマツバメ
5/9

高校生活スタート

「桑原さんは、どこの中学校から来たの?」

「え、あ、出身はね、川北中だよ、のよ?」

 

 入学式を終えた後、帰りの支度をする教室の中で女子生徒に話しかけられる。

 挙動不審に反応する彼女の名は 桑原 伊織、元男である。

 

 思春期で女慣れしていないということもあるが、思えばここ3年、まともに人と会話した記憶は家族と咲くらいしか無かった。一匹狼だったが故の、コミュ症ぶりを発揮してしまう。

 たどたどしく応える伊織の腕を咲が引っ張り、少し離れた場所に連れていく。

 

「ちょっと伊織ちゃん、話し方が不自然すぎ!普通に喋ればいいのよ!」

「へ、変だったか?普通ってのが分からん」

 

 伊織と咲は、運よく同じクラスだった。たまたまだったのか、学校側の配慮だったかは不明である。

 そんなやり取りを終え、話しかけてきた女子生徒の元に戻る伊織と咲。

 

「二人は仲良いのね。私、古谷フルヤ) 涼子リョウコ)っていうの。森丘中出身よ」

 落ち着いたトーンで話す涼子からは、どこか育ちの良さを感じる。

 

「伊織ちゃんと私は同じ中学校だったの。私は三宅 咲。宜しくね~!」

「お、私は桑原 伊織」

 "俺"と言いかけたが、なんとか言い直せた。

 

 お互いの自己紹介が終わり、他愛も無い話をする3人。そろそろ帰ろうかという雰囲気になった時、涼子が提案する。

 

「明日の土曜日、3人で遊ばない? 折角お話できたのに、月曜まで会えないのがもったいなくて。良かったら、ショッピングモールで買い物でもどうかな」

 一匹狼時代が嘘の様に、早速のお誘いがきた。

 

「いいよ、買い物の後はゲーセンで格闘ゲームでもやる? あ、それだと3人で出来ないから違うのがいいか」

「格闘、ゲーム...?」

 涼子は、きょとんとした表情になる。

 

「ごめんごめん! 伊織ちゃん、お兄ちゃんの影響を受けてて、そういうゲームが好きなの!」

 慌てて咲がフォローを入れる。

 

「そうなんだ、私は妹しかいないから、お兄ちゃんがいて羨ましいな」

 咲のおかげで、なんとか会話を繋げられた様子。

 

「そ、そうなんだよ。兄貴がゲーム好きでさ、一緒に良く遊んでて。んで、明日遊びにいくのは歓迎だよ」

「私も超賛成!(二人きりじゃないけど、伊織ちゃんと出かけられるなんて願ったりだわ!)」

「二人に話しかけて良かった。それじゃ、土曜日、高校近くのエイオンデパート外の噴水前に、2時に待ち合わせしましょう」

 

 涼子はそう言うと、「私は自転車通学だから、ここでばいばいするね」と教室を出る。

 

 その後、帰りの電車の中にて。

「ほんと、私がいなかったらどうしてたんでしょうね?」

 咲は意地悪な顔で伊織を茶化す。

 

「悪い、助かったよ」

 伊織は頬を掻きながら、咲に礼を言う。

 咲のフォローもあって、順調に学校初日を終えることができたのだった。

 

 -----------------------------------

 

 3人で遊ぶ約束をした土曜日の午後。伊織は、待ち合わせ場所の噴水前に向かう。

 

「久しぶりに家族以外と外で遊ぶな。緊張してきた...でも咲がいるし、任せとけばいいか」

 

 女の子同士の遊び方なんて分からない。しかし、久しぶりに家族以外とする外出に、気持ちが高鳴る。

 

「お、もう二人とも付いてるじゃん」

 噴水前で、咲と涼子の話す姿が見える。

「悪い、お待たせ!」

 

 そう挨拶すると、涼子のキョトンとした表情と、咲のしまったという顔が映る。

「伊織ちゃんは、ボーイッシュな服を着るのね」

 

 白いTシャツに、ジーパンというシンプルな服装で来た伊織。男子であれば普通な格好かもしれない。しかし、今の伊織は年頃の女子だ。

 

 (ちょっと伊織ちゃん、ほんとしょーがないんだから!あー事前に確認するべきだったわ)

 咲が一人で反省をしていると、涼子は笑みを浮かべながら言う。

「ショッピングモールなら洋服は一杯あるから、折角だから伊織ちゃんに似合う服を探しましょう」

 

 年頃の女子に見合わない服装を見兼ねたのか、提案してくれた様だ。

 

「え、でもそんなに金持ってないぞ?」

「大丈夫。パパのクレジットカードがあるの。好きなよう使えって、渡されてるの。お金なら心配ないわ」

 

 はい?と首を傾げる伊織と咲。

 

「パパ、社長なの」

 

 涼子の家は、お金持ちだった。

 

 -----------------------------------

 

「これとかどう?」

「お、おう。いいんじゃないかな?」

 わたわたと、居心地悪い様子で店内を見渡していると、伊織は涼子から花柄のワンピースを受け取る。

 

「伊織ちゃん、それ絶対似合うわ!早速試着室で着てみなさい!」

 咲がやたらと興奮している。

 

「制服以外で女物なんて着たくないんだけどなぁ……」

 伊織は気が進まない様子で、しぶしぶと試着室で着替え始める。

 

「着替えたよ」

 伊織から着替え完了の報告を受けると、咲は試着室のカーテンを勢いよく開ける。

 

「ちょ……かわEEEEE!!」

 咲が寄声を発した先には、花柄のワンピースを着た、恥ずかし気に立つ伊織の姿があった。

 

「伊織ちゃん、とっても可愛いわ。こっちの服装の方が断然いいわよ」

「そ、そうなのかね」

 

 二人に絶賛され、試着室の鏡に映る姿を再確認する。

 思ったより似合うかも、と本人も気に入った様だ。

 

「それで決まりね。ワンピースは着たままでいいわ、もう支払いは済ませてあるから」

「え、えぇ……」

 

 涼子は一体どういう家に住んでいるだろうと、伊織と咲は不思議そうに目を合わせた。

 

 -----------------------------------

 

 モール内を散策し、少しばかり足に疲れを感じてきた3人。

 

「ちょっと疲れたわね、カフェでお茶でも飲みながら、休憩しましょう」

 

 涼子が絶妙なタイミングでそう提案すると、伊織と咲は大賛成と返事し、モール内に構えるカフェに向かう。

 3人はカフェで飲み物を注文すると、空いているテーブルを確保する。

 

「私、トイレにいってくるね」

 涼子が席を立つ。この日、伊織は咲と始めて二人きりになる。

 

「ふー、気を使いすぎて疲れた。今日はぐっすり寝れそうだよ」

「伊織ちゃん、ちょっとずつ今の自分に慣れてきたね。涼子ちゃんもすごいいい子だし、上手くやっていけそうだわ~!」

 

 そんな他愛も無いやり取りをしていると、いかにも遊んでそうな20歳前後の男3人がテーブルの横に立つ。

「ねぇ、2人共高校生?俺らとあそぼーよ」

 

「伊織ちゃん、こんな奴ら無視よ」

 小声で咲が言う。

 

「無視してないでさ、ほら!」

 咲が飲み物を口に近づけようとした時、男の一人が咲の腕を掴む。

 

「いた!」

 持っていたジュースが、床に落ちる。

 

「おい、お前何してんだ!」

 伊織が咄嗟に席を立ち、男の腹に蹴りを入れる。

 

「いって!嬢ちゃん、やるねえ!」

 見事なフォームだったが、全く堪えていない様だ。

 

(全然効かねぇ、俺の力ってこんなもんだったか!?)

 

 伊織は以前の体との、身体能力の違いを痛感する。

 男だった時、腕っぷしには自信があった。相手がいくら自分より体が大きくても、ここまで効かない筈は無いと、焦る。

 

「そんな足上げてると、パンツ見えちゃうよー」

 

 後ろにいた男が、腰を低くしてスカートの中を覗こうとする。伊織ははっとなり、蹴りを入れた後上げたままの片足を下ろし、スカートを抑える。最も、履いているのは男物のトランクスなのだが。

 

「蹴りのお詫びに、俺らと遊んでもらわないといけないなー」

 典型的な、チンピラの物言いを始める男達。

 

「お前ら、咲の飲み物駄目にしたくせに何言ってやがる!」

「わわわ、まずいことになったわ」

 咲が慌てて、誰か助けてくれる人はいないかと、周りを見渡すと……

 

「お客さん、店内で騒ぎは起こさないでください」

 

 ぶっきらぼうな様子の声が聞こえ、男達の前に巨躯の青年が立ちはだかる。180センチは超えているであろう、青年は男達より一回り以上大きく、体のシルエットを見るに、相当鍛え上げられているのが分かる。

 

「あ?なんだお前、その服装ここの店員か?俺はこの嬢ちゃんに蹴られたんだよ。そのお詫びをしてもらおうと、交渉しているわけ」

「先に手を出したのはあんたらだ。このまま店の迷惑行為を続ける様なら、警備員の所に連れて行く」

 そう淡々と低い声で青年は言うと、男の腕をぎゅっと掴む。

 

「わ、分かったよ。じゃあな」

(なんだこいつ、力強すぎだろ……!)

 青年が腕を放すと、男は痛そうに腕を抑えながら、残りの2人を連れて退散する。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

 一気に場を沈めた巨躯の青年に、伊織はお辞儀をする。青年は何も言わず、床にこぼれた飲み物の片付けをする。

「駄目になった飲み物、新しくしときましたんで。別のお客さんがすいませんでした」

 青年は咲に飲み物の代わりを渡すと、奥の厨房に戻っていく。

 

「超助かったわ!なんて男らしい人なんでしょう!」

 咲がきゃーきゃー騒ぎ出す。

 

「あら、何かあったの?」

 トイレから涼子が戻ってくる。

 

「正義のイケメンが助けてくれたの~!」

「? 後で、その話聞かせてね」

 事情を知らない涼子は、咲のあまりのはしゃぎ様を見て可笑しくなる。

 

「俺……弱いな……」

 

 楽しげに話す二人とは対照的に、伊織は自分の弱さを悲観していた。

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