期待を裏切る様に
見た目だけでも男であれば、男として生活ができたかもしれない。そんな淡い期待を裏切る様に、病気は伊織の体を蝕んでいた。
「伊織ちゃん、おっはよー!ちょ、めっちゃ可愛いんですけど!!」
「声でけぇよ!」
駅のホームで待ち合わせをしていた伊織と咲。紺のブレザーに身をつつんだ、二人の少女の姿がそこにあった。
片方は活発な雰囲気な女の子。髪はショートヘアーと言うには少し長めで、目は大きなツリ目をしている。
もう片方は丸斑の眼鏡をかけ、黒髪みつあみという地味な雰囲気の女の子。
伊織の体は、日にち女性化が進むと言うヒゲ医師の予想を悪い意味で裏切り、急速に症状が進んでしまっていた。
胸は少し膨らみ、髪はしなやかになり、肌はきめこまかく、骨格は女性的に。誰が見ても、伊織が男だったとは想像できないだろう。
咲に病気を告げたその日の夜、伊織は家族に病気のことを告白した。家族は初めは戸惑ったが、伊織が仮にこのまま男として高校生活をしたとしても、いずれ病気のことがバレるのではないか、そうなってしまったら、ますます孤立するのではないか、と不安を感じた。
もしかしたら女性化の症状は悪化しないかもしれない。しかし、そんな淡い期待を裏切る様に急速に症状が進んでしまい、伊織と家族は、女として高校生活すること、させることを改めて決意したのだった。
「この格好恥ずかしいんだよ。あんま見んな」
伊織は照れくさそうに、視線を斜め下に向ける。
「その表情もいいわ~。こんな可愛いんだから、男子にきっとモテモテよ!私に守れるかしら?」
咲は目をキラキラさせながら、伊織を茶化す。
「き、気色悪いこと言うなよ!俺はそんな趣味ねぇよ!」
咲の言うとおり、伊織は年頃の男子が放っておかないレベルの容姿になっていた。当の本人は、そんな自覚は無いらしい。
男子に手出しはさせまいと咲が密かに燃えていると、ホームに電車が到着する。
「クラス、一緒だといいね」
「こうなったら、その方が助かるよ」
新たな生活に期待と不安を胸に、二人は高校まで向かう。