頼れる幼馴染
「おぃ先生! なんとか治す方法はないのかよ?!」
診察室に、伊織の声が響く。
「あ~、宣告通りだったね。あの時、半年後に男性生命が終わるといったろう? 男としての天寿を全うしたんだ。諦めるしかないねぇ」
あの後、伊織はネットで病気についてとにかく調べていた。乳房が出たりする病気は実際にあるらしいが……
「ち、ちん○がなくなるなんて聞いたことないぞ……」
この世が終わったかの様な表情で呟く伊織。
「健康に支障が出ている訳じゃないんだ。そんなに落ち込みなさんな」
ほっほと、相変わらずヒゲ医師は小バカにする様子だ。
「せ、先生……俺はこの後、どうすればいいんだ……?」
頭をがっくし下げたまま不安そうに聞く伊織に、ヒゲ医師は長く伸びた白い顎ヒゲを弄りながら答える。
「うーむ、まずは、事実を受け止め、女性として生きることを覚悟するんだねぇ」
「高校生活はどうやって送ればいいんだよ……」
「まだ入学前だろう?運が良かったな! 病気の診断書を出せば、学校側は受け入れるしかない。女生徒として受け入れてもらい、ふつーに生活すればよい」
「どう考えてもその普通が難しくないか!? てか、見た目はそんな女っぽくない様な……」
確かに、伊織の見た目に変化はあまり感じられない。
「性器が変わったのは昨日のことだろう?日にち、女性化が進むことが予想されるねぇ」
伊織は顔を両手で覆い、意気消沈する。
「その予測が外れることを祈るわ……」
そう言うと、肩を落としながら診察室を後にした。
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数多くの漫画が本棚に綺麗に収納され、アニメのキャラクターらしきフィギアがあちこちに飾られる部屋の中。
「うそ……」
両手で口を押さえながら、咲が驚きの声を漏らす。
病院を出た後、伊織は咲の家に行き、真っ先に病気のことを打ち明けていた。これから高校生活を共にする彼女を頼るしかない、そう深刻な表情でこの嘘みたいな病気のことを咲に告白すると……
「ちょ、ちょ、最高じゃーん!! え、本当に女の子になっちゃったの!?」
はしゃぎだす咲の姿に、伊織の目が点になる。
「え、いや、今まで男だった幼馴染が、女になっちゃったんだよ?最高ってどういうわけ?」
ドン引きされることを覚悟で話したはずが、予想と真逆の反応をされ理解が追いつかない。
咲はふふ、と笑みを浮かべる。
「だって、伊織ちゃんが女の子なら一緒にいても周りに何も言われないし、買い物だって行けるし、色んな所に遊びに行けるんだよ?」
「お、おう?」
中学生活の中で、咲が伊織に話しかけてくることはあったが、一緒に行動したことはほとんど無かった。それは学校で避けられている自分とつるんでいると、咲からも人が離れていくと、伊織が咲に念を押して話していたからだ。
女子が男子に積極的に話しかけている姿だけでも、気があると疑われて無理がないのに、一緒に行動するなんて付き合っていると噂されても反論ができない。
そういった周りの思惑や、年頃の女子としての恥じらいを知らない、天然な咲への伊織の配慮だった。
「あの時はつるむなって言ってたけど、女の子同士なら文句ないわよね~」
咲は目をキラキラさせる。
「いや、それより俺が嘘言ってるんじゃないかとか、疑わないのかよ!? ありえないだろこんな病気!」
「んじゃ、確かめるよー」
咲が、伊織のズボンに手をかけようとする。
「い、いや、さすがにそれはまずいって! せめて上から触れば分かるだろ?!」
伊織が勢いよく体を反らすと、咲は膝をつきながらぽんぽんと、そこにあったはずの男の象徴を叩いて確かめる。
「ないね~」
「本当に女になっちまったんだよ……」
伊織は残念そうな顔をまた浮かべるが、咲は伊織の体の異変に興味津々な様子。
「大丈夫! 高校生活は私がなんとか伊織ちゃんをリードするから! 女子の世界は私に任せて」
咲の、なんとも頼もしい言葉を受ける。
「お願いします」
伊織はその日、武士顔負けの土下座を見せた。