中学卒業、そして
3月後半--
志望高に受かり、高校へ進学が決まった伊織。この日は中学の卒業式があり、名残惜しく教室で話す生徒達の姿がそこにはあった。
「伊織ちゃんは私と同じ高校だもんね!これからも宜しくねー!」
声がやたらと響く、この少女の名は
三宅 咲
伊織の幼馴染である彼女は、何かと伊織に絡んでくる少しオタク気質な女の子。
「はぁ、お前高校で絶対"ちゃん"付けするなよ。周りから引かれるからな……」
ぶっきらぼうに返事をする伊織。
「えー? いいじゃん! 伊織ちゃんって名前かわいらしいし、伊織ちゃんってちっちゃいからそれが似合うんだもん!」
そう、伊織は体が小さい。女である咲と比べても、小さく見える。しかし、一般的な中学男児の平均以下の身長・体重である彼だが、小さい頃から舐められない様に武道に励んできた。
中学入学と同時に髪を茶色に染め、ワックスで髪をツンツンにしてきたものだから、当然上級生の不良達に目を付けられ、入学式に数人からリンチを受けるハメとなった。
「入学式の日に伊織ちゃん、上級生に絡まれてたもんね。高校入ったらまた同じ様にはさせない、私が守ってあげるから!」
男として情けなくなることを言われる伊織。
「そんなことがあったとしたら、全員返り討ちにしてやるよ。ま、俺はもう髪も黒くするし、見た目で目立つことはないと思うけどね」
「えー、髪黒くするの? 逆高校デビューってやつ~?」
伊織は、体が小さいながらも鬼の様に強かった。さすがに数人相手に圧勝という訳ではなかったが、こいつと関わるとやばいという印象を相手に叩きつけるには十分の腕っ節であった。
しかし、入学式の出来事がきっかけで、恐れられ、人が寄ってこなくなってしまった。一部の同級生の不良は、伊織を仲間に取り入れようと寄ってきたこともあったが、不良の道を望まない伊織は拒み、結果同姓の友達はできず、女子からも怖がられ、一匹狼になってしまったのだ。
「高校では、絶対問題おこさねぇ……勉学、部活に励み、マネージャーと恋する生活をするんだよ!」
そんな青春を思い浮かべ、伊織は目をキラキラとさせる。
「そうだといいね~!」
咲は、そんな楽しそうな伊織を見て笑顔になる。
わざわざ、隣町の高校に進学し、自分を知らない人ばかりの環境を選んだ伊織。しかし、咲も同じ高校だったのは計算外だった。
「腐れ縁ってやつか。ま、お互い良い高校生活になるよう、祈るぜ」
「そうだねー! あ、初日は学校まで一緒に行かない? 道に迷いそうで~」
「お前はどんくさいからな……いいけど、まじで"ちゃん"付けやめろよ?」
「はーい! やめまーす!」
こいつ絶対辞める気ないな、と伊織は苦笑すると、咲は友達の輪に戻っていった。
「そろそろ教室に人が少なくなってきたな」
教室に人気がなくなり、そろそろと帰宅の準備を始める。下駄箱から自分の靴を出し、いよいよこの学校ともおさらばとなる。中学三年間の、一匹狼の思い出が蘇る。
「高校じゃ、友達たくさん作って……がんばるぞ!」
(ま、咲がいたから寂しくなかったってのはでかかったかな……)
心の仲で、幼馴染の咲に感謝を告げ、校門を後にする。
「最後の記念に、立ちションするか」
俺が居た記録を残すと言わんばかりに、校門に小便をかけようとする伊織。なるほど、他人が避けるのも無理はなさそうだ。
しかし、異変が起きる。
「ん……は……??」
いつもの、摘める例の棒状のものが……無い。
「えーと……そんなことあるわけ……」
「あなたの"男性余命"は後半年です―--」
あ ――――――
あの日、病院の診察室で言われた言葉を思い出す。
まさか、嘘だろ?そんなことが現実にありえない、何かの間違いだ、あるはずがない
急いでズボンを履いていた下着ごと下ろす。
「……ない―---」
呆然と空を見つめる伊織の姿が、そこにはあった。