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宮沢弘の文学論

描いて描くか、描かずに描くか

作者: 宮沢弘

 あまり大したことを言えるほどの経験があるわけではありませんが。「なろう」にある作品を読んでいて、たまに思うことがあるので。

 たまに、攻撃とかの威力で「すさまじい」という形容を見ることがあります。ちょっとそれってどうかなと思います。攻撃とかの話に限りませんが。「美しい」とか、他でも結構同じようなことが言えると思います。


 たとえば、私のものから例を引きます。「Methuselah」の「9-3」 (http://ncode.syosetu.com/n9320cn/19/) ではこのような書き方をしています。これがいい例という話でもなく、手軽に引っ張ってこれる例なので。

例1:「薙ぎ倒された木々の向こうから、熱と光の中から影が現われた。」

 うーん、「熱と光」より「熱と炎」の方が良かったかな。

 これがどういうものの形容かというと、「Methuselah」の「9-2」 (http://ncode.syosetu.com/n9320cn/18/) でのこれのものです。

例2:「50トン級の鉄球で、40ギガ・ジュール程度。昔の基準となっていた火薬に換算して10トン程度の威力だろう。」

 例2は特段なにかを文学的に形容しているわけではありません。例1も、大して形容しているわけではありません。でも、「すさまじい」と片付けてしまうよりは、いくらかましではないかと思います。


 「文学の書き手のタイプ」 (http://ncode.syosetu.com/n1289cr/) で、「瞬間切り取り師」、「ストーリー・テラー」、「ノヴェリスト」という分類を試みました。まぁ、これ、「ストーリー・テラー」と「ノヴェリスト」は普通に言われる分類で、私はそこに「瞬間切り取り師」を付け加えただけですが。

 必ずそうだというわけではありませんが、ノヴェリストは「描くことによって描く」タイプです。それ以外の2つは、言うなら「描かないことによって描く」タイプです。

 「描かないことによって描く」というのは表現としては難しいのですが。例1は、それがどれほどのものだったのかは描いていないだろうなと思います。描く人はもっとちゃんと描くでしょうから。

 あるいは5月30日に公開予定の「Methuselah」の「4-3」 (http://ncode.syosetu.com/n9320cn/22/) ではこういう部分があります。

例3:「私たち自身も、その一部だ。」

 これ、たぶんどういう意味でなのかと思われるかもしれません。おそらく2つの解釈が可能だろうと思います。これは私としてはその両方の意味を一文にまとめています。文字として描かずに、読む人に思い描いてもらおうと考えているのです。それが伝わるか、この方法がよいものかどうかはわかりません。ですが、描いてしまうよりも描かない方が私の好みではあるのです。


 ですが、「すさまじい」の類は、そのどれでもないように思います。描くことによって描くのは大変です。同じように描かないことによって描くのも案外それなりに大変だろうと思います。対して、「すさまじい」という類の形容は、「描く」こともせず、「描かない」こともしていないタイプなのかもしれません。

 「すさまじい」の類の書き方を思いついた場合、「描く方法はないのか」と、「描かない方法はないのか」とを、一回考えてみると表現としてもっといいものになるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  表現方法について、深く考えさせられましたし、 ”小説家になろう” と思う人々の勉強になる素晴らしい作品だと、思いました。 [一言]  以前、宮沢様に ”むしろSFとしての可能性を感じた”…
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