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緒菜穂

 マコと別れ、緒菜穂のテントに戻った。

 するとなかには、緒菜穂と人型モンスターの娘がひとり、そしてメチャシコとフランポワンがいた。俺は入り口のところで思わず立ち止まり、それから出て行こうとした。

 しかし逃げるのもしゃくだと思ったから、なかに入った。

 むすっとした顔でテントのまんなかに座ったのである。――



「ちゅちゅう!」

 緒菜穂がまるで赤ちゃんのような笑みをして抱きついてきた。

 しかしそのからだは豊満で、身長は低いけれどぷるんぷるん。

 いわゆるロリ巨乳である。

 で。

 俺に緒菜穂が抱きついているのを、メチャシコとフランポワンがスケベな笑みで見て。

 そして人型モンスターの娘が身を乗り出して、キラキラとした瞳でじっと見ていた。


「テンショウさんテンショウさん。その娘、おぼえてますかあ?」

 メチャシコが人型モンスターの娘を見て言った。

 俺は緒菜穂のくちびるをかわしながら、ようやくうなずいた。

 メチャシコが言った。


「ラブドちゃん。ドレイ横町のお店で緒菜穂ちゃんと一緒にいた」

「ああ」

「えへへ」

 メチャシコのお気に入りの娘である。


「それでね、テンショウさん。緒菜穂ちゃんとラブドちゃんはお友達なんですけどね?」

「ああ分かる。人型モンスターのことは、マコからだいたいのところは聞いたよ」

「へえ? テンショウさん、マコさんと一緒にいたんですかあ?」

「まあね」

「えへへ。それでなんだかスッキリした顔をしてるんですね?」

「なんだよそれ」

「下半身が軽くなっているんですね?」

「……あのなあ」

「えへへ。サキュバスの魔力をもつ私の目はごまかせませんよお?」

 そう言ってメチャシコが思いっきりスケベな笑みをした。

 その横でフランポワンが、やはりスケベな笑みをした。

 そして緒菜穂が無垢な笑みでこう言った。


「マコちゃんより、いっぱい愛してでちゅう」

 そのあまりにもド直球な要求に、俺は言葉を詰まらせた。

 すると人型モンスターのラブドが興味津々といった目をして、俺の顔を覗きこんだ。

 俺が愛想笑いをすると、ラブドはニコッと笑った。


 ラブドは、緒菜穂やマコに似て小柄だった。

 しかし、ふたりとは違って美少年のようなしゅっとした体型、サラサラのショートヘアーで、後ろから見たらまるで陸上部の男の子のようだった。

 そして胸がフラットなのはマコと同じだが、しかし、ほかの部分はマコと違って女らしさがまるでなかった。お尻が小さくて、くびれもなかった。おそらく年齢の違いによるものだろう。

 で。

 そんなラブドが、緒菜穂のマネをして元気いっぱいに言った。

「愛してにゃー!」

 すると、緒菜穂が呼応するように言った。

「愛してちゅう!」


「愛してにゃー!」「愛してちゅう!」

 ふたりは満面の笑みで可愛く言った。

 俺は苦笑いをした。

 それからラブドの肩を抱き寄せた。

 ラブドははじめ驚いたが、すぐにニコッと笑い、元気いっぱいに抱きついてきた。

 その様子を見て、緒菜穂はものすごく喜んだ。

 緒菜穂とラブドは、満面の笑みで俺にほっぺたをすりすりした。

 ふたりの美少女に抱きつかれた俺は、しばらく放心状態でテントの天井を見ていた。

 やがてメチャシコが母性に満ちたため息をついて、それから言った。



「テンショウさん。ちゃんと分かってるじゃないですかあ」

「ああ」

「私、ちょっと心配だからフランポワンさまと一緒に来たんですよ?」

「ああ、ごめん」

「余計なお世話だったンやね」

「そんなことないよ」

 と言ったら、メチャシコとフランポワンは同時にスケベな笑みをした。

 俺は緒菜穂とラブドを抱きながら、困り顔で言った。



「ちゃんと分かってるよ。人型モンスターって女性しかいないんだよね。それで山からおりて、人間の男性を誘惑するんでしょ。で、たいていは一夜限りの関係なんだけど、ごくまれに男性と一緒に街で暮らす人型モンスターがいる」

「それがマコさんのお母さんですね」


「そう。そしてそれ以外にも人型モンスターの集落に『男性をお持ち帰り』することもある」

「そういった場合は、そのお持ち帰りした男性を集落の全員で愛するんですってね」


「そうそう。子孫を増やすため、人型モンスターにはそういう習性がある」

「しかもどういうわけか、集落にお持ち帰りする男性はひとり。同時にふたり以上の男性が集落にいることはない、鉢合わせすることはないんですって」

「まあそれは」

 試行錯誤の末だろう。

 もし、そんなモンスター娘のハーレムに、男がふたり以上いたら、きっと争いが起こる。

 そうなってしまえば、子孫を増やすどころではない。

 人型モンスターとしては絶対にさけたい状況である。



「だから緒菜穂ちゃんは、ひとりの男性をみんなで愛したい、共有したいんですって」

「まあ、宗教観みたいなものだと思うけど、でも、整合性がとれた理屈のように思えるな」

「しかも一度結ばれたら、その男性に一途だそうですよ」

「まあそれも子孫を増やすためだろう。そのほうが増えると数世代かけて結論したんだろうな」

 そう。

 このアダマヒア世界では、人型モンスターは魔法使い以上に差別的な目で見られてる。

 人型モンスターを抱きたい愛したいと思う男は、そうそういないのだ。

 魔法使いの娘以上に、低俗に表現するところの『ゲテモノ』扱いなのだ。

 だから人型モンスターは、一度愛しあった男性に一途になる。

 まあ。

 それだけ差別的な目で見られているにも関わらず人間社会にとけ込んでいるというのは、それは彼女たちがとても魅力的な容姿をしているからにほかならない。

 ぶっちゃけ、俺が今まで見た人型モンスターにブスはいない。

 誤解を恐れずに乱暴な言いかたをすれば、人型モンスターは、かわいい娘か、エロかわいいお姉さんばかりである。……。



「しかしまるでハーレムみたいで、なんだか申し訳ない気持ちになってくるな」

「えへへ。でね、テンショウさん。このハーレム的な価値観があるから、人型モンスターさんはアダマヒアの社会にとけ込めずにいるんですよ」

「ああ、アダマヒアは一夫一婦制だ」

「アダマヒアというか、アダマヒアの教会やね」

 フランポワンが、べっちゃりとした目でそう言った。

 舌をちらりと見せて、今にも抱きついてきそうな顔をしている。


「まあそれはそれ。俺はそんな緒菜穂たちの価値観を受け入れるよ」

 というか男にとっておいしすぎるだろう。

 ひどく都合のいい価値観に思えてしかたがない。

 俺は、そんなことを思って苦笑いをした。

 するとフランポワンがイタズラな笑みをした。

 そして言った。


「んふふ、まるで本みたいやね」

「え?」

「面白い本、感動した本みたい」

「はあ?」

「だってな。面白い本を読むやン? 感動するやン? するとお友達に教えたくなるやン?」

「……ああ」

「そして貸したくなるやン?」

「………………」

「んふふ。面白い本を読んだら、お友達に貸して一緒に楽しもうってなるやン?」

 フランポワンはイジワルな笑みでそう言った。

 ようするに俺は、面白い本のように彼女たちの間でまわし読みされている。

 フランポワンはそう言っている。


「あのな」

 俺が眉をしぼると、フランポワンは悦びの声をあげた。

 快感にふるえて、おどけて逃げた。

 メチャシコを連れて、テントから出ていった。

 その去り際に、フランポワンは甘えるような声でこう言った。


「あとでオシオキに来てえ」

 俺は失笑した。眉を上げ、肩をすぼめ、それからうなずいた。

 するとフランポワンとメチャシコは、きゃっと黄色い声をあげた。

 わいわい話しながら彼女たちのテントに帰っていった。

 ふたりがいなくなると、俺は緒菜穂とラブドにもみくちゃにされた。

 で。

 一息ついたところで、緒菜穂が言った。


「ラブドちゃんは、黒き沼で育ったでちゅう」

「えっ、ほんと?」

「ほんとでちゅう」

「ほんとだにゃー」


「じゃあ、そのあたりのこと詳しいの?」

「もちろんでちゅう」

「もちろんにゃー」

「それはっ」

 ぜひいろいろと聞かせてほしい。


「ヴァンピーロにもくわしいでちゅう」

「やつらは噛んで仲間を増やすにゃー」

「なるほど、じゃあ弱点とかは?」

「太陽に弱いにゃー」

「そっ、そんな」

「にんにくも苦手にゃー」

「ベタな」

「普段からにんにくマシマシにするといいにゃー」

「マシマシって」

「ラーメン大好きにゃー」

「おっ、緒菜穂はご飯派でちゅう」

「そっ、そうなんだ」

 アダマヒアにラーメンってあったのか。

 まあ、小麦はあるし、ほかの材料もそろってる。

 人型モンスターが発明していたとしてもおかしくはない。きっと。



「じゃあ、ほかにもいろいろと教えてよ」

「いいにゃー!」「いいでちゅう!」

 というわけで。

 俺はふたりにメチャクチャにされながら、黒き沼にまつわる知識を身につけたのだった。――

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