表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/91

その2

 女の子の訪問を受けた俺は、その子とともに家を出た。

 北に向かうその道すがら、女の子はしゃべった。


「あの、すみません。突然お願いしちゃって」

「いえ別に」


「前々から頼まれていた仕事だったんですけど、わたし、募集かけるの忘れちゃって。それで力仕事なんで、いつもはそういったカテゴリーの魔法使いさんにお願いしてるんですけれど、でも人数集まらなくて」

「ああ、それで俺が男だから」



「ごめんなさいっ」

 と言って、女の子は勢いよく頭を下げた。

 ふわっと栗色のロングヘアーがふくらんで、もとに戻る。

 ばさっとしたロングスカートも同じように、ふくらみ戻る。

 そして女の子は、俺の顔色をうかがうように上目遣(うわめづか)いで見て。

 それから、すこし(おび)えた感じで微笑んだ。


 俺は、つばを大きく呑みこんだ。

 こんなに可愛い子だなんて、今まで気付かなかった。

 地味な服だから庶民的に見えていたけれど、よく見ればバチッとした派手な顔をしてるじゃないか。魔法使い居住区のなかじゃ飛び抜けて可愛いじゃないか。



「ブランコをね、作るんです。お庭にブランコを作るお仕事をお願いしたいんですけど、あっ、あの、ブランコって分かります?」

「ああ、分かる。分かります」


「ほんと? ()かったあ。テンショウさんって穂村(ほむら)出身なんでしょう? いろいろと生活習慣が違うかなあって」

「いや。いえ、大丈夫です」

 たしかに和風な穂村と、中世ヨーロッパなデモニオンヒルは、まるで違った。

 しかし、たいていのことは二十一世紀の知識でなんとかなった。



「それで、これから魔法使いさん二人と合流して、お庭に行くんですけどね」

 と、女の子が言ったところで、遠くから声をかけられた。

 そこには体格のいいオバチャンが、ふたりいた。

 オバチャンふたりはニカッと笑い、大らかに手を振っていた。

 なんというかガテン系――魔法など使わなくとも簡単にブランコを設置できそうな――そんな肉体派の二人だった。


「あの、よろしくお願いしますっ」

 女の子が勢いよく頭をさげた。

 俺たちは握手を交わした。

 そして目的地へと向かった。

 その道すがら、俺はオバチャンからの遠慮のない質問攻撃にさらされた。



「あんたあ、炎の魔法使いなんだって?」

 と、オバチャンAが()く。

「はあ、はい」

 と、俺が答える。

「ハンサムだねえ」

 と、オバチャンBが言う。

 俺が苦笑いをすると、オバチャンAが独り言のように言う。


「ちょっと人目をひく面立ちだよ。美しい顔をしているんだねえ」

「はァ」

「それに引き締まってる。魔法使いなのに体が(きた)えられている」

「いや、まあ」


「はははそりゃあんた、この子、魔法使いになったばかりだもん。魔法使いになる前は、魔法に頼らない生活をずっとしてたんだもん」

「はははそりゃそうか、そうだねえ」

「はははそうだよお」

「「はははははは」」

 と、オバチャンAとBが大爆笑。



「それであんた、穂村の出身なんだって?」

刀鍛冶(かたなかじ)の息子だそうだよお」

「へえ、だから水もしたたる()い男なんだねえ」

「男と言うには、ちょっと若すぎるけどねえ」

「そうだねえ」

「そうだよお」

「「はははははは」」


 このオバチャンたちの、思いつきで脈絡(みゃくらく)がなくて、たぶん興味すらない質問に俺は翻弄(ほんろう)された。

 そんな俺たちの横を、女の子はニコニコしながら歩いていた。

 女の子は、聞こえないフリをしながら、しかし、しっかり聞き耳をたてて、興味津々(きょうみしんしん)といった感じで聞いていた。

 俺は、彼女のこういった要領のよさ、世故(せこ)()けたところから、さすが受付嬢だと思った。


 モンスターの討伐をはじめとした様々な仕事を仲介(ちゅうかい)する斡旋所(あっせんじょ)

 彼女はそこの受付に向いているな、(きた)えられているなと思った。





 さて。

 そんな感じで愛想笑いをしながら歩いていると、おごそかな門に到着した。

 女の子が女騎士のところに小走りで行った。

 すると、すぐに門が開かれた。

 俺たちは女騎士に頭を下げて、なかに入った。

 そこは広大なお花畑だった。


 この荒野のなかに、ぽつんとできた城塞都市デモニオンヒル。

 そのなかに、このようなお花畑があるとは。……。

 俺はまるで(まぼろし)でも見せられたかのように、ぽかんと口を開けたままでいた。



「テンショウさんは、こちらは初めてでしたっけ?」

 女の子が微笑んで()いた。

 俺は、つばを呑みこむように(うなず)いた。

 そして、まるで独り言のように(つぶや)いた。

「こんな場所があるとは……」


「こちらは、アンジェリーチカ城です。この城塞都市デモニオンヒルを治めるアンジェリーチカさま……アダマヒア王国第一王女さまのお城ですよ」

「えっ? でもお城ってあれじゃ?」

 俺は、遠くにある城を指さした。

 すると女の子は、にこやかに言った。


「さっき通った門からお城です。ここはもう、アンジェリーチカ様のお家ですよ」

「はァ……」

「というより、この城塞都市すべてがアンジェリーチカ様のものなんですけどね」

 そう言って女の子は、くすりと笑った。

 俺は、思わずその場に立ちつくした。

 すると背中を、オバチャンにポンと叩かれた。

「行くよっ」

 と、豪快に笑われた。

 そして俺は、オバチャンに背中を押されて歩くのだった。



 しばらく進んだところに、女騎士が待っていた。

 女騎士は、門にいた騎士よりも軽装だった。

 チェイン・メイルを着込んでいなかった。

 王国の紋章の描かれたトゥニカを、ばさりと被っただけだった。


「では、あちらに」

「よろしくお願いします」

 俺たちは、彼女の指示でブランコを設置した。

 幌馬車(ほろばしゃ)に用意された建築用材を、お花畑の一角に運んでは、それを図面通りに組み立てた。

 オバチャンたちは、なにかの魔法を補助的に使っていたけれど、しかし、どう見ても俺たちの作業は、二十一世紀で言うところの土木工事だった。



「なんでも、アンジェリーチカ様の妹様が遊びに来られるそうで、そのための遊具なんだそうですよ」

 女の子がにこやかに言う。

 彼女は、女騎士の横で俺たちの作業を見守っている。


「このお花畑は、アンジェリーチカ様が都市会長に任命されたときに造られたものです。アンジェリーチカ様は、とても気に入られているそうで、よくピクニック感覚で楽しまれるんです」

 女の子が言うと、オバチャンが大らかに言った。


「ああ、そう言えば、向こうのほうから賑やかな声が聞こえるねえ」

「あら、ほんとだ。若い子たちの楽しそうな声が」

「それに、いい(にお)いも」

「あら、美味しそうな(にお)いだねえ」

 オバチャンたちが朗らかに言った。

 すると、女騎士が無感情にこたえた。



「本日は、ザヴィレッジ邸からご子息とご息女がお見えになっています。王国からも王家の皆さまが来られておりますので、若い皆さまで軽食をなされているのでしょう」



――・――・――・――・――・――・――

■チートな魔法使いである俺の復讐の記録■


 特に復讐を心に誓うような出来事はなかった。


 ……ただただ、アンジェリーチカのお花畑に圧倒されてしまった。




■まだ仕返しをしていない屈辱的な出来事■


 城塞都市からの使者・アンジェリーチカ第一王女に、まるで汚物でも見るような目で見られた。


 屈辱的な姿勢で、後ろから指をつっこまれた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ