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ダーティーワーク

 その後。俺たちはツヴェルフを追った。

 隠しハシゴを降りて地下道に入り、しばらく進むと城壁の外に出た。

 そこは森と城壁に(はさ)まれ、ひどく薄暗かった。


「あれだ」

 男が壁伝いに歩いていた。

 見るからに高級な青い帽子をかぶっていた。

 明らかに貴族だった。

 しかも貴族のなかでもひときわ上等な衣服を着ていた。

 足を引きずっていた。気位の高さがその背中にあらわれていた。


「間違いない」

 俺たちは頷きあうと、男を追いかけた。

 マコが男に向かって松明を放り投げた。

 するとそれが雑草に燃え移り、あたりを明るくした。

 ツヴェルフは振り向き、真っ青な顔をした。



「おい、ツヴェルフ!」

 俺は朗らかに言った。

 マコたち地下組織の面々が、ずいっと前に出た。

 不法移民、不法入村者と呼ばれ、(しいた)げられてきた者たちである。

 彼らは松明をかかげた。クロスボウを構える者もいた。

 ツヴェルフは大きくつばを呑みこんだ。

 悲鳴を上げて逃げ(まど)った。


「待てよ」

 地下組織は、ツヴェルフを(ゆる)やかに囲った。

 その一帯が松明で明るくなった。

 ツヴェルフは、怯えて固まった。

 俺たちは復讐のクロスボウを撃ち込んだ。

 ツヴェルフが悲鳴を上げると、失笑が漏れた。



「その青い帽子は王侯貴族か? で、王国から来たのか?」

 俺は、かつてツヴェルフが不法移民に向けた侮蔑そっくりに、彼に訊いた。

 指さして訊ねた。

 ツヴェルフは怯えて頷いた。

 俺は音もなく笑い、クロスボウを撃った。

 太ももを射抜かれたツヴェルフは、悲鳴をあげた。



「なにしにザヴィレッジにやってきた」

 そう言ってマコがクロスボウを撃った。


人の村(ひとんち)に勝手に入ンなよ」

 そう吐き捨て、地下組織の男が撃った。

 松明を投げつける者もいた。

 それがツヴェルフに燃え移り、惨事となった。

 俺たちは陰鬱(いんうつ)な面持ちでそれを見守っていた。


「待てッ! 助けろッ! 助けろォ!」

 ツヴェルフは泣き叫んだ。

 俺はゆっくりと首を振った。

 すると突然、ツヴェルフは猫なで声で話しはじめた。



「テンショウ。貴様、テンショウだろう? 私はツヴェルフ、王邸(クリアレギス)にて絶大なる発言権を持つ第2公子だ。助けてくれ、私の味方につけ。そいつらをなだめてくれ、あるいは皆殺しにしてもいい。きっと、悪いようにはしない」

「………………」


「テンショウ。私は不法移民を弾圧したが、しかし貴様のような魔法使いには理解がある。いやっほんとだ、本当のことなのだッ! その証拠にテンショウ、貴様は貴族となったではないか、セロデラプリンセサ伯となったではないか。しかも、王族まで、ははっ、これは予想外だが、婚約者としたではないか」

「………………」


「全部、私の発案だ。貴様がデモニオンヒルに収監されたときに、私が提案した。諸侯に取り立て、婚約者を押し付けてデモニオンヒルに縛りつけろ、子作りに熱中させろ、牙を抜けとな、ははっ、言葉は悪いが貴様が幸福な人生を送れるよう、"私が" 提案したのだよ」

「おまえだったのか」


「そうだ。私、第2公子ツヴェルフは魔法使いに理解がある。幸福をもたらす力がある。だから、テンショウ! 手を貸せ、私に味方しろ!! そいつら寄生虫をォ、んんんーッ!!! 駆除しろッ!!!!」

 ツヴェルフは力を込めて言った。

 俺は苦笑いで、彼を撃った。


「ぎゃおぅ!」

 ツヴェルフは仰け反り、アミュレットが飛び散った。

 と。

 突然、ツヴェルフは逃げだした。

 マコたちがすぐさまクロスボウを照準した。

 そのときツヴェルフの逃げる先から、馬が来た。

 貴族がひとり、馬で駆けつけたのだ。

 そしてツヴェルフの眼前で馬を止めた。

 貴族は、すっと剣をツヴェルフに向け、それから言った。



「僕はフランツ・フォン・ザヴィレッジ。父のこと、アンジェリーチカ様より聞いている。ツヴェルフ第2公子、王女の見たことは本当か?」

「ばッ! ばばばかなッ!! ここでフランツぅぅううう!!!???」


「父を殺したのは貴方か――と、このフランツは聞いている」

 そう言ってフランツは馬から降りた。

 剣をまっすぐに構えた。

 瞳に憎しみの蒼白い炎を宿らせて、ツヴェルフに詰めた。

 ツヴェルフは女のような悲鳴を上げた。後ずさった。

 そしてツヴェルフは、俺たちとフランツに挟まれた。


「ひいぃい!」

「父のかたき……」

 フランツは、ぞっとするほど低い声で、しかも死病にかかったような顔をして言った。俺はその凄惨(せいさん)な表情を見て、憂鬱(ゆううつ)になった。しばしの逡巡(しゅんじゅん)ののち、自嘲気味(じちょうぎみ)に笑った。そして俺は前に出た。

 割って入るようにして、ツヴェルフの肩を後ろから抱いた。

 それから深く頭を下げて、俺はフランツにこう言った。



「フランツさま。お父上のかたきを討つのはお止めください。この男を斬ってはなりませぬ。あなたさまの手で、王族を殺してはいけないのです」

「テンショウ!? なっ、なにを言っているんだ!?」


「フランツさま。あなたは壮大な夢を抱いた心の美しい御方。もし、あなたのような御方が王族など殺してしまったら、たとえそいつがクソ野郎だとしても、きっと苦しむことになる。いつまでも自分を責めることになる。そして、心が美しいだけに、やがてその気高き精神をドス黒く染めることとなる」

「なにをッ!?」

 フランツは、さっと顔色を変えた。

 (あなど)るな見くびるな――と、俺に噛みつくような目を向けた。

 俺は、すっと顔を上げた。

 ひどくむなしい笑みをして、それから乱暴に言った。



「おい、フランツ。俺はゲスだから、正義とか倫理観なんてものには屈しない。気分で動くし、利己的だし、相手の気持ちなんか考えない。だから俺は、これからツヴェルフを殺す。おまえの納得感など、まるで無視してツヴェルフを殺す。俺はゲスだから、おまえに親のかたきなど討たせないし、それにッ……王族殺しなどさせたくないんですよ」

「待てッ!」

 フランツが詰めた。

 ツヴェルフが萎縮(いしゅく)し、悲鳴をあげた。

 俺は力いっぱいツヴェルフを引き倒した。

 (さげす)みの目で見下ろし、そして言った。



「アダマヒア王国第2公子ツヴェルフは、俺が殺してやる」

 この言葉と同時に、ツヴェルフは炎に包まれた。

 ツヴェルフは炎を噴き上げ、即死した。


「テンショウ、貴様ァ!!!!!」

 フランツは激高した。

 俺は刀――菊清麿――を抜いて、フランツを制した。

 後ずさりして、マコの肩を抱いた。

 フランツをけん制したまま、マコのポケットをまさぐった。

 そしてカマレオネス・クロークをつかむと、俺はため息混じりにこう言った。



「ここにいる者たち、そして、このザヴィレッジに暮らす者すべてが、あなたを必要としています。それにこのテンショウ、あなたにはずっと太陽のような笑顔でいて欲しいのです」

 俺はそう言って、マコをきつく抱きしめた。

 それから精一杯のゲスな笑みをして、景色ににじんで消えるのだった……――。



――・――・――・――・――・――・――

■チートな魔法使いである俺の復讐の記録■


 王国に結婚のことで罠をかけられた。あなどられた。

 (ツヴェルフの発案だった)

 →燃やし尽くしてやった。



■まだ仕返しをしていない屈辱的な出来事■


 なし


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