その2
「これより穂村に伝わる秘儀をおこなう」
俺は威厳に満ちた声で、ウソをついた。
アンジェリーチカは敬虔な信徒のように、それに頷いた。
「アンジェリーチカ。そこに座ってくれないか」
俺はそう言って自身の帯に手をかけた。
アンジェリーチカは言われるままに、ぺたんと座った。
「初めてか?」
俺に頭上から言われて、アンジェリーチカはびくりとした。ふるえて頷いた。
俺の全身にどよめくような快感がはしった。征服欲がひどく満たされた。
……ゲスなウソからはじまった行為だったが、なにやら本物の秘儀のような、荘厳でいかがわしい雰囲気となってきた。俺はこの雰囲気に酔っぱらった。
アンジェリーチカは、はじめ悔しそうな目で俺を見て、すぐに照れくさそうに目をそらした。
そして、じわあっと悦びと従順さの絡みあったケナゲな笑みをした。
俺は、大いに征服欲と支配欲を満たされた。
まるで彼女に首輪をかけたような――そんな気分になった。
それは行われ、それは終わった。
俺は気を取り直し、精一杯の低い声で偉そうに言った。
「以上で密儀を終わる。このこといっさい他言無用である。もし他者に知れたら効果が消え去るので、気をつけるように」
「……はい」
アンジェリーチカは、しあわせそうな顔をして頷いた。
俺はひどく根性の悪い笑みをして、ベッドに飛びこんだ。
仰向けになって、そのまま眠りについた。
アンジェリーチカが、そっと横に寄り添ってきた。
彼女は夢見るような顔をして、ずっと俺を見ていた。――
明け方。俺たちは童女たちの叫びで目を覚ました。
飛び起きて階下を覗き見ると、武装した集団がいた。
そのひとりが俺たちを目がけて松明を投げた。
「野郎ゥ!」
俺はカタナを引っつかんで飛びおりた。
柄に手をそえ、腰を落とす。
と、同時に俺は火柱をあげた。あたりを照らした。
そして童女がいないことを確認すると、瞬間的に、周囲を炎で埋めつくした。
「ぎゃあぁああああ!」
燃え叫ぶ男たちを、俺は斬った。
蹴り飛ばし、魔法で吹っ飛ばした。そして叫んだ。
「第一王女の屋敷と知ってのことか!」
すると奥からモヒカンが現れた。
怯える童女をつかみ、ニヤニヤしながら顔を出したのだ。
「おまえは城壁の外で見た!?」
「ヒャッハーッ☆ 俺はこのザヴィレッジの村長、ザヴィレッジ卿だァ」
「おまえ村長だったのか」
「み・な・ご・ろ・し・だヒャッハーッ☆」
そう言ってモヒカンは下卑た笑みをした。
俺は念のため、もう一度訊いた。
「おまえ、第一王女がいるんだぞ?」
するとモヒカンは、目を細めて頷いた。
み・な・ご・ろ・し・だ――と、念を押すように言った。
俺は眉を絞り、大きく息を吐いた。そして言った。
「ちょっと、その子の目をふさいでくれないか?」
「良いだろうヒャッハーッ☆」
「すまん助かるよ。お嬢ちゃんもしっかり目を閉じるんだよ」
俺はゲス顔でそう言って、モヒカンの呼吸器官を激しく振動させた。
「ぎゃばッ☆」
モヒカンは首をおさえ、勢いよく仰け反った。
頭を床に叩きつけ、ブリッジ状態のまま痙攣した。
もちろん即死である。
「テンショウ!」
真っ青な顔をしたアンジェリーチカがやってきた。
俺は童女の肩を抱きながら、あたりを見まわした。
それからこう言った。
「村長が俺だけでなく、キミも殺そうとした。いいか、アンジェリーチカ。あいつらは証拠をもみ消すために、キミを殺そうとしたんだぞ」
「くっ……」
「復讐無双のはじまりだ。誇りがあるならついてこい」
俺はゲス顔でそう言った。
アンジェリーチカはひたむきな顔をして頷いた。
――・――・――・――・――・――・――
■チートな魔法使いである俺の復讐の記録■
ザヴィレッジの村長に命を狙われた。
→もちろん瞬殺してやった。
……アンジェリーチカまで殺そうとした。たしかに彼女は実権を持たないお飾りの第一王女だけれども、しかし、そこまでやるかって感じである。
■まだ仕返しをしていない屈辱的な出来事■
王国に結婚のことで罠をかけられた。あなどられた。
ゴンブトに親を殺され、『キヨマロの七刀のうち二番刀・菊清麿』を奪われた。
パルティアに情けをかけられた。




