その5
「信じてる」
と、マコは言った。俺は彼女を抱きしめた。
「いやっ」
「やめてっ」
「くやしい」
と囁くように言って、マコは俺を詰めるような目で見た。
俺は、今までこのような媚びを受けたことがない。
このような媚態を見せる女を知らなかった。
脳髄がしびれるようだった。俺はそんなマコにひたすら夢中になった……――。
――……ようやく理性を取り戻したとき、俺は大の字になっていた。
マコは俺の胸に頬を寄せて、息を切らしていた。やがてマコは一心に言った。
「ごめんねっ。今、変身するから。可愛い娘に変身するから。そのほうがメチャシコも楽しいよね」
「いや、このままでいい。もとの姿のマコがいい」
「そんな気を使わなくてもっ」
「使ってない」
俺はそう言って、きつく肩を抱いた。
マコは喜びの声を漏らした。甘えるように上目遣いで俺を見た。
そして、可愛らしくすねて言った。
「ロリコンの貧乳好きぃ」
「……マコは18歳だろ? ならロリコンじゃないだろ」
「じゃあ、貧乳好き」
「それは」
と、言葉を詰まらせたら、かるく頬をつねられた。
マコは眩しそうに目を細めて言った。
「おっぱい嫌いなんだ?」
「いやっ」
「好きなんだ?」
「そんな」
「正直に言って。マコも正直に言うから、今日は、なにもかも正直に話そう?」
「はあ」
俺は苦笑いをした。すると、マコはぷっくらと可愛らしく頬をふくらませた。
俺は穏やかなため息をついた。
まるで懺悔室で告白をするかのように正直に言った。
「おっぱいは好きだよ。でも、嫌いになった」
「どうして?」
「……おっぱいの大きな女性にろくなヤツが居なくてさ」
「ふうん? それで嫌になっちゃったんだ」
「まあね」
アンジェリーチカ、フランポワン。それにメチャシコ。
みな見事なおっぱいの持ち主だが、しかし、みな見事にひどい女でもある。
いや、百歩譲ってひどい女じゃなかったとしても、俺は彼女たちにひどい目にあわされた。巨乳どもに、かるいトラウマを負わされたのだ。
そういえば、城壁で俺を騙したパルティア――あのクスリ漬けのクソ女――も誇らしげな胸の持ち主だった。
だから俺は巨乳を見ると、無意識に警戒するようになってしまった。
そしてマコのようなフラットな娘を見ると、なぜか安心してしまうのである。
まあ。
貧乳に悪いヤツはいない――とまでは、さすがに思わないのだけれども。
……。
ちなみに緒菜穂は巨乳だが、しかし彼女は背が低く童顔でぷにっとしているから、圧迫感がまるでない。
そう。圧迫さえしなければ、おっぱいも嫌ではないのだ。
「って、やっぱり巨乳好きなんじゃないのよ」
「そんなことっ、ないよ」
「なによ正直に言いなさいよ」
「うるせえ」
「はあん?」
「もう、大きいのも小さいのも好きなんだよっ」
俺は投げやりにそう言った。するとマコは、ぷっと噴きだした。
俺とマコはしばらく目と目を逢わせたままでいた。やがて大らかに笑った。
「マコもなんか言いなよ。正直にさ」
「……じゃあ」
「ん?」
「もう一回、メチャシコしたい」
「うん」
「やった。じゃあ、次はテンショウ。どんなことして欲しい?」
「うーん」
俺は、つい真剣に考えてしまった。そして真実を吐露した。
「口でして欲しい」
「バカっ」
「ダメ?」
「嫌よ。だって逢ったばかりでしょう? もうちょっと親密になってからでないと、時間がたってからじゃないとそういうのは」
「そういうもんなの?」
メチャシコはしてるのに、そういうものなのか。
「そういうものなの」
「そっか」
実は今まで、やってもらったことがなかったから期待したんだけど。
緒菜穂はいつも一心に抱きついてくるから機会がなかったから、だからしてもらいたかったのだけれども――と、そんなことを思いながら、しょんぼりしていると、マコが怯えてこう言った。
「また今度。今度なら。今度するときなら、ね」
「ほんと?」
「……ねえ、また逢ってくれる? メチャシコしてくれる?」
「変身してないマコとなら」
俺が照れてそう言うと、マコは満面の笑みで抱きついた。
――・――・――・――・――・――・――
■チートな魔法使いである俺の復讐の記録■
マコと固い絆で結ばれた。
……マコは可愛いくて性格もいい娘なのだけれども、しかし彼女といると、ゲスさと鋭敏な感性が失われていくような気がして、そのことはすこし恐ろしいのであった。
■まだ仕返しをしていない屈辱的な出来事■
フランポワンが女房のごとく振る舞った。
アンジェリーチカが妊娠のことを意識しはじめた。
王国に結婚のことで罠をかけられた。あなどられた。
ゴンブトに親を殺され、『キヨマロの七刀のうち二番刀・菊清麿』を奪われた。
パルティアに情けをかけられた。
フランクにまんまとハメられた。
 




