その5
「野郎ォ、ふざけやがって!」
俺は迫りくる騎士の先、ステージを睨みつけた。
そこにあるワイン蔵を吹き飛ばした。
ぼふっ!
ステージにワインが降り注ぐ。
ツヴェルフを取り囲む貴族たち、そして聴衆は泣き叫んだ。
そのことで騎士は怯んだ。振りかえり、ステージを見ながら後ずさった。
俺は、怒りに震えながらステージに向かった。
と。
そこに後ろから首を打たれた。俺は気を失った。――
目を覚ますと俺は馬車に乗せられていた。
正面にはガラの悪い男がふたり乗っていた。
俺は眼をとじ、気絶したフリをした。
どうやら手錠と足かせをされているようだった。
俺はしばらくそのままで男たちの会話を聞くことにした。
「ケケケ、このクソ虫め。不法入村者の分際で領主さまを撃つからだ」
「違う、まだ領主さまじゃない。今はフランク様が領主さまだ」
「どっちだって同じだよ。フランク様はツヴェルフ様の熱烈なファンだ。もう譲ったも同然だからなあ」
「まあなあ。今日だって、必ず暴動が起こるから村を巡回しろっておっしゃってたからなあ。ツヴェルフ様を狙うバカが現れるからって、フランク様は心配して特別に俺たちを雇ったんだよな」
「で、その通りにこのバカがやらかしやがった」
「で、フランク様の屋敷に連行すると。なんでもフランク様は直接処刑したいそうだぜ」
「ケケケ、騎士はお上品だからなあ。ツヴェルフ様を撃ったクソ移民には、お上品すぎるからなあ。クソ虫はァ、酷たらしいやりかたでェ、処刑しないとなあァ」
「まったくだぜ」
そう言って男たちは笑った。
そして、満ち足りて言った。
「しかし、これでツヴェルフ様を支持する貴族が増えたな」
「ああ、今まではクソ移民に同情する貴族やギルドの成金連中が多かったからな」
「でも、これで一致団結する」
「このバカが暴れたおかげで、ツヴェルフ様の不法移民追い出し政策は一気に加速する」
なるほどそういうことか。
俺は、呆れと感心の絡みあった複雑なため息をついた。
そして右側の男を睨みつけた。
ぼっ!
男の頭は、まるでスイカのように破裂した。
「ぎゃっ!?」
左側の男は半身を真っ赤にして硬直した。
俺はそいつの足首を吹き飛ばした。
そして言った。
「おい、手錠を外せ」
男は大きく目を見開いてふるえるだけだった。
俺はもう片方の足首を吹き飛ばした。
そしてもう一度言った。
「足がなくなる前に、手錠を外せ」
男は奥歯をカタカタならしながら手錠を外した。
俺はそれを憮然とした表情で見下していた。
手錠が外れると両足のひざ下を吹き飛ばした。
俺は立ち上がり、泣き叫ぶ男に向かって言った。
「足かせを外せ」
男はまるで俺の靴にキスするような格好で足かせを外した。
その後、俺は男の体液の温度を徐々に上げた。
男はエビぞりになり喉元をかきむしって死んだ。
俺は御者を殺し、没収されたカタナを手にとった。
そして馬車を振動させて破壊した。
そのことで馬車は止まった。
俺は馬車から降りると、残骸にむかって思いっきり魔力をぶつけた。
残骸は粉々になり、炎が噴きあげ、あっという間に火の粉となった。
俺はかるい目眩を覚えながらも、路地を探した。
左肩が激しく痛んだ。おそらく失血による目眩だろう。
俺はふらふらと路地にむかっていた。
と、そのとき。みすぼらしい姿の女たちがやってきた。
そして俺の手を引き、背中を押した。
向かう先には、担架と修道女のような女がいた。
俺が身構えると、女は言った。
「お金のことは聞いている。われわれ地下組織は、命に替えてもあなたを守る」
俺が眉をひそめると、女が傷口にくちびるをあて思いっきり吸った。
そのことで肩の痛みがやわらいだ。
しかし女は干からびたように歳をとった。
「信じて。命に替えても守ります」
俺は自嘲気味に笑った。
これが罠ならそんな世界クソ喰らえだと思った。
どうとでもなれと思った。担架に横になった。
すると女たちは穏やかな笑みをした。
そして俺は意識を失った……――。
――……しばらくすると、俺は雑然とした部屋で寝ていた。
デモニオンヒルのドレイ横丁のような、べっちゃりとした湿ったところだった。
換気が悪く、不衛生ないかにも貧民窟って感じの場所だった。
「心配しないで。ここは教会ではないけど、ちゃんと治療できるわ」
「あなたの傷は責任をもって治療するわ」
ベッドの両脇から、ミニスカ修道服のエロい女が覗きこんだ。
その後ろからフライドチキンを売ってそうな白いジジイが顔を出した。
そして言った。
「心配しなくていい。ここは地下組織の療養院、領主の手の者や教会、そして騎士たちもここを知らない。だから安心して寝ていなさい。今からキミの傷をこの娘たちが治すから。まずは右側の娘が傷をふさぐんだ。そして左側の娘が傷口の時間を加速して治癒させるんだよ」
俺が眉をゆがめると、右側の女が甘ったるい声で言った。
「せんせえ、お尻なでないでえ」
「ははは、良いじゃないか。これからババアになるんだから、若いうちにさわらせてくれよ」
白いジジイはニコヤカに言った。
すると女は可愛らしく睨み、俺の傷口にキスをした。
そのことで俺の傷口はふさがった。
しかし女は思いっきり歳をとった。
「あっ……」
俺が言葉を詰まらせていると、左側の女が傷口をぺちゃぺちゃ舐めだした。
舐めれば舐めるほど俺の傷口は快復し、その周囲の痛みがひいていった。
そして女がどんどん若くなった。
というより女から少女へ、童女へ、幼女へと変化していった。
「もう、これ以上はっ」
俺はそう言って起き上がった。
と、そのとき。
ミニスカ修道女が転がるようにして、部屋に入ってきた。
そして言った。
「せんせえ。冷たい目をした女が!」
俺は起きあがり廊下を覗き見た。
遠く廊下の先には、俺を撃った女が手下を連れて歩いていた。
フランクのボディガードがこっちに向かっていたのだ。
「ふっ、ちょうどいいところに来た。ぶっ殺してやる」
俺はゲス顔でそう言った。
そして、にたあっとひどく根性の悪い笑みをした。
――・――・――・――・――・――・――
■チートな魔法使いである俺の復讐の記録■
フランクの雇ったふたり組に拉致された。
→吹き飛ばしてやった。
……少々やりすぎのような気もするが、しかし、俺の怒りはおさまらない。インフレ無双な気分である。
■まだ仕返しをしていない屈辱的な出来事■
フランポワンが女房のごとく振る舞った。
アンジェリーチカが妊娠のことを意識しはじめた。
王国に結婚のことで罠をかけられた。あなどられた。
ゴンブトに親を殺され、『キヨマロの七刀のうち二番刀・菊清麿』を奪われた。
パルティアに情けをかけられた。
フランクにまんまとハメられた。




