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その5

 モンスター討伐、当日の早朝。

 俺は斡旋所(あっせんじょ)の近くの茂みに身を潜めた。

 そして、グウヌケルが(よろい)を借りに来たのを見つけると、茂みからこっそりと魔法を使った。


 グウヌケルの体温を上げて、まるで風邪(かぜ)をひいたかのような症状にしたのだ。

 ただし、体温を2℃上昇させると歩行が困難となるので、多少、手加減をした。

 すると彼女は、ふらふらとなりながらも斡旋所に入った。

 俺は、しばらくしてから中に入った。

 グウヌケルは椅子に横になって、斡旋所の職員に看病されていた。


「大丈夫ですか?」

 と俺が()くと、

「ちょっと、いけませんね」

 と職員が応えた。

 グウヌケルは眉を歪ませた。


「じゃあ、俺とソクハメボンバで行ってきますよ」

「……すみません」

 グウヌケルは申し訳なさそうに言った。

 俺はこみ上げる笑いをおさえながら、

「お大事に」

 と言って城門に向かった。



 城門に行くと、アハトの従者たちが準備をしていた。

 そしてしばらくすると、ソクハメボンバがぷらりとやってきた。

 彼女は俺を見つけると、小走りで向かってきた。

 と。

 その出足をくじくように、俺は彼女の三半規管(さんはんきかん)に魔法を飛ばした。

 それで彼女は思いっきり転倒した。


「ああン、駄目だなあァ~?」

 ひざを怪我(けが)したソクハメボンバを、アハトが見下ろして言った。

 アハトは仲間の貴族とともに、城門に来たところだった。


「ごっ、ごめんなさい」

 ソクハメボンバが沈痛な面持ちで頭を下げる。

 アハトが侮蔑(ぶべつ)に満ちた目で舌打ちをする。

 そしてしばらくの後。

 俺は大げさに頭を下げて、ひざまずいてからアハトに言った。



「アハト様。本日はこのようなことになってしまい大変申し訳ございません。ですが、このテンショウ。せっかくのアハト様のお誘いを無駄にはしたくありません。ふたりの分まで働きますので、ぜひ、討伐は中止しないでいただけないでしょうか?」

 そう言って、もう一度頭を下げた。

 しばらくすると、アハトは舌打ちをしてから、


「3人分の仕事をしてもらうぞ」

 と、そう言い捨てて装甲幌馬車(ほろばしゃ)に行った。

 10分後、俺たちはデモニオンヒルを出発した。――



挿絵(By みてみん)



 その後、アハトの討伐隊は西へと進んだ。

 目標地点は、デモニオンヒルから二泊三日のところ、黒き沼。

 メンバーは、アハトとその仲間の貴族がふたり。

 それに従者が数人に、魔法使いの俺。

 そして討伐目標は、『カマレオネス・ベスティア』……透明のモンスターである。


 アハトは、貴賓(きひん)ボックスで仲間とずっと騒いでいた。

 俺は装甲ワゴンで、ひとり座っていた。

 まあ、これは俺の狙い通りである。

 俺はひとり装甲ワゴンで、復讐計画を念入りにおさらいしていた。

 そして、ひとりだからこそイメージトレーニングに集中することができた。



 それからの二泊三日は、よくあるイジメの話になるから簡潔に述べる。

 アハトのカタナ自慢、嘲笑(ちょうしょう)、嫌味、俺だけ粗末な食事、俺だけ粗末なテント、俺ひとりが夜を徹しての見張り等々……と、どこにでもある話、よくあるイジメの風景だ。アハトは、ズィーベンとフランツから言われたことなど忘れてる。俺とのわだかまりを解消する気などどこにもなかった。


 さて。

 三日目の朝、俺たちは目的地に到着した。

 そして装甲幌馬車を荒地の西端に停車した。

 そこから西に入ると黒き沼で、黒い霧が薄くかかっている。

 その手前を、俺はひとり歩かされていた。



「お~い、テンショウくぅ~ん? ちゃんと火炎放射するんだよお~!?」

 アハトが遠くの装甲幌馬車から、おどけて言う。

 いっせいに取り巻きの貴族が笑う。

 俺は作り笑いでかるく頭をさげて、言われた通りに炎を()き散らす。

 そうやってカマレオネス・ベスティアを探すのだ。


「お~い、テンショウくぅ~ん? 俺たちに炎を向けちゃ駄目だぞお~!?」

 そう言ってアハトは俺を指差した。

 それと同時に、杖が力を失った。

 そして俺の魔力が極限まで弱まった。


「ああ、ごめんごめん。ええっとどうするんだっけえ。早くしないと、テンショウくんがァ、モンスターにィ、やられちゃうよォォオオオん!?」

 そうアハトがおどけて言うと、取り巻きの貴族がいっせいに笑った。

 そのあまりもの幼稚(ようち)なふるまいに、俺は思わず(にら)みつけた。

 と。

 それと同時に。


 ズザッ!

 と、黒い霧からカマレオネス・ベスティアが現れた。

 カマレオネス・ベスティアは、俺の後ろからおおいかぶさるようにして飛び越え、前足で虎のようにしなやかに着地した。

 そして、じわりと背景ににじんで溶けこんだ。



「そこだッ!」

 と、慌ててアハトが指揮をする。

 貴族と従者がいっせいにクロスボウを撃つ。

 発射されたボルトは、先端が炸裂弾(さくれつだん)のようになっている。

 しばらく飛ぶとはじけて染料を撒き散らすのだ。


「ちょっと待てよ!」

 俺は、叫びながら横に飛び退いた。

 ボルトに殺傷力はないけれど、しかし、染料を浴びることになる。

 それに魔力を封じられたままである。



「ああん、悪い悪いねえ~ん」

 そう言ってアハトは、俺を指差した。

 俺は魔力が増幅されたのを確認すると、

 ボゥ!

 と、あたり一面を瞬間的に燃やした。


 ぴぎゃぁぁあああぁああぁあぁあああ!!!!


 カマレオネス・ベスティアが装甲幌馬車の左前方で身悶(みもだ)えた。

 そこにすかさず貴族たちが染料弾を撃ち込んだ。

 その結果、カマレオネス・ベスティアは不気味に黄色く染まった。

 まるで巨大なネコ科動物のような、そんな姿が(あら)わになった。

 で。

 それを確認した俺は。


「そろそろ死ね」

 と、ひとり(つぶや)いて貴族の体液を振動させた。

 それで貴族は爆発死亡した。



「なにィ!?」

 突然の意味不明な爆発。

 アハトたちが呆然(ぼうぜん)とするなか、俺は次々と従者を殺していった。

 あっという間だった。

 装甲幌馬車には貴族がひとりと、それにアハト、そしてカマレオネス・ベスティアが残った。


「おい! 助けろッ!!」

 貴族とアハトが悲鳴のような叫びを上げる。

 俺は、根性の悪い笑みをしてゆっくりと装甲幌馬車に向かう。

 その眼前でカマレオネス・ベスティアが、

 ズドンッ!

 と、装甲幌馬車に突進した。

 まるでバスのような装甲幌馬車に、タクシーのようなカマレオネス・ベスティアが突っ込んだ。蹂躙(じゅうりん)したのである。

 アハトと貴族は放り出され、尻もちをついた。


 ぴぎゃぁぁあああぁああぁあぁあああ!!!!


 カマレオネス・ベスティアが、貴族を見下ろし()いた。

 バキバキと幌馬車の破片を()(つぶ)しながら、ゆっくりと貴族に向かった。

 そして。

 前足でカマレオネス・ベスティアが貴族を押さえつけたところで。


「死ね」

 俺は魔法を撃った。

 それで、カマレオネス・ベスティアの頭部は吹き飛んだ。

 それだけではない。

 泣き笑いの顔で俺を見る貴族に、俺は魔法を打ち込んだ。

 貴族即死。


 このとき。

 俺の全身にどよめくような快感が走った。

 それは、人を殺したことによる震えだったのかもしれないし。

 計画がすべて思惑通りに進んだことの達成感からくるものだったのかもしれない。

 あるいは、これからアハトに復讐することを思っての武者震(むしゃぶる)いかもしれない。





「貴様ッ!? 貴様まさかッ!? 今、貴様が殺したのかァ~!?」

 アハトは、俺と貴族を交互に見て、悲鳴を上げた。

 アハトは慌ててカタナを拾った。

 立ち上がり、俺を(にら)みつけた。

 そしてあらためて俺に聞いた。


「今のは貴様がやったのか?」

「ああ」

 俺は応えた。

 アハトはさっと顔色を変えて、杖の力を奪った。

 俺は自身の魔力が極限まで下がるのを実感すると、にたあっと、ひどく根性の悪い笑みをした。

 あとすこし。

 あともうすこしだ。

 俺は、だらりと両手をさげて歩きはじめた。

 アハトに向かって、俺はゆっくりと歩いていった。

 するとアハトは怒り、激しく興奮した。


「殺してやるゥ!」

 アハトは、手に持ったカタナ『四番刀・忍刀』を大きく振りかぶった。


 よし!

 俺はニヤリと笑って、するするとアハトに向かった。

 まるで能の舞を踊るように、俺は腰を低く落とし、すり足で進んだ。

 そして振り下ろしたアハトのカタナを、俺は下からすくい上げるようにしてハネ飛ばした。下からカタナの柄頭(つかがしら)を叩いたのだ。

 すっぽ抜けたカタナは、俺の手にあった。

 アハトは、つんのめって無様な姿でよろめいた。


「貴様ァ!?」

 アハトが驚愕(きょうがく)の瞳で振りむいた。

 俺は無造作に彼の手を、

 びゅびゅ――っと斬った。


「ぎゃああぁあぁぁあああぁあぁああ!!!」

 それで、アハトの手首から先はなくなった。



「おい、アハト。おまえは穂村(ほむら)が好き……すなわち日本文化が好きなんだってな。だから教えておいてやる。今のは『無刀取(むとうど)り』といってな、柳生新陰流だか金春流だかの極意だ。滅多に見られないものだから感謝しろ」

「ぐッ! ぐあゥ!?」


「と、かっこつけてみたけれど。実は俺はそれほど強くはないんだよ。それが上手くいったのはな、おまえが素人だったのと、上段から大きく振り下ろしたのと、そして軽くて細い穂村のカタナで攻撃してきたからだ。アダマヒアのロングソードで刺突(しとつ)してきたら、俺はおまえに殺されていただろう」

「ぞっ、それがなんでッ!?」


「おまえが俺に向かって、カタナを上段から振り下ろしたのはな。この状況を俺が作ったからだ」

「だッ、だが……。貴様ごときにそのような技がァ」


「俺は、穂村の刀工の息子。刀鍛冶(かたなかじ)の息子だ。当然、幼いときからカタナには慣れ親しんでいる。ガキのころからカタナがオモチャで、遊び相手はカタナを依頼しに来た剣士だ。カタナを持った相手となら、いい勝負ができる。それが体に染みついている。体が覚えているんだよ」


「しかし、それでもォ」

 アハトはひざから崩れ落ち、苦悶(くもん)に満ちた瞳で俺を見上げた。

 俺は(あわ)れみに満ちた瞳で、その無様な姿を見下ろした。

 そして俺は、ひどく残酷でゲスな笑みをしてこう言った。



「帰るぞ。ほらっ、止血してやるから早くこい」



――・――・――・――・――・――・――

■チートな魔法使いである俺の復讐の記録■


 アハトにベタなイジメを受けた。

 →両手を切断してやった。


 ……次回は、復讐無双ふたり旅。アハト君のリアクションが今から楽しみです。




■まだ仕返しをしていない屈辱的な出来事■


 城塞都市からの使者・アンジェリーチカ第一王女に、まるで汚物でも見るような目で見られた。


 屈辱的な姿勢で、後ろから指をつっこまれた。


 とてつもない額の身請け金を、アンジェリーチカに肩代わりしてもらった。


 アハトに残飯を食べさせられた。


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