表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/91

私刑執行四ヶ月前・プロローグ

 ――物語の時点は、四ヶ月前にさかのぼる。



 (きり)のような雨がふりしきる朝、十七歳の誕生日だった。

 俺はカタナを打ち終え、鍛冶場(かじば)から小走りで家に帰った。

 扉を乱暴に開けて、なかを見る。

 まだ誰も起きていないことを知り、扉をそっと閉める。

 そして着物を脱ぎながら寝室に入ろうとしたところで、唐突に。

 バチン!

 と、まるで火花が散ったような音がして、なにかが()げたような臭いがした。


 それと同時に、俺は頭を抱え、その場に座り込んでしまった。

 激しい頭痛に襲われたからだ。

 わけの分からない知識や記憶が、どんどん頭に入ってきたからである。



「高校? 学校? 漫画、アニメ、ゲーム、テレビ、スマホ……なんだコレは!?」



 次々と意味不明な、しかも誰かの記憶が入ってくる。


「二十一世紀、日本、鳥取県、高校生、男子生徒、威世飼天翔(イセカイ・テンショウ)……」


 どんどん記憶が入ってくる。

 そして俺の記憶を圧迫する。

 威世飼天翔(イセカイ・テンショウ)という男の人格が入ってくる。

 俺の人格を圧迫し、上書きしようとする。

 とめどない知識や記憶、人格が、俺を作りかえていく。



 そしてその最中に、突然、体内から強烈なエネルギーが噴きだした。

 魔力がこみ上げてきた。


「まさかっ! まさかそんな!?」


 両手から噴きだした炎を見て、俺は(あわ)てふためいた。

 恐ろしい勢いで、いつまでも噴きあげる炎の柱。

 俺は言葉を失った。

 しかし、どうすることもできずにいた。

 俺は、押し寄せる記憶に身悶(みもだ)えながらも、ただうろたえた。

 と、そこに。

 父さんと母さんが、やってきた。

 ふたりとも真っ青な顔をしていた。



「あんた、まさか!?」

「テンショウ、おまえ……」

 ふたりは(おび)えるような(おそ)れるような、(あわ)れむような、そして(さげす)むような目で、俺を見た。

 後ずさりした。


「違うんだ、父さん母さん!!」

 と、俺は叫んだ。

 が。

 しかし、このときにはもう。

 俺は、俺が彼らの息子・テンショウなのか、日本の高校生・威世飼天翔(イセカイ・テンショウ)なのか、分からなくなっていた。

 記憶と人格が混じり合っていたからだ。



「違う、違うんだ!!」

 と、俺はすがるように叫んだ。

 その瞬間、強烈な痛みが俺を襲った。


「ぐあぁぁあああ!」

 俺は両肩を抱いたまま丸まった。

 強烈な記憶の侵入に、俺は痙攣(けいれん)した。

 口から泡を吹いた。

 そして、失神してしまった――のだと、思う。





 長い眠りから覚めた。

 俺は(しば)られていた。首輪をはめられていた。

 そして、牢に入れられていた。


「気がついたようじゃな」

 格子(こうし)の向こうから長老の声がした。

 顔をあげると、長老は慈愛に満ちた目を俺にむけた。

 そして言った。



「テンショウや。お前が魔力に目覚めたこと、魔法使いとなってしまったことは、まことに残念じゃ。だが、村の(おきて)には従わねばならぬ。王国の(おきて)には従わねばならぬのじゃ」

「………………」


「テンショウや。魔法使いとなった者は、今までと同じ暮らしをすることができぬ。城塞都市(じょうさいとし)に送られ、そのなかで一生過ごすことになる」

「……そんな!」

 と、ここで俺はようやく言葉を発した。

 しかし衝撃(しょうげき)のため、続く言葉が出なかった。

 そんな俺を笑顔で見て、長老は続けた。


「すでに連絡した。城塞都市から迎えが来る。一週間くらいかの」

 そう言い残して長老は去った。――




 その後、俺は牢で過ごした。

 (なわ)はすぐに解かれたが、しかし、首輪は付けられたままだった。

 この首輪は、魔力を(ふう)じるものである。

 ただし、封じるといってもゼロにするわけではない。

 99%オフといった感じで、魔力を限りなくゼロに近づけるものである。


 ――でも、それじゃあ封じたことにならないじゃないか。


 と思うのだけど、しかし、一般に魔法使いの魔力はとても少ないので、99%オフにすれば、たいていの魔法使いはそれで無力化できるという。

 だけど俺は例外だった。

 俺は、三つの首輪をはめられても、なおも指先から炎が出せた。



「ばっ、化け物っ」

 そんな俺を見て、長老は腰を抜かした。

 俺は(あわ)てて炎を消した。

 長老は、つばを呑みこむようにして大きく頷いた。

 そして、よつんばいに()い出して、牢から出ていった。

 俺はその背中を見て、自嘲気味(じちょうぎみ)に笑った。


 ちなみに。

 俺は、この頃には完全に、二十一世紀の日本の高校生・威世飼天翔(イセカイ・テンショウ)になっていた。

 記憶と知識が混ざりあい、人格も彼のものがベースとなっていた。



 だからこの状況は、今の俺からしてみれば――。

 ごく平凡な高校生活を送っていたら、どういうわけか『剣と魔法のファンタジー世界』の辺境の村、そこの刀工の息子に転生していた――ことになる。


 まあ、まっ白な光に貫かれたことは覚えているから、俺はそれで死んだのだと思うのだけど、とにかく二十一世紀に死んだ俺は、このテンショウという男に転生し、そして十七歳の誕生日に、前世の記憶を取り戻したわけだ。



「で、()むべき力……魔力に目覚め、牢に閉じ込められたわけか」

 そう呟いて、俺は自嘲気味(じちょうぎみ)に笑った。


「しかも、どうやらその魔力はチート的な強さのようだな」

 俺はひとり不敵な笑みをした。


 俺は、チート的な魔力を手にしたことによって高揚(こうよう)し。

 十七歳を二度も経験したことによって尊大(そんだい)になっていた。



 ようするに、俺は、自信満々の嫌なヤツになっていた。

 しかも、↑↑(アゲアゲ)な感じの全能感と優越感に満ちた十七歳になっていた。


 だから俺は、牢屋に(とら)われたこの状況を。

 どうしたものか――と、思う一方で、

 どうとでもなる――と、思ってもいた。

 チート的な魔力に裏打ちされた自信が、俺の心に、ゆとりをもたらしていた。

 で。

「まあ、しばらく成り行きにまかせてみるか」

 と、思い上がった言葉を(つぶや)きながら、俺は牢屋で過ごしたのだ。――





 さらに数日が過ぎた。

 早朝、城塞都市からの使者がやってきた。

 魔法使いとなった俺を、護送するためだった。


「あなたが魔法使いね」

 そう言って現れた使者を見て、俺は思わずつばを呑みこんだ。

 使者は女だった。

 金髪のポニーテール、まっ白な肌に青い瞳の十代後半の女だった。

 しかも、まるでモデルのような、長身のスレンダーな美女だった。

 それなのにも関わらず、美女は迫力のある胸をしていた。



 パーフェクトだ。……と、俺は心中に舌をまいた。

 口をぽかんと開けたままだった。

 そんな俺を見て、美女は侮蔑(ぶべつ)に満ちた目をした。

 まるで汚物でも見るような目で、俺を見下ろした。

 しかし美女は、すぐに笑顔を作った。

 そして釘をさした。


「私は城塞都市で都市会長を務めているアンジェリーチカ。アダマヒア王国の第一王女でもあるのよ」


 それから俺の首輪を見て、冷然と言った。



「これから、あなたを城塞都市まで護送するのだけれど――。そのまえに村の代表者、そう、そこの老人。あなた、この魔法使いの首輪は、いったいどういうことですか? 魔法使いは絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)です、手厚く保護なさい」



――・――・――・――・――・――・――

■チートな魔法使いである俺の復讐の記録■


 城塞都市からの使者・アンジェリーチカ第一王女に、まるで汚物でも見るような目で見られた。



 ……このときのことを俺は忘れない。アンジェリーチカの眼差しを、俺は一生忘れないだろう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ