表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/91

その6

 その後、俺は依頼状のなかから適当な仕事を選んだ。

 高額な依頼ではなかったが、オイシイ仕事までのつなぎだと思って()けることにした。

 そして帰り際に、メチャシコを食事に誘ってみた。



 メチャシコは、明るくて社交的な娘だ。

 それに俺と彼女は、おそらくは同い年である。

 先日の仕事で親しくもなった。

 だから俺は、友達になりたくて彼女を誘った。


 ただし。

 こんなことを言っては、メチャシコには申し訳ないのだけれども――。


 実は、久しぶりにアンジェリーチカを見た俺は、女の子に声をかけたり誘ったりといったことに、まるで抵抗がなくなっていたのだ。

 アンジェリーチカに比べれば、どんな子もかすんで見えた。

 だから俺は、メチャシコ――魔法使い居住区のなかでは飛び抜けて可愛い子だ――に対しても、「別に嫌われてもかまわないや」といった超テキトーで↑↑(アゲアゲ)な気分で声をかけることができたのだ。



「ええー!?」

 メチャシコは、大きく目を見開いて口をぽっかり開けた。

 その口を手で隠し、驚きの声をあげた。

 斡旋所(あっせんじょ)にいた何人かの魔法使いがこっちを見た。

 メチャシコは、(あわ)てて受付机に()せると、ちらっと俺を見上げた。

 ちょこんと可愛らしく舌を出した。

 そして満面の笑みで言った。

「明日の夕食なら()いですよ」





 翌日の夕方。

 俺は斡旋所(あっせんじょ)の裏口で、メチャシコを待った。

 そこから出てきた彼女を、魔法使い居住区のなかにある飲食店に誘った。


 俺たちの住むデモニオンヒルでは、食事は教会で無料で提供されている。

 しかし、そこで提供されるものよりもグレードの高いものを食べたいときは、飲食店で食べることができた。もちろん教会とは違って、お金を払って食事をするわけだけど、それでなかなか人気があった。



「ありがとうございます」

 メチャシコは、席に付くと満面の笑みをした。

「あっ、ああ。どうぞ」

 俺は彼女の笑顔を見て、

 おごってもらう気満々(まんまん)だなあ――と、こっそり苦笑いした。

 メニューを渡しながら、

 でも食事に誘われたらそう思うのも当たり前だよな――とも思った。

 だから俺は微笑んで、


「好きなの頼んでよ」

 と言った。

 するとメチャシコは、


「じゃあ、お言葉に甘えてえ~」

 と言って、メニューをじっと見た。

 そして、一番高い料理と二番目に高い料理を頼んだ。

 俺は失笑して、一番高いサラダと、飲み放題を二人分頼んだ。

 今日は散財するぞと、ヤケになったのだ。――



 しばらくの後。

 俺とメチャシコは、上機嫌になっていた。

 食べきれない量の料理と、いろんな飲み物で、しあわせになっていた。

 俺とメチャシコは未成年だけれども、ちょっぴりお酒も飲んでいた。


 ちなみに。

 ここデモニオンヒルでは、未成年の飲酒は禁じられていない。

 それに加えて、保存が()くという理由で、水よりもアルコール飲料 (ぬるいビールのようなもの)のほうが安い。

 だから、デモニオンヒルでは――アンジェリーチカのような大金持ちは別として――子供がお酒を飲むことは、それほど珍しいことではなかった。



「テンショウさんは、もう慣れましたあ?」

「えっ、うん。おかげさまで」


「ほんとですかあ?」

 メチャシコが俺の顔を(のぞ)きこむ。


「うん。ほんと助かってる」

 俺は本心からそう言った。

 すると、メチャシコは屈託(くったく)のない笑みをした。

 えへへと、可愛らしく笑った。

 だから、俺は思いきって本音を打ち明けた。


 友達が欲しいんだ――と。

 友達になってくれませんか――と。


 するとメチャシコは、きょとんとした顔をした。

 しばらくの後、満面の笑みで手を差しだした。

 そして明るくハッキリとした声で言った。



「じゃあ、今月のお友だち料、金貨三枚ね!」



 あまりにも、あっけらかんとして、しかも「そんなの常識ですよ」って感じで言われたので、俺は慣れない酒に酔っぱらったせいもあって、


「はいっ!」

 と言って、金貨を渡した。

 するとメチャシコは、本当に(うれ)しそうに両手を胸の前で合わせた。

 そして言った。

「ありがとうございます!」


 その後は豪勢な食事会となった。

 俺たちは、たっぷり楽しんだのち店を出た。

 途中まで一緒に帰り、そして別れた後も俺は上機嫌だった。

 家に着いて、ベッドに()()したときにようやく、俺はお友だち料を払ったことを思い出した。

 お友だち料を要求したメチャシコを思い出した。

 お友だちになってね――と言って、お金を渡したことを思い出した。

 とても嫌な気分だった。

 俺は最悪な気分のまま眠りについた。――





 翌日、斡旋所(あっせんじょ)に行くと、メチャシコが満面の笑みで手を振った。

 そして、お友だち料のことには一切ふれずに、午後の予定を聞いてきた。

 特に予定はないと言うと、メチャシコは、教会に行こうと言った。

 そこで食事をしながらお話をしようと、彼女は言った。

 で。

 俺が(うなず)くと、この日から俺たちは一緒に食事をするようになった。

 友達のように(つる)むようになったのである。



 その後、俺たちはどんどん仲良くなった。

 俺は、お友だち料のことがずっと胸につかえていたが、しかし、なかなか言えないでいた。

 メチャシコは、お友だち料のことには一切ふれなかった。

 しかし、明らかに俺をヒイキするようになった。

 斡旋所(あっせんじょ)の仕事のうち、オイシイ仕事をこっそり俺にまわしてくれた。

 報酬(ほうしゅう)金額の交渉をしてくれることもあった。

 金払いのいい依頼人、ケチな依頼人といった情報も教えてくれる。

 それになにより、笑顔で一緒にいてくれた。


 俺は、そんなメチャシコのことを、ありがたく思うと同時に。

 ゲンキンな女だな――と、すこし(さげす)んだ目で見ていた。

 世が世なら援助交際(エンコー)しているな――と、密かに見下(みくだ)していた。

 ただ。

 そんなメチャシコに俺が救われているのは疑いようのない事実だったし、それになにより、そんな(いや)しいメチャシコと一緒にいることに、俺が居心地の()さを感じるのもまた事実だった。



「どうしたんですかあ?」

「えっ? ああ、うん、ごめん」

「ダメですよお、ひとりで抱え込んじゃあ? なんでも言うんですよお?」

「あ、ああ」

 俺とメチャシコは、教会でスープをつついていた。

 パンをひたして食べながら、内緒話(ないしょばなし)をしていた。


「じゃあ、明日の午後、料理店に行ってくださいね?」

「あ、ああ」

 メチャシコは、たまに斡旋所(あっせんじょ)を通さない仕事を俺に持ってきた。

 これは重大なルール違反だったが、しかし、斡旋所を通さない金額はひどく魅力的だった。

 まあ、メチャシコは、俺に持ってくる前に、たっぷりと仲介(ちゅうかい)手数料を取っているとは思うのだけども。

 しかし、それでも魅力的な話には違いなかった。

 あらがえなかった。



「じゃあ、終わったら斡旋所ではなく、ここにお給金を持ってきてくださいね」

「……分かった」

 俺は、苛立(いらだ)ちながらも頷いた。

 そして、このやり場のない苛立ちを、メチャシコにぶつけた。


 何食わぬ顔をして、こっそり魔法の練習をした。

 彼女のぶかぶかでざらざらなロングスカート。そのなかを俺は密かにイメージした。そして魔法で振動させた。身体が内側から温かくなるような――そんな魔法の使いかたを、彼女を実験台にして練習した。



 俺はメチャシコの悪事に荷担(かたん)しながら、その代償(だいしょう)として彼女をこの人体実験の被験者(ひけんしゃ)にした。もちろん、メチャシコにはバレないようにしていたが、しかし、彼女が人体実験の被験者であることに変わりはない。


 事実、魔法の当たりどころ(・・・・・・)の悪かったときなど、メチャシコは、真っ青な顔をしてお手洗いにかけこんだ。

 急に瞳をうるませ、腰をくねらせ、俺の手をぎゅっと握ったまま、汗をびっしょりかくこともあった。

 突然、甘ったるい声をあげることもあった。



 そんなメチャシコに心が痛むこともあったが、しかし俺は、これは不正を働くメチャシコへの(ばつ)のつもりだった。そう思うことで俺は思う存分、魔法の練習ができた。

 まあ、よく考えれば――不正を働いているのは俺もそうだし、それに俺は罰を与える立場にないから――これは利己的(りこてき)屁理屈(ヘリクツ)に間違いないのだけれども、しかしこのときの俺は、すでに冷静な判断力を失っていた。

 不正と人体実験を無理に結びつけようとしたのは、このなかば狂った思考であった。

 そうでも思わないと、()えられなかった。



 俺は下劣(ゲレツ)ではないぞと、思いたかったのである。――



――・――・――・――・――・――・――

■チートな魔法使いである俺の復讐の記録■


 メチャシコの悪事に荷担させられた (荷担した)。

 →人体実験の被験者にしてやった。



 ……俺はチートな魔法使いでありながら、実際には、尿意(にょうい)をもよおさせたり、睾丸(こうがん)を温めたりといった方面にしか魔力を使っていない。実は密かに、このことを気にしているのだ。それもあっての人体実験なのであった。




■まだ仕返しをしていない屈辱的な出来事■


 城塞都市からの使者・アンジェリーチカ第一王女に、まるで汚物でも見るような目で見られた。


 屈辱的な姿勢で、後ろから指をつっこまれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ