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女の子達に囲まれ、やはり俺はモテモテだった。

『うわっ!! キモッ!!』


 頭の中であの美少女中学生のセリフが何度もリピートされる。


 自分が無意識に何気なく放った言葉は時として相手を大いに傷つけることがある。しかし逆の立場になると一転して、何気ない些細な言葉でもひどく傷つけられる。おそらく誰にでも経験があるだろう。


 彼女はまだ中学生だ。

 きっと素直に、無邪気に、そして本心であの言葉を放ったのだろう。


 だが俺はあの言葉によってショックを受けていた。

 ゲーム世界の住人(NPC)は、たとえブサイクなキャラクターであろうが、人とすら言い難いエイ○アンのような容姿であろうが、見た目だけでは人を軽蔑したりはしない。ゲームでは…。


 つまり奈々ちゃんのあの言葉と態度は、精神的に未熟なただの中学生の罵倒というだけの話しではなく、この世界がゲームの世界とは異なるリアルな世界であるという現実を俺に如実に突きつけた事になる。

 そしてその事は、俺が長い間プレイし続けた『The Mimes』のゲーム知識が半ば通用しない世界であることを意味した。


 そもそも、リアルの俺ならあの程度の罵倒は


「ありがとうございますっ!!」


 と、むしろ喜んで服を脱ぎ出したくなるぐらいだ。女子中学生に罵倒されるなんて夢のようだ! と。


 町を見まわしたところ、ゲームに登場した家の外壁や塀、木々などは、ゲームよりも遥かにリアルにはなったものの、雰囲気はゲームの頃と変わらない。

 春の穏やかな日差しも、さわやかな風の匂いも、そして体じゅうから噴き出る脂汗に、湿ったTシャツ、ピチピチのジーンズも、夢というにはあまりにリアルだ。

 俺はハーレムプレイは大好きだがこんなキモオタプレイなんて大嫌なのに…。

 これが夢なら、もうそろそろ目醒めてもいい頃合いと思う…。っていうか目覚めてっ!


 チラッっとお願いするかのように空を見上げた…。


 しかし、鮮やかな青色の春の空は雲がゆっくりと形を変えながら流れていくだけだった。



──今は15時30分ぐらいだろうか。

色々考えながら歩いていたら、俺は町の中心の公園にいた。


 見たこともない知らないキャラクター達が、ぺちゃくちゃと楽しそうに話している。

 ゲームスタート直後だと、製作者があらかじめ用意した住人キャラが多数登場するが、公園を見まわしたところ知っているキャラは1人も見かけない。

 この様子では、有名なキャラ「モチマー」もいないだろう。

「モチマー」とは、他のゲームで例えるなら、世界一有名な土管が大好きな配管工のヒゲ兄弟の「マ○オ」みたいなもので、ただのおっさんキャラだ。

 まぁ、「モチマー」がいたところで、俺のハーレム計画には何の役にも立たないが、見慣れた住人キャラが1人でも町にいたら、少しは孤独さを紛らわせられるかと思った。


「ふうっ…」


 俺は、だらしない贅肉を体ごとベンチに置いた。

 ふとポケットに手を入れると、カードらしきものが入っていた。


「ん? なにこれ?」


 カードは金色に輝く、クレジットカードほどの大きさで、コンピュータの基盤のような無数の線が刻み込まれている。カードの上部には『Mime Card』と薄く文字が書かれている。


「なんだこりゃ? 見たこともないな…」


 何となく、カードをパソコンのマスウを持つように手に取り、人差し指でツンッとクリックするかのようつついてみた。


ブォン!


 効果音と共にコンピュータの画面のようなものが宙に浮きあがった。画面の大きさは小型のタブレットPC程度の画面の大きさだ。そしてその画面には見慣れた画面が表示されていた。


■九条 元康 20歳 成人♂ 146,800円

──────────────────────────────

特質:【女好き】【カウチポテト】【ピザ好き】【ロリコン】 $b△%\b

──────────────────────────────

体型:230%

$★b§%\b


「これは、俺のキャラのデータか…ってか、【ピザ】と【カウチポテト】持ちで体型が超肥満状態って最悪じゃねーか!!最低のキモオタデブとかマジでやめてくれよ!!しかも、【ロリコン】ってなんだよっ! ゲームでこんなのは無かったぞ!! 」


【カウチポテト】

 カウチとはソファーのことだ。

 ソファーに座り込んだ(寝そべった)まま動かず、主にテレビを見てだらだらと生活する人を「ソファーの上に転がっているジャガイモ」と揶揄したアメリカの俗語的表現だ。

 要はダメ人間だ。

 この特質があると、とにかく怠けたくなり、極度に運動系のパラメータが上がりにくくなる。

 つまり…スマートボディのイケメンに戻るのは至難の業だということになる。



【ピザ好き】

 これは、そのまんまだ。

 とにかくピザが大好きで、ピザを見れば満腹状態であろうが食べずにはいられなくなる。

 このゲームでの太る仕組みは単純だ。満腹以上に食べることで太ってしまう。

 ピザは空腹時には優秀な食べ物であっという間に満腹になる。しかし、満腹時にピザなんて食べてしまうと、あっという間に脂肪の鎧を纏うことになる。

 ピザ好きは満腹なんかお構いなしにピザを食べつづける。目の前から、いや、地球上からピザが消滅するまで…。


体型:230%

 体型は100%がごく平均的な体型だということを意味する。

つまり230%だと平均的な人より2.3倍デブだということを意味する。平均的な体重が60kgだと仮定した場合、俺の今の体重は138kgだということになる。

 ちなみに、ゲームでは200%が上限だったはずだが……。


「これだけカンスト(上限値)突き抜けてるのかよ…」


 ラノベにありがちなカンストオーバーの最強チート級のステータスは、俺の場合、よりにもよって体型に当てられたようだ…。


 とにかくロクでもないマイナス特性ばかりだ。これではちょっとした油断ですぐにでも太ってしまう。縛りプレイを嬉々としてやるようなドMか変態以外、だれも本気でこのキャラで最強を目指そうとはしないだろう。


 その他のパラメーターは文字が霞んでいたりバグッていたりして、何が書いてあるか分らない…

 それとゲームと違って空腹値などのパラメータは完全に確認できないようだ。これではどれぐらいで満腹状態なのかさっぱり分らない…。体感と経験で感じ取るしかないようだ。


─146,800円

お金の欄に目が行った。


「お、金は…すこしならあるな。」


 金額が中途半端なのは、おそらく一番最初に『神様』の手によってトイレと鏡を買わされたからだろう。

 この金額なら小さな家を建てて冷蔵庫とキッチン、ベッド、風呂といった最低クラスの生活必需品を一通り揃えても、何日か生活するには十分な金額が残る。

 もっとも、自力で買えた場合だが…。


 俺はパラメーターを確認すると、すぐさまカードをポケットにしまった。


「これで何か買えるかもしれないな。」


俺は立ち上がり、近くのアイスクリーム屋の露店に向かった。


「いらっしゃい。1個でいいかい?」

「は、はい、お、おねがいします…ぶひっ!」


 さっきからどうもおかしい。

 独り言なら普通に話せる。だが、他の人と会話をすると、急にまともに話せなくなってしまうようだ。

 「話術」のスキルが0だからだろうか…?


「はい、どうぞ!」

「あ、あ、ありが、とう…ふひっ!」


 ともかく、俺はカードを取り出しパラメータを確認した。


─146,700円


 100円減っていた。

 予想通りアイスクリームを買ったことにより、残高が自動で減っていた。

これはリアル世界の買い物より便利だ。



 フヒッ、フヒッと豚のような声を出しながらアイスを食べ終わると、俺は家の事を考え始めた。もしかしたらこのカードを使えば家が建てられるかもしれない。もし家が建てられればしめたものだ。

 家を自分で建てる事ができたら、自分で料理ができるようになる。風呂にも入れるようになるから清潔さも保てる。運動器具を買えば痩せられるし、本棚を買えば各種技術本を読むことが出来る。ベッドがあれば睡眠不足で斃れる心配もなくなる。

 家さえ自力で建てることが出来たら、この最低の状況からはいくらでも挽回可能だ。


 だが、何も起こらない事も考えておいた方がいいだろう。

 俺はすぐさま食品店に行った。さっきのアイスクリーム以外に朝から何も食べていないので、食べ物の買い出しをするためだ。


 まず、冷蔵庫が無いので食料の買い置きはできない。

 俺はいますぐ食べるサラダと夜に食べるお茶とおにぎりを何個か買って店を出た。


「当分はサラダだな。空腹がつらいが、サラダはわずかに痩せることができる。」


 とぼとぼと重い足取り食料品店を出た俺の周りに、突然人だかりが押し寄せた。


「キャー!!!出てきたわっ!!」

「カッコイイー!!ねぇこっち向いて!!」

「うそぉ!? うわぁ…!!」


 人だかりはとても可愛らしい若い女の子達だ。どうやら俺を見て興奮しているようだ。


「いやぁ、照れちゃうなぁ…」


 なんだ。やはり俺はゲームと同じでモテまくりじゃないか。さっきの女子中学生だけはおそらくバグだったのだろう。

 リアルでも高校の頃、こんなに人数は多くないものの、こんな風に女の子達に慕われ囲まれたこともある。この状況ってとても嬉しいが、周りの視線が痛くてこっぱずかしいんだよな。

 そしてゲームでハーレムプレイをしていたときは、町に出たらいつもこんな感じだ。町中の女の子達がピ○ミンのように付きまとい、買い物するのも一苦労だった。

 しかも隙あらば女の子が入れ替わり立ち替わり抱きついたりキスしたりしてくる。仕方がないので、何日もかけて1人1人「お持ち帰り」し、全員相手してあげた。

 いつの間にか『【実績】1人で1000人の異性とイチャイチャした。』も手に入れていたっけ…。


 そう懐かしんでニヤニヤしながら店の前で突っ立てると、目の前の女の子達の表情が、どんどん般若のような不快な表情に変化した。


「そこのデブ邪魔だよ!」

「いつまで突っ立ってんだよピザ野郎、道開けろよ!」

「マジきもいから、あっちいけよ!豚がっ!」


 …えっ!?


「はやく消えろっつってんだろ!童貞!」

「ねー、誰かゴミ収集車呼んできてくれない?粗大ごみが邪魔なんだけどー」


 ひ、ひどい…


「まぁまぁ皆さん、落ち着いてください。」


 俺の後ろから声が聞こえた。


「キャー!ヒカル君が喋ったー!!」

「カッコイイー!! 抱いてっ!」

「姉小路くん超かわいいーっ!」


 後ろを振り返ると、朝、隣の豪邸に入って行った、あのイケメンが野菜や果物が入った紙袋を抱えて立っていた。太ましい体の俺が店の出口のど真ん中で突っ立っていたせいで、店の外に出れなかったようだ。


「あ、す、す、すいません…ふひっ!」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。私の方こそ不快な思いをさせてしまいました。」


 俺はそそくさと立ち退き道をあけた。


「みなさん、私に会いに来てくれるのは嬉しいですが、他の方に迷惑をかけないでください。」

「えー、でもアイツずっとヒカル君の邪魔してたじゃん。」

「いえいえ、どうか皆さん他の方にご迷惑をかけないようお願いします。」

『はーい!』


 女の子達は訓練された軍隊のように一斉に媚びたような可愛い返事した。イケメンは女の子達をたしなめると、紙袋を抱えたまま俺の方へやってきた。


「今朝、隣の家…というか空地に居た方ですよね?」

「ふ、ふひっ。」


 …どうがんばっても「はい」という返事がまともに言えない…。


「今日は大変失礼しました。後日お詫びをさせてください。あなたの隣の家、あれは私の別荘でして…。よければいつでも訪ねてきてください。

あぁ、私は『姉小路ひかる』と申します。」


 ─あの豪邸、自宅じゃなくて別荘かよっ!クソっ! みじめだ…。この差は一体なんなんだ…!

 だがここは抑えて紳士的に対応しなくてはな…。


(はい、では後日、ご迷惑出なければお伺い致します。)

「わ、わかった。ご、今度、出なかったら、イカせてくださいっ! ふひっ!」


 なんなんだよこれはっ!!これじゃまるで変態じゃねーか!


「あ…、え、ええ…。それでは私は失礼します。」


 当然だがイケメンのヒカル君にもドン引きされた…。


 ヒカル君はキラキラとイケメン特有のキラキラエフェクトを出しながら、女の子達を引き連れてどっかへ行ってしまった…。


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