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超イケメンの俺は『神様』に牙をむくことにした。

 さわやかなイケメンが豪邸の中に入ってからしばらく経った。


「くそムカつく野郎だったな。」


 今のところ、相手には一切の非はない。だが、かたや豪邸、かたや公開羞恥トイレと鏡。この状況で嫉妬せずにはいられなかった。


 それから色々と試行錯誤したが、やはり俺の土地には何も建たないらしい。



 俺はかつて、ゲームでキモオタのネタキャラを作って、家を立てずに乞食プレイを楽しんだ事がある。

 さすがに何もなしは可哀そうだったので、お情けで食事が取り出せる冷蔵庫とベッドを野外に用意したが、その後は一切介入せずに、ひたすらキモオタキャラの生活ぶりを観察するだけのプレイしていた。


 このゲームは自分でキャラに行動を指示しなければ、コンピュータのAI(人工知能)が状況に応じてキャラクターを自動操作する。

 おなかがすいたら勝手にご飯を作り始めたり、眠たくなったらベッドに行って寝たりといった感じだ。

 AIはあまり賢くないので、AIに操作されたキャラは不可解な行動ばかりする。

 例えば、「疲労」がMAXになるまでひたすら虫を追いかけ回したり、ベッドの上で大人げなくぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいだり等、とにかくリアル世界じゃやらないような意味不明な事を全力でやる。

 こういった不可解な行動をするキャラを、ただただ見て楽しむのも『The Mimes』の遊びの一つだ。

 そしてAIが操作するキャラは、自分の意思で家具や服を買ったり、家を建てたりはできない。家を設計したり、部屋の内装をデザインして楽しめるのはプレイヤーだけの特権だ。

 結局、キモオタキャラは色々がんろうとはしてたようだが、仕事にすらありつけず、最後は餓死してしまったが…。


 そこでピンときた。

 もしかしたらこの世界の俺は、さっきのキモオタキャラと同様のただの1人の「Mime」でしかなく、『神様』のような立場の他の誰かが、この世界のプレイヤーとして遊んでいて、俺はそのプレイヤーによって作られたネタキャラとして遊ばれているのではないかと…。

 かつて俺が観察しながら遊んだあのキモオタキャラのように…。


「まさか、な…」


 だが、ゲームのアホなAI操作のキャラとは違い、俺はこのゲームの廃人プレイヤーだ。このゲーム知識なら誰にも負けない。どんな逆境だろうが、いくらでも打開できるはずだ。

 この不条理な現実をあらゆる手段で打開し、徹底的にこの世界のプレイヤーこと『神様』に反逆してやる!と、俺は熱く、熱く、燃え上るように心に誓った。


 それはともかく現状について考えなくてはならない。俺は熱くなった心を冷まし、冷静になって現状の分析をしようと思った。


 まず、隣のイケメンの豪邸だ。

 ゲームの場合あんな豪邸を建てたらあっという間に生活費が無くなる。なぜなら、豪華な建物や家具が多いほど「税金」が高くなるからだ。

 あれだけの豪邸なら、税金の支払いだけでも相当大変なはずだ。となると生活資金はほぼ0円と見ていい。

 税金は4日おきに支払わなくてはならない。いくら仕事で稼いでもあの豪邸では1人じゃ税金を支払えなくなる。支払えない税金は借金として扱われる。

 借金を負い、返済が滞ると「回収業者」がやってきて、借金分の家具を根こそぎ奪っていく。生活に必要なベッドや風呂やトイレ、電話やパソコンなど、金になるものは何もかも奪われるだろう。

 家具が無く、金もなければ、食料すら買う事が出来なくなる。食料を貯蓄していた冷蔵庫も奪われてしまっている状況なので食料の備蓄は0だ。

 この時点でゲームオーバーはほぼ確定だ。こうなってしまったら豪邸を売り払ってこの土地から去るか、腹をすかせて苦しみながら死ぬか、飢え死にする前に金持ちのキャラと結婚して逆タマを狙うしかない。


 また、働いて稼いだ金は強制的に全額借金返済に当てられるので、借金返済が完了するまで、お金は決して手元には残らない。

 言うまでも無く、銀行もなければ、生活保護制度も存在しない。

 だから豪邸なんかで生活する場合は、高額収入の職業に就くか、一家、あるいは仲の良い住人達と共同生活して共稼ぎをするしかない。


 つまり要約すると、ゲームでは自分の収入にあった家で生活をしないと税金でたちまち破たんするのだ。


──だが例外がある。

 もし、あのイケメンに「チートコード」が使用されていれば、お金には困らないだろう。

 チートコードというのは、一言で言ってしまえば裏技みたいなものだ。

 キーボードの特別な組み合わせのキーを同時押しすれば、見慣れない文字入力欄が出てくる。そこにパスワードのような特定のコードを入力すると、いきなり大金持ちになれたり、スキルをMAXにできたりと、なんでも思い通り、自由自在の一発大逆転の状況を作れる。

 大金持ちになるコード、異性をメロメロにするコード、全裸にするコード、住人の頭を動物のアルカパにするコードなど、コードによって効果は異なる。

 恐ろしい事に、大人気たった少年マンガの「即死ノート」のような、キャラを即死させるコードも存在する。


 ゲームでチートコードを使いすぎると、ゲームそのものが面白くなくなるので俺はあまり使わなかったが、ハーレムプレイをしていたときに、これらのチートコードを何度か使った事がある。



 色々と考えていると、またしても気なることを思い出した。

最初の地獄のような苦しみの「便意」。


 あれはチートコードによって、俺の便意のパラメータが強制的に最低値にされたのだろうか…?

 ゲーム開始早々、便意のパラメータがいきなり0になる事は普通では考えられない。


 『神様』の存在疑惑がますます深くなった。


「だとすると、クソッ! あの美少女の前での公開トイレショーは仕組まれたものだったのかよ!」


 しかしここで何の力もないデブがいくら『神様』を恨んだところで、この現実は変わらない。

 しかしいつか、もし復讐する機会できたら、俺をこんなひどい世界に落とし込んだ『神様』に相応の代償を必ず支払ってもらうつもりだ!


 それはともかく、このゲームは金がモノをいう。まずは仕事を探さないと…。

 俺は美少女の配達員が地面に置いて行った新聞に目を通した。



「サッカー選手」「軍事」「家庭教師」「医療」「工場」



 ここに書かれているのは全て職業カテゴリだ。

例えば、「軍事」の場合は軍事関係のお仕事といった意味だ。

最初は二等兵で基礎訓練、一等兵で実戦訓練……大佐で部隊の指揮、元帥で全軍の指揮、という具合で「軍事」カテゴリと言っても、出世する毎に仕事内容は変わる。


 さて、俺がまずは目に付いたのは「医療」カテゴリだ。

 医療カテゴリの最初に就く仕事は、確か「介護職員見習い」だったか…?「疲労度」が上がりやすいが、特別なスキルがなくても普通に働ける入門向けの仕事だ。


 俺はリアルでも医師関係の資格なんてもってない。というか、雑学ならそれなりにあるが、特別な資格や技能はリアルでも何も持ってはいない。

 俺にとっては現実の資格よりも『The Mimes』こそが人生だ。思い返せば、リアルで友達の女の子達からは「残念なイケメン」評された事が、今さらだが少し分った気がする…。


 ともあれ、真面目に働けば評価されて出世する。出世したら高収入の「大病院の医院長」にもなれる。そうなれば、仕事中に美人の看護婦さんとお医者さんごっことかして、にゃんにゃんウフフなプレイを楽しむのもありだ。ふひひひひ……。


「激務だが医療ルートは悪くないな。」


俺は、この医療系の仕事を頑張ろうと決意した。



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