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まずはその青春をぶち殺す。

 

「……すんません」


帰りの HR終了後、俺は数学担当教諭である逢坂に呼び出されていた。理由は数学の小テスト。自信はあったはずなんだが…。


「初めから謝るなよ…。あのなぁ、夜空。俺は、今回のテストの目標点数何点と言った?」


俺は昨日、逢坂が授業で言っていた事を懸命に思い出そうとする。


「はぁ…。20点くらいですかね」


「ハードル低過ぎんだろ…。しかもお前の場合、そのハードルでも高いじゃないか…」


逢坂が俺に見せたのは十六点の答案用紙。ぷぷっ。誰だよ、こんな低い点数出したの…。あっ、俺じゃねぇか。


「今回は自信あったんですけどね」


「その自信はどっから来るんだよ…」


「北の国からです」


「うるせぇ、ぶっ飛ばすぞ?」


理不尽過ぎます。どれくらいかというと、心霊スポットに行って、悪い事したのはBさん一人だけなのに皆が霊に呪われちゃうくらいに理不尽。


「…お前さぁ、数学以外の教科全て完璧に近いほど出来てるのに、何で数学だけなの?何で俺の教科だけなの?」


目が怖い目が怖い!!ホラー映画のリアルな目になってるー!軽くトラウマになる!


「…すんません」


どんなことでも、とりあえずは謝る。人生を賢く生きる術である。ソースは俺の前世。覚えてないが、妹に「謝るの上手いね」って言われたから、たぶん前世は社畜か平社員だ。


「……次、二十点越えなかったら、あれな。リアクション芸人がよくやる、ザリガニを鼻に挟ませるやつ」


「勉学関係ねぇ…」


俺は出川さんかよ。あそこまで元気な体してないから。もやしっ子だから。貧弱ゥ!だから。


「とりあえず、そのくらいのペナルティを与えると思えよ?」


俺は無言で頷き、職員室を後にしようとした直前、また声が掛かった。


「そういや、これと他に話があるから。部室で待ってろ」


軽く会釈して、今度こそ職員室を出る。

俺が向かう場所が決定した。西館、部室。

まぁ、最初から行くつもりだったけど。



※※※



俺が所属している部活「文芸部」は、部員が俺一人である。なので、どんなものでも持ち込んでいいと俺が決めた。


まぁ、そんなこと言っても、漫画やラノベの世界じゃないので持って来れる物は限られている。俺が家から持って来たのは、座布団と給水ポットと読書のための本くらいだ。


俺は、入部した当時からあった本棚から、日本文学を一つ取り出し読み始める。俺以外に人はいないので、周りには静寂が満ち、俺一人の世界へと変わっていく。


この時間こそ、唯一俺のプライベートな時間だ。自分の家の部屋は姉とシェアだし、家族が俺以外全員女で気を遣うし。親父は単身赴任で、福岡に逃げやがった。


夕暮れの光を背中に浴び、静寂の空間で、一人ひたすら本を読み続ける。数少ない青春の時間を読書で削って行く。クラスの奴らみたいな青春は絶対に送らない。夏に海や川に行って泳ぐ?なら、ルールくらいちゃんと守って泳げ。冬に雪合戦をする?雪って、意外に汚いぞ。そんな青春を送るくらいならば、この部室で読者する方がマシだ。


奴らは間違っている、そんなことは言わない。それが例え俺の中で間違っていても、世間では模範回答の青春だからである。ただ、俺はこんな青春だってアリだと思うのだ。青春の過ごし方に、正解なんて必要ない。若い自分が過ごしているこの時間こそが、唯一無二の自分だけの青春なのだ。だから、全国のぼっちさん!諦めないで!


全国のぼっちさんにエールを送ったとろで、俺の世界をぶち壊すには適度なドアのノック音が響いた。


「夜空ー。入るぞー」


間抜けな声が、部室内に響く。逢坂だ。


「返事くらい待ってから開けろよ…。アンタは思春期の息子を持つ母親かよ」


本当に、返事も待たずにドアを開けるのはやめて欲しい。べ、別に、Hな本なんて読んでないんだからねっ!男子ならば、警戒しなければならない母親の行動と言えるだろう。


「で、何っすか?レポートなら、あと少しで終わりそうですけど…」


「レポートの件じゃない。言っただろう、話があるって」


ああ。確かそんなことを言ってたような気がしないでもないな。しかし、何の話だろうか。数学のテストの件以外に、俺がミスや関与した事件は起こしてないはずだ。


「心配するな。今回の件は、別にお前が何をしたかは関係ない」


「はぁ…。じゃあ、なんっすか?金銭の話?」


「俺は生徒に金を借りるほど困ってねーよ。困ってねーよ」


「何故に二回も言ったんだよ…」


逢坂は一つ咳払いをし、空気を元に戻す。


「話の前に聞きたい事がある。お前は、集団の中に入る事が不快に感じるんだよな?」


逢坂が少し真剣な瞳になったので、こちらも少し真剣に答えてしまう。


「不快というよりは、否定ですかね。別に、必ず集団に属さなければならないって言う法律があるわけでもないのに、孤独がダメだと世間に認識されているが嫌なんですよ」


だってそうだろ?人間、母親の胎内に宿る時も一人だし、死んで墓に入る時も基本一人。始まりも終わりも孤独であるのに、それが否定されるのは間違った価値観だと思う。


「まぁ単純に、そうやって生きた方が楽というなもありますが」


人間関係は、必ずどこかで縺れる。そして、いつかは壊れてしまう。ならばいっそ、最初から作らなければいい。それが神山夜空の信条だ。当分変える気はない。


「そうか…」


逢坂は簡単な返事を返した。あっちが真剣な雰囲気を出したため、こっちも真剣に答えたのに何だその答え方は。ちょっとイラついた俺が、声を上げようとした刹那。逢坂が先に話し始める。


「だかな夜空。人生っていうのは、必ずや何処かで集団に属さなければならない日がやって来るんだ」


そりゃそうだろうよ。逢坂は話を続けた。


「それが今日だ!!」


「……へ?」


俺の思考が停止した一瞬を見逃さず、逢坂は間髪入れずに話す。


「というわけで、入部希望者を連れて来た」


入部希望者ねぇ…。入部希望者…。入部希望者…?入部希望者…!入部希望者…‼


「…いやいやいや‼必要ねぇよ文芸部だから!むしろ、これ以上は要らないから!」


俺は直様否定のポーズを取るが、そんなことお構いなしに、逢坂は一人の女子を連れて来た。こういう場合、漫画やアニメの主人公ならば、美少女などが入部して来るのだろうと思った刹那。俺は、もしかして、主人公の素質を持っているのかもしれない。



なぜなら、逢坂に連れて来られた入部希望者は、とてつもなく可憐な美少女だったからである。



…まぁここで、彼女が転ばなければ、ラブコメ一直線だったかもしれないが。



※※



俺は目の前の光景に、動揺した。困惑した。転んだ刹那、彼女のスカート部分に視線が行ったが、タイツを履いている所為であまり見えなかった。しかし黒タイツはエロい。


もしもここで、人生経験豊富なジェントルマンや数々の青春を体験して来たであろうリア充のコミュ力ならば、直様フォローに徹していたであろう。

しかし、俺は一年間ずっと、同級生と喋らずに窓ばかりを見てた男だ。コンビニの店員さんに話しかけるのも一苦労だし、女子の転ぶ姿を見て話しかける勇気などあるわけが無い。俺は愛と金だけが友達なんだ。


(先生。なんとかしてください…… )


俺は先生にアイコンタクトを取った。俺と先生の瞳の間で、文字通りエアーメールが飛び交う。
















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